オイルなどがシールに対してどのように影響するか−その4


7)材料の種類と化学構造式

一般的耐性表(オイルシール用)
 
ゴムの種類 温度範囲(度C) 耐油性(難燃性
作動油を除く)
耐アル
カリ性
耐酸性 耐水性 耐候性 耐摩耗性
ニトリルゴム −40〜+125
水素添加
ニトリルゴム
−25〜+140
アクリルゴム −25〜+150 ×
シリコーンゴム −60〜+225 ×
フッ素ゴム −20〜+250
評価:◎=耐性がある。○=特定の場合を除き耐性がある。△=特定の場合を除き耐性がない。×=耐性がない。

なお、模型用グローエンジンの燃料メタノールニトロメタンと合成系オイル+添加剤の成分となっていますが
その中で使用されている「ニトロメタン」のオイルシールに対する作用に関するデータは現在のところありません。
またそこに使用されていると思われるシリコンゴムは収縮することは余りないですが、
極性基を有する化合物により膨潤する傾向があります。
したがいまして、強い極性基(ニトロ基)系化合物のニトロメタンは、その添加量にもよりますがシリコンゴムを膨潤させる
ことはありえます。ただし、シリコンゴムは燃料のメタノールに対して安定しております。

1.ニトリルゴム(NBR)
一般化学構造式:
ポリマー構造上アクリロニトリル基が増加すると、耐熱性、耐油性が向上し、ブタジエン基が増加すると、耐寒性が向上する。
使用温度範囲:高ニトリル(40%)では−20度C〜+110度C。
          低ニトリル(20%)では−40度C〜+100度C。
ケトンやエステルなどの極性溶剤には使用できないが、
自動車用として、オイルシール、Oリング、耐油ホース、ベルト等に用いられている。
耐熱向上がポリマー構造上難しいため、次のHNBRへ代替えされる傾向にある。

なお、鉱油系用目的になるため、ブレーキ用として使用する際にはだが、
現在のブレーキフルードがグリコール系のため、市販品としての供給はほぼない。
下記のスチレン−ブタジエンゴム(SBR)かエチレンプロピレンゴム(EPDM)になり
場合によってはシリコンゴムが使用されることもある。

2.水素添加ニトリルゴム(HNBR)
一般化学構造式:
NBRのブタジエンの二重結合を高度に水素化することにより、さらに耐熱性、耐油性、耐オゾン性を改良したもの。
さらに第3成分を共重合し、低温性を改良した製品もある。
使用温度範囲:−35度C〜+140度C。
NBRと同じ用途に加え、耐冷媒性、耐冷凍機油性から、エアコンの
コンプレッサー用リップシール、配管Oリングなどにも使用されている。

3.アクリルゴム(ACM)
一般化学構造式:
主成分がアクリル酸エステルで構成されており、エチレンの主査に極性の高いエステル基の側鎖を持っているので
汎用のジエン系ゴムに比べて、優れた耐油性、耐熱性、耐オゾン性を持っており、潤滑油用のシール材料として
広く用いられています。
機械的強度については、NBR、HNBRと比較して劣り、耐アルカリ性、耐水性も劣る。
水や一部エステル系合成油に対しては、著しく膨潤を伴う軟化が生じることがあるので注意を要する。
使用温度範囲:−30度C〜+160度C。
耐熱性、耐油性を必要とする、トランスミッション、デフピニオンなどの駆動機関連の各シールや、
鉄道車両の軸受けシール。またポリマーの分子構造の改良により、耐寒性が−40度Cにまで適用されるようになっている。
さらに加硫系が開発され、圧縮永久歪み性も向上し、Oリング、ガスケットにも用途を広げている。
図にあるCSMはクロルスルホン化ポリエチレンで7.で説明。

4.シリコーンゴム(VMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)
一般化学構造式:
シリコーン系ゴムはポリシロキサン骨格にメチル基が結合したメチルシリコーンゴムと、
フルオロアルキル基が導入されたフルオロシリコーンゴムにわけらます。
耐熱性、耐寒性、耐潤滑油性、耐水性に優れ、低硬度材料の設計が可能で、着色が容易であるが、
機械的強度が低く、潤滑油などの添加剤である酸・アルカリにより加水分解を受けやすい。
一般的には耐アルカリ性、耐水性は他のゴムより劣るといえる。
FVMQの場合はさらに耐燃料油性が優れているが、金属との接着性とコスト面が課題となっている。
使用温度範囲:−70度C〜+200度C。
耐熱水性や耐LLC性に優れるため、シリンダライナー用のガスケット、電装関連のコネクタガスケットのシール材に用いられてきたが
加水分解劣化の問題から、次のFKMに替わりつつある。
FVMQは耐燃料油性と耐寒性から、インジェクター、燃料関連のガスケットやダイアフラムへ適用されているが、
燃料油中の添加剤の影響も受けやすい為、注意が必要。

5.フッ素ゴム(FKM)
一般化学構造式:
フッ素ゴムはゴム材料中で最高の耐熱性を持ち、優れた耐油性、耐燃料性、耐薬品性も持っているが、低温性とコストの面で
まだ課題が残っています。2元系は、ビニリデンフロリド(VdF)と六フッ化プロピレン(HFP)で構成され、
3元系はVdFとHFPに四フッ化エチレン(TFE)で構成されている。
3元系の方が耐油・耐燃料性に改良が加えられた物です。
フッ素含有量は約66%〜70%ですが、含有量が増えるほど耐熱性と耐油性が向上し、耐寒性が悪化します。
使用温度範囲:−30度C〜+230度C。
主な用途は、ACM、VMQの代替えとして駆動関係用シール、を初め、耐熱性・耐油性が要求されるエンジン関係の
シールやインジェクターなどの燃料関係のシールなどで、
高性能・長寿命の要求から、フッ素ゴムの課題である耐添加剤性や耐寒性を改良した製品もみられる。
VdF、TFEとパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)を共重合した構造のものがそれで、
直噴用インジェクターのOリングなどに使用されています。
アミン系添加剤(無灰分散剤や清浄分散剤など)はエンジン油や燃料油に含まれていますが、
折り曲げ時のクラック発生の問題があるからです。

またさらなる耐熱性のため、TFEにプロピレンを共重合したもの、TFEにエチレンとPMVEの3元共重合体、
そして、パーフルオロゴム(FFKM)としてTFEにPMVEを共重合した300度Cレベルの耐熱性を有する製品も
出来ていますが、やはり問題はその使用コストになりそうです。

6.エチレンプロピレンゴム(EPDM)
一般化学構造式:
EPDMはエチレンとプロピレンの共重合体に、架橋サイトとして第三成分の二重構造を持つ不飽和基を
少量導入した構造になっており、ポリマー分子鎖に二重結合を持たないため、
耐オゾン性、耐熱性に特に優れた特性を持っています。
使用温度範囲:−50度C〜+150度C。
鉱油系潤滑油に対しては耐性を持たないためエンジン、ミッションなどには使用できないかわりに、
耐水蒸気性、耐寒性、耐LLC性などの耐極性溶液性に優れるため、
ラジエター用、ブレーキ液用のガスケットやシールに使用されています。

7.クロロプレンゴム(CR)、塩素化ポリエチレン(CM)、クロルスルホン化ポリエチレン(CSM)
般化学構造式:
構造中に極性基である塩素原子(Cl)を含み、エチレン基の微結晶により機械的強度、耐屈曲疲労性などに
優れるが、結晶化しやすい性質が問題となることもある。
CRはクロロプレンを乳化重合して作られ、CMはポリエチレンに塩素を、CSMは塩素と亜硫酸ガスを
導入して作られる。
主鎖中に二重結合がないCM、CSMの方が耐オゾン性、耐熱老化性に優れるが低温性がやや劣る。
使用温度範囲:CRでは−40度C〜+120度C。
          CMでは−40度C〜+130度C。
         CSMでは−40度C〜+130度C。
自動車用としては、フロントガラスの窓枠、ワイパーブレード、ドライブシャフトなどのブーツやダストカバーなど。
また、塩素含有が環境問題に影響を及ぼす懸念から、最近注目されている
熱可塑性エラストマー(TPE)への代替えが進むと思われる。
特に等速ジョイントブーツにはポリエステル系TPEが主体として選ばれている。

※TPE:常温ではゴム弾性体の性質を持ち、熱可塑性プラスチックのような成形が可能な材料で、特徴として
1.弾性率や材料硬度が加硫ゴムとプラスチックの間の領域を持ち、
2.熱可塑性プラスチックの成形装置を利用して作ることが出来、
3.リサイクルが可能である。
となるが、欠点としては
1.特性値の温度依存性が大きい。
2.残留歪みが大きく、応力緩和やクリープ現象を生じやすい。
3.ハードセグメントが結晶相出ない場合、耐溶剤性が低い。
8.エピクロルヒドリンゴム(CO)、エピクロルヒドリン−エチレンオキシドゴム(ECO)
一般化学構造式:
耐油性、耐熱老化性、耐オゾン性、ガス透過性に優れています。
自動車ではガソリンホース、ダイアフラム材などに使用されています。
9.スチレン−ブタジエンゴム(SBR)
一般化学構造式:
ブレーキ液などの極性の液体には優れた耐性があるため、各種ブレーキ用シール剤として使用されてきました。
現在は耐熱性が劣る点から(限界温度120度C)、EPDM(限界温度150度C)へ変わってきています。
10.ブチルゴム(IIR)
一般化学構造式:
ガス透過性が各種ゴム材料のなかで最も小さく、衝撃吸収性が大きく、
物理的強度、耐候性、耐熱老化性、耐オゾン性に優れています。
自動車用としては、再処理用にテールレンズなどの雨漏れ防止用ゴム、ドア内張り内部のビニール接着剤など
としても使用されています。

11.ウレタンゴム(AU)
一般化学構造式:
ゴムとプラスチックの中間領域を埋める弾性材料として、高硬度・高弾性の性質が特徴とされています。
機械的強度が高く、耐摩耗性に優れ、反発弾性、耐油性、耐オゾン性、耐加重性、低温性などの特性も持ちます。
ポリウレタンエラストマーとして、各種用途に合わせ、製品が開発されています。
 

工事中です。

<資料「これでわかるシール技術」NOK株式会社編、工業調査会発行。>

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