本格的に研究されたのは第一次石油ショック以降で、エクソン、モービル、
アモコ、テキサコ、などがオイル添加剤として、
添加剤メーカーのバンダビルド社、ルブリゾール社、エルコ社が新しい有機モリブデン
の開発研究に入りました。
日本では、旭電化工業梶A三洋化成工業鰍ェ開発研究を進め、商品化しています。
つまり、有機モリブデンも開発途上であり、商品としても性能の差があると言うことです。
1)硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン
2)硫化オキシモリブデン・ジアルキルジチオリン酸塩
モリバンA | モリバンL | |
物理的形状 | 粉末 | 液状 |
色相 | 黄色 | 暗色 |
密度25度C | 1.58 | 1.08 |
粘度100度Ccst | − | 9 |
引火点度C | − | 165 |
●図1.MoDTCとMoDTPの振子型摩擦試験機による評価(摩擦係数の評価−下がるのがわかる)
●表1.高速四球試験機によるMoDTCの評価(油温の上昇の評価−上がりにくい)
添加剤 | 濃度(ppm) | 摩耗こん | 上昇温度−度C |
MoDTC | Mo 300 | 0.452 | 15 |
ZDTP | P 500 | 0.429 | 27 |
なし | − | 0.670 | 42 |
注:基油−150ニュートラル、回転数1500rpm
荷重−32Kgf、油温80度Cに予め設定後測定、測定時間30分
●表2.シェル四球試験機によるMoDTCの極圧性の評価(溶着−ロックするまでの荷重が上がっている)
添加剤 | 濃度(%) | 溶着荷重(kg) |
MoDTC | 3 | 315 |
二硫化Mo | 3 | 250 |
ベースグリース−注 | − | 160 |
●有機モリブデンは熱により分解して二硫化モリブデンになります。
1回目は200度Cで脱アルキル化によりオレフィンを生成し、
2回目は295度C前後で残っている配位子が分解し二硫化モリブデンを生成します。
●酸化防止性についてはZnDTPと類似する過酸化物分解型です。
酸化防止効果があります。
Moは産出国のかたよりがあり(アメリカなど)、資源としては希少の部類に入ります。
あと50〜60年位しか無いものと思われます。資源の少ない国として確保が必要とされる鉱物です。
今後、研究開発が進み、品質改良されて、水系や合成油系にも使用出来るようになれば、
省エネの面からも MoS2と共に利用価値が高まるものと思われます。
有機モリブデンが添加剤として使用されているのは、20世紀までではほとんどが北アメリカ製オイルか
日本の低粘度オイルとなっています。
ACEA規格のオイルの場合ZnDTP系の添加剤が主流で、二硫化モリブデンは使用されることがありますが
通常は5w−40あたりのオイルでも使用されてない傾向にあります。
生産国がアメリカと日本である事もひとつの理由ですが、
生産コスト削減などが進み、将来的にはヨーロッパ製オイルにも入れられる傾向と思われています。
規格などによって添加剤の違いがあると言うのも興味深い事と思います。
また、アデカ(旭電化工業梶jさんの資料から、現在、より大きい油溶性のミクスチャーMoDTCや
非リン、非硫黄系のMo−アミンコンプレックスのモリブデン化合物の開発に成功しています。
Mo自体、人間の体内では必要な重金属ですが、ほんのわずかです(特に肝臓に0.2mg前後)。
有機モリブデンの商品が数多くある以上、それぞれのデータを見る必要がありますが、
一般的には、まず、毒性の低い化学物質とはいえます。
多量に摂取すると、貧血、不妊、骨粗鬆症などが起こり、また銅と拮抗関係にあるため、銅欠乏症がおきます。
一応、発がん性ではありませんが、オイルの方に発がん性(皮膚ガン)がありますので注意が必要です。
有機モリブデンはオイルのない状態か、分子レベルで800度Cから1000度Cになって
初めて効果が出てきます。
金属が触れ合う接点下で、金属が溶けるレベルの温度近くになって反応を起こすため、その”配合量”はごく僅かで済みます。
(逆に添加量が多い事の方が悪い場合もあります。)
結果として二硫化モリブデンに変化したとしてもわずかな量にとどまります。
反応しない分はオイルに溶け込んでいますので、必要に応じてしか固体に変化しません。
(高熱部金属には摺動部でなくとも反応することは上記に記載しています。)
ですから、二硫化モリブデンのように沈殿したりしないということになり、オイルにとっては”ゴミ”扱いされないわけです。
(ただし、コストが高いことと、3000−5000kmぐらいで摩擦低減効果が無くなってしまうことが今後の課題でしょう。
もちろん役目を果たした有機モリブデンは固体の二硫化モリブデンに変わるわけですから、劣化成分として扱われます。)
基本として自動車メーカーでは、添加剤として二硫化モリブデンのような「固体潤滑剤」
(”セラミックス”や”テフロン”なども含まれます。)を使用しての エンジントラブルについては保証していません。
オイルより重いためオイルパンに沈殿したり、ジャーナル を詰めてしまったりするからだとも言われています。実際にそういう例もあったそうです。
二硫化モリブデンはグリースにとっては分離したり沈殿したりしにくいので効果的なのですが、 オイルにとってはまるでゴミ扱いです。しかしこれにはユーザーの責任もあります。 ほとんどの場合、効果ある使用量よりも”多く入れすぎている”からなのです。