エンジンオイルの基礎知識

(添削の為、記述が変わることがあります。)

このページの目次
1)ベー スオイル
2)オ イルに入れる添加剤
3)代 表性状の見方
4)規 格の見方
5)オ イルの役割と劣化の見方

6)オ イル分析例

7)オ イルや添加剤の歴史

カタログデータの見方

エンジンオイルはベースオイルにいろんな添加剤を混ぜて作られています。
大体は20%以下ですが、30%以上含まれるものもあります。
添加剤の種類は 少なくとも10種類くらいは使用されています。
個々の添加剤1つ1つを数えると25製品以上も使用しているオイルもあると聞いています。
0w-20とか20w-60とか、大きく粘度が違うオイルがあるのは
異なる粘度帯のベースオイルが何種類も作られているからです。
違う粘度帯のベースオイルでのブレンド割合や
1つの場合でも異なる粘度帯がオイルの基本的な粘度帯を決めています。
それをもう少し広いレンジにするとか、あるいは高品質にするために添加剤が使用されているわけです。
ですからノンポリマーオイルといわれるタイプはベースオイルの粘度にかなり依存しています。
エンジンオイルはベースオイルに添加剤を加えた形で販売されており、通常はこの2つを分けて考えることはありません。
”オイルが劣化した”と感じるのはもちろんオイル自体の劣化もありますが
基本的にはベースオイルの方が寿命が長く、オイルに含まれる添加剤成分が劣化する事により
交換の必要性が出ると考えていいと思われます。
特に粘度低下に関して、ベースオイルはその分子が切断されて粘度低下することは無く、
添加剤のポリマーのせん断(と未燃燃料による希釈も大きいですが)で粘度低下が起こる為、
せん断安定性の優れた添加剤を含むオイルが選ばれる傾向にあります。

1)ベースオイル

最初の植物油というのは現在ではレース用車の1部に使われています。
フリクションロスが少なく、油膜強度は合成油より優れ、潤滑性能が高いのですが、酸化が早く、
一般用として長期使用にはむきません。
そのために原油から精製して 取れる鉱物油が一般的に使われてます。

原 油も植物由来の物かもしれませんが エンジンオイル用としては安定しています。
けれどもイオウ分、ロウ分などオイルとして有害な成分も含まれており、原産地によってもかなり品質の差があります。
最近の省燃費・環境対策の厳しい要求を求められるエンジンオイルとしては、
鉱物油ベースオイルよりも性能が優れた化学合成油が使用されています。
高性能となるようオイル用として専用につくってしまったのが合成油というわけです。
ただコストが高くつくので、一般的には鉱物油と合成油をブレンドした 半化学合成油(部分合成油)などが主流です。

米国のように高度水素化分解油VHVIを合成油とする場合の表示は
ベースオイルがVHVI100%の場合も、VHVI+PAOでもVHVI+PAO+エステルでも
100%合成油と表示されるようです。日本のメーカーもこれに習う事があり、
表示されている「100%合成油」がPAOとエステルのベースで無い場合がよくあります。
なお合成油はPAO(ポリアルファオレフィン)、高度水素化分解油VHVI( Very High Viscosity Index)、エステルの3種に代表されますが、
現在はPAOが主で、今後エ ステルとなるのではないかと思われます。
なおここではもう一つの合成油AN(アルキルナフタレン)は取り上げないこととします。
鉱 油と合成油との特性の比較はこちらで。
また、鉱物油と合成油の解説として下記をご参照ください。

原油を精製していくと重油、軽油、灯油、ガソリン、ナフサというように、 蒸留温度によって分かれます。
エンジンオイルは重油の部類となり、(ですから廃油などは精製して船舶用燃料にもなり、)
減圧蒸 留装置で製造されています。

化学合成オイルはガソリンの成分ともなるナフサの成分であるエチレンの重合で精製されています。
また、鉱物油の精製においてはオイル成分の品質が非常に問題となります。

1990年よりも前のAPI:SGまでのグレードしかなかった時代には、
化学合成ベース油があまり普及していなく、値段も高価で、
しかもオイルに添加するための添加剤自体もあまり研究が進んでいない時代でした。
(実際にはこの時代の添加剤に今の普通に販売されている「エステル」が入っていた製品もあった程で、
確かに当時の鉱物油にエステルを入れますとエンジン音も静かになるというような時代だったわけです。)

このような時代背景を持つオイル環境では
鉱物油の成分の影響が大きく、
特にペンシルベニア産原油はパラフィンリッチ(粘度指数が高い)といわれ、エンジンオイルに適する原油でした。
粘度指数でペンシルベニア産原油を「100」としているのはこういった理由からのものです。

オイルに向く良質の原油からオイルとして「厳選」した成分をベースにした 鉱物油は”超精製油”とも呼ばれ
昔は通常の鉱物油に比べますと高価でしたが、
普通の添加剤量の多いタイプと比較すると寿命が長く、劣化が少なく、
現在の化学合成オイルにひけを取りません。
ただそれでも最新の0w-20などのような省燃費型や低粘度オイルには鉱物油は向きません。
パラフィンベースオイルという言葉にこだわっている方もおられるようですが
世界的にはパラフィン基原油が圧倒的で99%以上だと推測しますので、
現在は鉱物油にこだわる理由は、特に出てこないように思われます。
ただし鉱物油にこだわる方が問題とするのはエンジンとの相性になり、
どうしても主観が入ってしまうのですが、
エンジンフィールの事だと思いますが・・・。
これも大切といえば大切な事柄ですね。
ベースオイルの分類は下記に記載していますが
グ ルー プ範疇I,II,IIIの鉱物油(最下段)であれば、
鉱物油が化学合成油と比べ安定しているとは言い難いのは
上記鉱 油と合成油との特性の比較に記載しているデータからも分かります。
なお、摩擦係数から見ますと、添加剤をいっさい加えていない場合は100%合成油のPAOは
普通イオウ分を含む鉱物油より摩擦係数が高くなり、PAO>鉱物ニュートラル油>エステルとなるようです。
またどんなに温度調整して何度か精製しても、
天然材料は少なからず不純物
(ナフテン系、芳香族系基油を含有しているため耐熱性に難有)を含んでいる事が多いので
耐熱性に問題を生じます。

また上記の表から分かるとおり
化学合成油の粘度指数は120以上で、添加剤の量についても多くて30%以内と思われます。
更に化学合成油は合成して造られるため不純物を含んでいませんので、
添加剤の添加効果が鉱物油よりはるかに優れています。

エステルはご存知のように植物油(特にパーム油)を精製し、
多価アルコールと反応してできた「脂肪酸エステル」と呼ばれるもので、
炭化水素であるパラフィンとは全く分子構造が異なります(パラフィンは-C-C-、エステルはR-COOR)となります。

2)オイルに入れる添加剤 だいたい上記5つの添加剤が入ってます。 詳 しい種類はこちらで

1.酸 化防止剤と摩耗防止剤

石油留分から過度に精製したホワイトオイル(芳香族炭化水素や硫黄、窒素、酸素原子などを含む極性化合物を全く含まない)などは
それらを含む鉱物精製油より遙かに酸化しやすいので、この事から硫黄系化合物の酸化防止効果が研究されるようになりました。

 ジ アルキルジチオリン酸亜鉛(ZDTP) のようなものが代表的です。減摩作用と抗酸作用をします。
チオ燐酸化亜鉛系の添加剤は有機金属で物体間の摩擦点にフィルムをつくりますが、 ファ ンデルワールスの結合の法則に従い、
簡単に剥離、変動し、安定性に欠けます。 (砂の塊を強く握ると砂の粒に砕けてしまうぐらいのくっつき方)

 ZDTPに含まれるアルキル系物質の内容によって196度C に高温側は耐えられるようになるのですが、
これぐらいの高温特性では チオ燐酸化亜鉛系物質を急速に劣化させてしまうので、
定期的にオイル交換して 取り除きます。亜鉛もそうですが、
それ以外にアンチモンやモ リブデンを使った 減摩剤がありますが、これらは重金属です。オイルは決して個人で処理しないでください。

また、有機燐酸塩や有機硫黄、窒素、フ ロロカーボンテ フロン、なども ありますが、
これらは流体潤滑の低負荷域には有効です。

2.清 浄分散剤≒酸処理剤

 清浄分散剤は清浄剤と分散剤に分類されますが清浄剤は燃料から発生するNOxやSO3のガスなどを中和 するためのもので す。
(NOxやSO3のガスは結果として硝酸・硫酸になり、錆びや腐食の原因となりますから)
分散剤はポリマー系でスラッジや添加剤の成分などの劣化したものを
金属面から洗い落とす”拡散剤=洗浄剤”としての役割もしています。
洗浄力はオイルの 性能に深く関係します。
カルシウム系の添加剤(CaスルホネートやCaフィネート あるいは、Caサリシレート)がよく用いられています。
 

3.粘 度指数向上剤=粘性維持剤

 温度変化がオイルに与える影響を少なくする添加剤です。
メーカー指定より 固めのオイルを 入れる人がいますが、せん断安定性の低い粘度指数向上剤が使用されたオイルでは
時間と共に粘度はなくなります。
通常のベースオイルの粘度は「10W」以下の巾の結構さらさらのオイルですから
高温下では油膜の保持が難しくなります。
なお、100%合成油のPAOでも5Wとか10Wのシングルベースオイルがありますが
ノンポリマーと呼ばれる場合は元々のベースオイルの特性が5w-30や5w-40、50に当たるような
オイル粘度を
したがって 固いからと言ってそんなに長持ちするとは限りません。
ポリマー主体ですから長期安定性を求める場合は、剪断安定性の良好なオイルを選ぶ必要となりますが
そう言った数値は一般的に公開されていませんので
粘性低下などは規格に入っておりますので、ガソリン車なら
SL、SMなどというように高いグレードのオイルを選ぶことで、ある程度の判断が可能となります。
また、温 度粘度表ではこちらにあります。

4.消 泡剤(=抗泡剤)

 エンジンのクランクケース(オイルパン)内部はオイルが激しく撹拌されて 泡立ちます。
泡の発生はオイルの酸化を早めます。それで泡立ちを抑えるために 入れています。
ビールは冷たくてもその泡はそれほど冷たく感じません。つまり 泡があると熱量を逃がせないのです。
泡では冷却効果が薄れ、油温上昇につながるためにオイルには入っています。
ですから冷却液のLLC(クーラント)にも含まれています。

また、オイルは機械的圧力によって各部へ潤滑するようにしていますので、泡が 潤滑不良の原因ともなります。
消泡は、泡消し剤が泡に吸着し、泡を形成する物質を泡から押しのけるか、
分子間に割り込んで分子間の結合を弱めることが必要です。
泡の発生を抑制したり、発生した泡を破壊したりする添加剤がありますが、
現在はシリコーン油が1-100ppmの添加量で消泡作用があり、基油の特性を損なわない点で、 最も良く使用されてます。

5.流 動点降下剤=(流動点改良剤)

 低温になるとオイルに含まれるロ ウ分が順次結晶化していきます。
かなり冷やすと 粘度は急激に上がり最後には固まってしまいます。
そのため出来るだけ使用する地域に合うよう低温側の流動性を向上させるために入れてあります。
オイルを冷却した時に、オイルが流動する最低の温度を流動点といいますが、
おいるの流動点測定方法はJIS K 2269で規定されています。

作用はロウ分が網の目状に成長する過程でロウ結晶表面に吸着するか、
ロウとともに結晶化して網目構造の成長を抑制することによります。
塩素化パラフィンとナフタレンまたはフェノールの縮合物、ポリアルキルアクリレート、
ポリアルキルメタクリレート、 エチレンと酢酸ビニルの共重合体、アルケニルこはく酸誘導体などがあります。
(オイルだって夏用、冬用の区別はありますが、普通はオールシーズン用を 使っているので5W-40なら問題なしです。)

6.その他

防錆剤・腐食剤・抗乳化剤・耐摩耗剤・極圧剤・摩擦調整剤等々それぞれの用途に使用されま す。
多機能化により機能が重なる添加剤も増えてますが、それぞれの成分の併用によって相乗効果がも たらされるように
ブレンドされています。
それぞれ目 次などから調べられるようにしています。
 

3)代表性状の見方
 

1.引火点

 オイルは石油製品ですので、熱くなるとその温度に相当した蒸気を出します。
その蒸気=ガスと空気が混合してどの位の温度になると火種に反応して引火= 爆発するかをみます。この場合はすぐに火は消えます。
分離用の2サイクルオイルは70度C~200度C未満の第三石油類に入りますが
普通言われるエンジンオイルは200度C以上の第四石油類です。
火が消えずに燃え続ける温度は引火点より7度C~10度C高く、燃焼点といい ます。
紛らわしいのは、引火点はよそから火種があってはじめて燃焼=爆発 するのですが、
それ自体が自然に燃焼する場合を指す発火点=着火点とは全く 別物と言うことです。
(例えばディーゼルエンジンの燃料の爆発=燃焼がこれにあたります)

2.粘度cSt(40度C、100度C)

 粘度と密度の比を動粘度といいます。潤滑油の場合、SI単位ではmm2/sで示されます。
一般的にはcStが良く使われますが、両者の数値の間には違いが無く同じとなります。

cStはセンチストークスとよみます。同じ銘柄のオイルを使っていても、
エンジンは寒い冬の時の方が、暑い夏 より重く感じられます。
それは、オイルが暖まるまでの時間の差でもありますが、 オイル自体、温度によって、
かたさ=粘度=内部抵抗が変わるからです。

どのオイルにも40度Cの時の粘度と、100度C時の粘度が書いてありますが、
どう読んだらいいのか解りにくいものです。大ざっぱに言ってしまえば、 40度Cの時はエンジンが暖まってないときで、
100度Cの時は暖まっている ときと考えて、今使っているものと比べ40度Cで大きな数字がでていれば
今より走り初めは重い、逆に小さければ軽い。100度Cで大きければ、
暖まって からはオイルの油膜がしっかりくっついている、小さければ油膜が少ないという ことができます。
けれど自分の車の馬力、排気量、使用方法によって最適な数値 を読みとるには、かなり難しい事のように思えます。
かえってSAE、API などの規格を参考にした方がいいでしょう。

なお、CCS粘度で表されるマルチグレード油の「W」側のグレードの数値は、
低温時のクランクシャフトの動きにくさと相関ある粘度測定法とされ表されています。
また、HTHS粘度は粘度指数向上剤の高温での増粘効果がせん断により低下するため、
軸受けメタルの摩耗量が増えるため、省燃費性マルチグレードオイルの増加に伴い測定されるようになりました。

3.粘度指数 VI

 オイルの粘度が、温度によってどれぐらいが変わるかを表したもので、 粘度指数の大きいオイルほど品質が優れています。
余談ですが、とある有名オイルメーカーの研究者は”いくらでも高い粘度指数 のオイルは出来るのですが、
コストが値段に跳ね返ってしまうし、ガソリンを 使っているから・・・”とのこと。
つまりエンジンの燃焼室で燃えなかった ガソリンがオイルを薄めたり、
燃えた老廃物が大量にオイルに混じって しまうので、いくらいい、長持ちするオイルを造っても、
オイル交換は必ずしなければならないということらしい。 ちなみに、鉱物油では普通100~140、合成油では140~190ぐらいです。
※ただしこれらの数値は「粘度指数(VI)向上剤」が添加されての数値です。
 ベースオイルは100%合成油のPAOやエステルでも120~140、高度水素化分解油で120~135程度となります。
 ですから鉱物油でも140ぐらいある製品には当然「粘度指数(VI)向上剤」が含まれてそうなっていると判断することが
 正しくなります。なお詳しくは上記粘 度指数向上剤で。

計算の仕方
(現在は粘度指数が高いためこの計算式は使用されていません。たぶん誰も計算しないでしょうが念のため)

ペンシルバニア産潤滑油をVI=100
ガルフコースト産潤滑油をVI= 0
とします。

S100:調べるオイルの100度Fでの粘度
S210:調べるオイルの210度Fでの粘度

H:ペンシルバニア産潤滑油210度Fでの粘度  
L:ガルフコースト産潤滑油100度Fでの粘度 
とすると 
          〔L/S210〕-〔S100/S210〕        L-S100     
       VI=━━━━━━━━━━━━━━×100=━━━━━×100  
          〔L/S210〕-〔H/S210〕           L-H  
 

100度F=約40度C、 
210度F=約100度C

しかし、上記のVI計算式では100以上のVIでは、適切な「粘度-温度特性」が 表せないため、下記の計算式が適用されます。
 

        〔Anti log N 〕 - 1    
VIE=━━━━━━━━━━━━━━+100
     〔0.0075〕      

    log H -log U  
N= ━━━━━━━━━━━━━━
       log Y

VIE=粘度指数。
H=上記と同じ。
U=試験油の40度Cの動粘度。
Y=試験油の100度Cの粘度。

4.流動点 度C

 寒さに対して、オイルがここまでなら固まらないという温度を表しています。 車のエンジンはオイルの潤滑しない状態では走れません。
オイルはエンジンの一番下にあるオイルパンにたまっていて、ポンプで 上まで持ち上げてますので、
かたまっていたらオイルがない状態と同じ ことになります。
オイルの低温流動性は、流動点とは別にCCS粘度試験とMRV粘度試験で評価されます。
ベースオイルが物油なのか部分合成油、あるいは高度水素化分解油なのかPAOなのかは
このあたりの数値である程度分かり、
流動点に関しては添加剤の効果も相まって-50前後がPAOでは出やすい数値になります。
低温側-45度以下ならおおむね100%合成油という表記では「PAO」主体、あるいはエステル系と見なして、
それ以下の-40度以上ならHIVI合成油主体と見ても良さそうに思われます。
なお鉱物油だけの場合は-35度前後ぐらいまでの低温対応になるように思われます。

5.全塩基価(TBN)mg KOH/g

 オイルに含まれる酸や塩基の量を表します。オイル1gを中和させるのに 必要な(水酸化カリウム)=KOHのmg。

6.ホットチューブテスト

 オイルは高温になると炭化したり、スラッジなどをつくったりします。
使用目的やガソリン車・ディーゼル車で要求度も変わりますので
オイルメーカーにより試験温度・方法もは変えて評価されることもあります。

ガラスの管を熱して、280度C~300度C(JPI 5S-55-99の規定では280度C)にオイルがなるように
1時間で0.3mlずつゆっくり(1分で10ccの空気で)おしてゆきます。
16時間試験をし、ガラス管に付着するの汚れ具合をみれば、
そのオイルの耐熱性、洗浄分散性などがわかります。

評価カラーで点数がわかりますので当てはまる色から点数を判断します。
評価点は0から10までの数字で表され、高い方が良いことになります。
通常のメーカー純正油では評価点は4前後ですが通常使用で大丈夫な範囲です。
ディーゼルなどでは油温280度CでDH-1・DH-2・DL-1の規格合格は7.0以上となります。
ガソリンターボ車などは6以上あるとかなり良いのですが
この点数は清浄分散剤が多いと良い評価点になりやすいのですが
逆に極圧性能は下がりますし、その逆に極圧性能が良いと清浄分散性が悪くなると言う一般的な
添加剤の相反する傾向があります。

局所に高熱がかかる場合に有効な試験と思われますので
相当高温になるタービンを持つターボ車や、長時間走行のGOーSTOPを繰り返す車両には
評価があまりにも低い点数のオイルは積極的には薦められない事になります。

ただし、API規格とは別の試験ですから、通常の通勤程度なら評価自体は悪く出ても
それほど問題が発生すると思えないテストとも言えます。

なお、スラッジの出来方は一般的なオイルでは鉱物油・VHVIはヘドロ状になりやすく
PAO系はカーボン皮膜のようにどちらかというと粘土的、
エステル系は少し薄い膜状で剥がれにくいタイプとなるようですが、
他の添加剤成分との関連で違って出来てくる事もあるようです。

各社それぞれ、新製品の開発などのためテストしているので、
一般には 比較結果を知ることは難しいです。
(もちろん他製品と同じでオイルメーカーは独自で比較調査をしています)

以下のテストも同様です。

7.せん断(剪断) 安定度テスト

油膜の保持(油圧計がついている車に乗っている人には、油圧といった方が わかりやすいでしょうが)を調べて、
オイルの長期性能保持性を判断します。
普通、オイルに10KHZの超音波を30分かけどれだけ粘度が劣化したかを 調べます。
あるいはボッシュ試験器などで試験されるわけですが
このテストではオイルのロングドレイン性能に関わるものとなります。

安定性が極端に低い場合は長期間走行などに使用しない方が良いと思われます。
この測定はボッシュ試験器などで油温100度Cで試験されるわけですが
通常はSM規格であれば、粘性劣化は5%ぐらいであるはずと思われます。
劣化度が10%を超えるとかなり悪いと言え、SL規格などはその範囲の物もあります。
SLの平均的な市販ディーラーオイルでも9%以下というデーターもあります。


剪 (せん)断安定性についてはこちらで 考えてみました。

8.パネルコーキングテスト

 オイルの酸化度や清浄性を調べます。アルミ板だけを315度C~320度Cに 熱し、3~8時間オイルをはねかけ、
アルミに付着したカーボン量を調べます。

9.その他

 酸化安定度テストやチムケンテスト・ファレックステストなどの耐荷重・摩耗 テスト、
摩擦係数試験など各メーカーそれぞれが独自に開発したテストを行って います。
もちろんその成果はレースなどで試され、一般のオイルへフィードバック されます。
機械機器については”社団法人潤滑油協会”のホームページ
に 詳しく出ていますので参考にしてください。

4) 規格の見方

 各社各様のテストを統一し、同じ基準で、性能別にランク付けしようとした ものが、次にあげている規格です。(それにしても多いなぁ)

  • 1.SAE(米 国自動車技術者協会)・・粘度の分類
  • 2.API(米 国石油協会)・・・・・・グレードの基準
  • 3.CCMC(ヨー ロッパ自動車製造者協会)・・グレードの基準2.のAPIへ(対比表)(1991年までの旧規格)
  • 4.ACEA2. のAPIへ(対比表)
  • 5.ILSAC(国 際潤滑油規格化認証委員会)・・省燃費性などの基準
  • 6.JASO(日 本自動車規格組織)
  • 7. その他の規格

  •  
    5)オイルの役割と劣化の見方

    1.役割
     
     

  • 1. 潤滑、減摩作用
  • 2. 密封作用
  • 3. 冷却作用
  • 4. 清浄分散作用
  • 5. 防錆、防食作用

  • ピストンとシリンダーのすきまは50~120ミクロン(0.05~0.12mm)あり そのすきまをオイルが密封し、潤滑し、
    あわせてピストンリングがピストンにへばりつかない ように、スラッジやカーボンを取り除いています。
    オーバーヒートを防ぐため冷却水の代わりに エンジン各部に行き渡り、各部を冷却しています。
    オイルやガソリンの酸化物や発生した水分など は金属を腐食させるため、中和剤などで錆や腐食摩耗を防いでます。

    2.劣化

     新油からのベースオイルの劣化は次の3通りによって起こります。

     添加剤は1と2での劣化を遅らせることが可能ですが、3の熱劣化に対しては防ぐことが できないといわれてます。

  • 1.物理的劣化
  • 2.酸化劣化
  • 3.熱劣化
  • 4.オイルとしての劣化モード
  • 5.オイルの劣化原因と性状変化
  •   1.物理的劣化

    機械的圧力などによって、オイル中の粘度指数向上剤(ポリマー)が剪断されて、その高分子は細かくなってゆきます。
    もちろん、ベースオイルも剪断されるわけですが、こちらの方は機械的なせん断作用を受けても、その分子が切断されて粘度が低下することは
    ほとんどありません。
    で、ポリマーなどの剪断によって、オイルはまず、粘度低下を起こしてゆきます。剪断が進むと、 油温が上がったときはっきり分かるようになります。
    オイルに粘度が低下して来る時点で多くのユーザーは交換していますが、 まだ次の段階へは深く進行しているわけではありません。
    (着色されているの色は、ZDTP酸化防止剤は茶褐色、清浄分散剤は暗褐色と聞いております)

      2.酸化劣化

    オイルは酸素の影響によってさらに酸化されることになります。普通、酸化の連鎖反応は、
    酸化防止剤が分解することにより時間を遅らせられます。 酸化したオイルは外気の水分を抱き込みやすくなってゆきます。

      3.熱劣化

    分解されたオイルは、エンジンなどの熱によって今度は熱重合へと向かいます。このまま使い
    続けてゆけば、水分を含んだオイルが酸素と熱により劣化し、分子量が段々大きくなってゆきオイルに
    溶けにくくなってゆきます。オイル中の分散状態から、泥状の沈殿物(スラッジ)へ変わり、
    固体状態のデポジットとなってゆきます。さらに劣化が進むとカーボンとなります。

     この事による不具合は、粘 度上昇(始動困難、油圧上昇)--オイルの潤滑不良(ポンプ焼き付き、 給油不良)
    ----カーボンによりベアリング、ピストン、カムの焼付きと進みます。

      4.オイルとしての劣化モード



    走行パターン 寒冷時の短距離走行 市街地走行 高速走行
    油水温 低--中
    油の主な劣化要因 ガソリン希釈。水分混入によるZDTPの加水分解。清浄剤炭酸塩の結晶化 未燃燃料のナイトレーション※、特に水分の多い低油水温条件下で顕著 高温自動酸化、基油蒸発
    劣化加速要因 水、有機酸 水、NOx、未燃燃料 NOx、燃焼ラジカル、酸素、高温
    油の性状変化 粘度低下。ZDTP消耗、塩基価低下 不溶分(スラッジ)生成 粘度増加、全酸価増加
    (資料:トライボロジストVol.43/No.9/1998/p27)
    ※ナイトレーション(nitration)・・・ニトロ化。分子内に-NO2基を付加反応や置換反応で導入すること。
    通常は濃硫酸と濃硝酸の混合液で処理することで行われる。多くのニトロ化反応は求電子置換反応で、
    ベンゼン環に対して求電子剤のNO2+が作用するのが典型です。
    (講談社、新・化学用語小辞典1993年版)

      5.オイルの劣化原因と性状変化

    劣化要因によりオイルの性状が変化し、それぞれの症状を引き起こすわけですが、
    結果として問題となるのは構成部品の摩耗ということになり、
    進行すると故障と言うことになり、修理代の増加やエンジンの寿命が短くなったりします。
    なお、酸化・熱劣化による潤滑作用の低下が主要因と思われますが、それ以外に
    冷却作用や燃焼ガスを密閉させる作用もあるため
    オイル全体としての劣化を見る必要があります。


    劣化原因 オイルの性状変化 不具合となる事柄
  • オイル自体の劣化

  •  
    酸化・ 
    ニトロ化・ 
    縮重合・ 
    添加剤の消耗
    粘度上昇・全酸価上昇 
    不溶分増加-すす・酸化劣化物(レジン分) 
    ペンタン・トルエンなどに溶けない成分の増加 
    全塩基価低下 
    粘度低下(主に粘度指数向上剤のせん断による)
    ピストンリングのこう着 
    油路閉塞(オイルラインを塞ぐ) 
    腐食と腐食摩耗増加 
    堆積物(スラッジなど)増加 
    摩耗増加
    オイル以外の外部物質混入による劣化 燃焼生成物の混入 
    (有機酸・水分・硫酸・窒素酸化物・すすなど)
    全酸価上昇 
    全塩基価低下 
    不溶分増加 
    水分増加
    腐食・堆積物の増加 
    油路閉塞 
    オイルの乳化

    燃料混入 粘度低下 摩耗増加

    摩耗粉の混入 Fe・Cu・Al・などの増加 オイル劣化を促進する

    粉塵の混入 Si(砂などの主成分)の増加 
    不溶分の増加
    摩耗増加
    なお、オイルとしての使用限界値は下記のようになりますが、
    オイルの補充や添加剤成分の補充で幾分かオイル交換時期を延ばすことも
    可能とされています。
     
    使用限界値
    引火点 40度Cの低下(ディーゼル車)
    40度Cでの動粘度 ±20%の変化(ガソリン車)、+25-40%の変化(ディーゼル車)・・・他資料参考:±25以内
    全酸価(最大値)と全塩基価(最低値) 酸価=2-3mgKOH/gの増加以内・塩基価=0.5mgKOH/g以上(ガソリン車) 
    同上3mgKOH/gの増加以内・1.0mgKOH/g以上(ディーゼル車)
    水分混入量(体積比) 0.3%(ガソリン車・ディーゼル車)
    燃料希釈率(体積比) 2.5%(ディーゼル車)
    オイル不溶分・鉄分 ペンタン不溶分A法0.3-0.4mass%(ガソリン車)以下 
    ペンタン不溶分B法3.0mass%(ディーゼル車):他資料3-4以下 
    鉄分最大量=250ppm(両方)

    (資料:トライボロジストVol.44/No.3/1999/p29-34;同46/12/2001/p29)

    使用オイルの油温でオイルは劣化が早くなる

    ラボデータの結果から見てみますと
    オイルの温度が90度あたりで走行しますと
    この温度あたりがもっともオイルの劣化の進行がゆるやかになります。

    90度以下では、温度が下がれば下がるほど劣化が早くなり
    油温が25度の状態で同じ時間走行した場合と
    反対に90度より高温の130度で同じ時間走行したの状態での劣化度は同じくらいで
    90度との比較でそれぞれ約1.3倍ほど劣化が早くなります。

    これは上記のとおり
    4.オイルとしての劣化モードと
    5.オイルの劣化原因と性状変化からも判りますが
    この「油温90度」の状態をキープしたままで時間的な劣化を標準としますと
    オイルが低温になる走行ではSO2と水分を 合わせた影響が大きくなりオイルは劣化します。

    反対に130度など高温では水分はオイル中に混入しにくい事もありSO2の影 響は少なく
    NO2の影響が強く出てオイルを劣化させます。

    また、新たに加わったデータでは
    オイルが低温から上昇した場合にも、通常の劣化に加えて、更に劣化が促進されることです。
    劣化の仕方は
    油温が低ければ低い状態で使われたほど劣化がひどく、
    その低温での使用時間が長ければ長いほどほど劣化がひどくなります。

    問題となるのは
    普段は短距離通勤や買い物走行などの走行の仕方や、
    あるいは真冬や寒冷地で油温が高くならず低温状態で走行していた場合です。

    データではこういった状態で急に高速走行などして油温を十分上がるように走りますと
    急激にオイルが劣化します。
    90度の油温での劣化度と比較しますと
    0度での使用状態から90度に上げますと約4倍劣化が促進されます。
    25度で同じように90度に上げますと約3倍劣化が促進されます。
    50度でも約1.5倍以上の劣化促進となります。
    25度と130度の油温状態でそのまま劣化するのが1.3倍程度ですから
    低温から油温の上昇が繰り返される走行が如何にオイルを劣化させているかが判ります。

    冬から春になった時点でオイルを交換する事も大切ですし、
    お買い物程度の使用でも長距離ドライブをされる前とか
    普段に始動ー停止を繰り返す車などのメンテナンスのご参考にしてください。

    また
    長期休暇などで長時間の渋滞や高速走行・山岳登坂走行などが想定される場合では
    オイル交換を先にするか後にするか悩むところですが
    オイルの交換時期が近い場合は
    帰ってからオイル交換されるのではなく
    出来ればメンテも兼ねてエンジンの為にも先にオイル交換をされてからお出かけください。


    (資料:トライボロジストVol.51/No.4/2006/p42-49)

    未使用車両のオイルの乳化例

    オイルの劣化状態を知る方法は
    外観の状態(=色、匂いや粘度など)を見る方法が
    一般的にとられます。

    けれども、通常は、比較など難しいので
    オイルフィラーかディップスティック(オイルレベルゲージ)で、目視して確認しています。
    あるいは、単純に、走行距離だけでも判断してしまいます。

    走行距離だけで判断した場合は
    オイルの劣化状態を下記のように見逃すことが多くなります。

    下記は走行約10km、未使用車両ですが、
    展示車なのか、エンジンを時々かけたり、短時間、短距離の移動を
    繰り返した、多少極端な例ですが
    劣化サンプルとしては非常にわかりやすい例になります。
     

    オドメーターでの走行距離は 「10km」
    オイルキャッ プに少し白濁した オイルが付着

    下記はオイルをドレーン抜きし、新しいオイルとどう違うのか外観だけで比較した画像です。
    左はPOLO5w-30新油、右は ATF新油
    左は1年未使用車両のメーカー純正新 車充填オイル、右 はATF新油

    左は1年未使用車両のメーカー純正新車充填オイル、右はPOLO5w-30新油

    ウエスに落として、汚れを見ますが、この走行距離でまして新車ですから
    汚れはほとんど無い状態とも言えそうです。

    ところが、ドレーンで抜いて、それぞれATF、新油、使用油と
    比較しますと、
    乳化がかなりひどくなっている事が分かります。

    つまり、
    このまま使用するには問題がありそうだと
    上記サンプルとの比較画像では判断できますが
    ただし、下記の白いペーパーウエスでは判断できないという事が分かります。

    エンジンに一旦入れて始動させますと
    燃焼ガスからの水分も大量に含んでしまいますので
    注意してください。

    普 通に使用している車でのオイルの乳化例
    エンジンをかければ、ガソリンが燃焼し、二酸化炭素、水蒸気、窒素酸化物、硫黄酸化物や
    燃えないで残ってしまったガソリン成分など、様々な成分が
    エンジンオイルへ取り込まれます。
      
      確かに、水分がオイルへ溜まりやすい傾向のエンジンがあるようですが、
    それでも、いろいろなオイルを使ってきましたが
    当方で使用しているオイルで、オイル交換時には25年間の間に起きたことが無く
    資料が添付できませんでした。

    今回は偶然ひどい状態に乳白色化したオイルをオイル交換時に見ることが出来ましたので
    紹介させていただきます。
    なお、
    オイル交換歴から、販売ディーラーでの指定オイルである事が分かりました。
    2011年7月14日オイルとオイルフィルター交換。走行距離51063km
    →2012年2月1日58424km(7361km走行ただしこの1ヶ月ぐらいは乗っていない状態でした。)
    で   ディーラーの交換指定距離は3000kmですので2.5倍ほど乗っていることになりますが
    途中に車検(23年10月)を受けていますので、オイル交換は既にしていた可能性があります。
    以下画像になります。



    少し、疑問に思ったので、エアクリーナーのふたを開けて見ました。
    驚いたことに、エアクリーナーの容器が水浸し。
    よく乾かし、再現するためウインドガラスに水を掛けると案の定、
    エアクリーナーの容器の上部に雨水が落ちて、
    変形したエアクリーナーの容器の縁から中へと水が入ってきていたのだと分かりました。


    経年劣化でボンネットとの仕切りの防水のゴムが効かなく雨水がエンジンルームに入るようになり
    もう一つエアクリーナーの樹脂が歪んで、その水をスロットルボディから
    吸い込んでいたわけで、
    条件が重なって、今回の白濁乳化の原因となったようです。

    今回はオイル交換に加え、
    その後エンジンルーム・エアクリーナーの防水修理も合わせて行いました。
    整備をしていますと、こういった何重にも重なる不具合の結果に
    驚かされます。

    もしも、そのままオイル交換だけで済ませていたら、再度起きていただけではなく、
    運が悪ければ、ウオーターハンマー現象が起きて
    バルブを曲げたりし、エンジン破損になっていたところでした。

    6)オイル分析例
    (分 析試験の項目・概要はこちらにあります
    1.使用オイルの分析

    使用オイル:ワコーズ、EXーシンセ(100%合成油。API:SJ/CF.SAE:5w-40.ACEA:A3-96/B3-96)
    使用車種:日産ローレルE-HC33/SOHC-6気筒2000cc(走行77970kmより実施)
    分析したオイルの使用期間と全走行距離:1999/12月より2001/1月まで=14ヶ月間。使用距離9633km走行
    使用添加剤GRP5%+燃焼改質添加剤(ベースは鉱物油)2.5%使用
    使用燃料:無鉛レギュラー
    使用プラグ:マルチエキサイトプラグ
    使用状況:通常は通勤15kmの繰り返し、渋滞多い(距離の約60%)。
           ツーリングする場合は2-4時間程度の連続高速走行(約30%)。
           その他(約10%)
    備考:ラジウム粉末テスト用エアフィルターの詰まりによるエアエレメント交換6000km走行時。
          

    性状.分析 新油(代表性状) サンプル(使用後) 備考
    引火点(C.O.C)、度C 234 126 引火点降下
    動粘度40度C、mm2/s 87.10 54.01 動粘度低下
      ” 100度C、mm2/s 14.17 9.873 動粘度低下
    粘度指数 168 171 粘度指数ほぼ変化なし
    全酸価mgKOH/g 2.68 5.57 酸価増加
    全塩基価(過塩素酸法)mgKOH/g 8.55 2.68 塩基価低下
    水分量(間接法)mass%
    0.189 水分混入量多い
    不溶解分(n-ペンタンB法)mass%
    0.37 増加
    金属分=鉄(Fe)mass%
    0.011
    金属分=鉛(Pb)mass%
    0.004
    金属分=銅(Cu)mass%
    TRACE(微量)
    金属分=クロム(Cr)mass%
    0.003
    金属分=アルミ(Al)mass%
    TRACE(微量)
    金属分=ケイ素(Si)mass%
    0.002
    蒸発量(NOACK)250度C×1h、wt% 9.8 未測定 ディップスティックでは顕著な消費みられず。
    ファレックス焼付荷重(290rpm)1b 1000 未測定
    評価:引火点100度C以上、動粘度30.3%の大幅な低下が見られます。 
    原因としては、燃料希釈5.3%、水分0.19%から、未燃焼ガスの混入 
    と思われます。 
    金属分析からは鉄、鉛、クロムがやや多く検出されていますが走行距離を考慮しますと、異常摩耗と言うほどの値ではな い。 
    燃料希釈が多いこと、動粘度低下、オイル交換基準値(±20%)を越えていることから 
    早めのオイル交換をお勧めします。



    なお、評価の欄にある鉄、鉛、クロムの量は、通常このオイルの耐久時間を
    越えてきますと、TBN低下でJ曲線を持って潤滑性能劣化が増加すると思われるが、よく押さえられているように思われます。
    で、ここで出てくる金属(鉛・銅)は、どこに使用されている金属かと言いますと、
    流体軸受部、つまりメタル軸受けと思われます。
    使用される部品により合金金属も異なりますが軸受け部には当時のエンジンではCu-Pb系の合金が一般的で
    現在はAL-Sn-Si系が小型エンジン用軸受けとして80%を占めるようになっており、今後も
    成分の金属間化合物が置き換えられるように思われます。
    で、Cu-Pb系では劣化したオイルによって鉛成分の腐食が起こってくるわけです。

    全酸価上限値が2.68+3=5.68(サンプル5.57)、塩基価下限値0.5(サンプル2.68)
    水分混入量上限0.3%(サンプル0.189)不溶解分上限B法3.0(サンプル0.37)
    粘度劣化(40度Cでの動粘度)限度±20%(サンプル-30.3)
    と、比較しますと、オイル劣化としては限界値となりますので、ちょうど頃合いのオイル交換時期だったように思えます。

    実際は使用距離の割に短時間走行のくり返しです。
    出勤前のガレージから自宅までの移動200m(3-5分)、子供を保育所へ預けるまでの走行1000m(5-10分)、
    通勤15km(20分-50分渋滞状況による)、会社での車庫移動5-10m(1分-5分1日2-5回程度)帰宅に15km(20-30分)
    平均時速(走行距離/走行時間)=26km/h~15.6kmとなります。
    このため、
    オイルへの燃料希釈はひどい状態と考えられ、その状態で高速走行も(過激に・・・笑)しますので
    更にオイル劣化に拍車をかけているようです。
    なお、このオイルのように、ロングドレインを考えて作られたオイルでも(通常の通勤使用では約10000km程度は
    使用できるようにお聞きしていましたので)
    使用状況によってはオイル自体は相当短命になってしまいますので、注意が必要と思われます。
    (この使用状況ではオイルだけでしたら3000-5000km程度と思われます)

    2.オイルに添加剤を入れた場合の分析
    未使用状態と混合時の変化

    A:使用する添加剤例:PEFE系添加剤
    B:使用するオイル例:トヨタキャッスルオイルGOLD SJ(鉱物油。API:SJ.SAE:10w-30.ILSAC:GF-2)

    性状.分析 A(5%)+B
    密度(駆動式)g/cm3 0.9190 0.8780 0.8815
    色相(外観) 乳白色 黄褐色
    引火点(C.O.C)、度C
    226 218
    動粘度40度C、mm2/s 261.9 64.21 66.19
      ” 100度C、mm2/s 24.65 9.954 10.10
    粘度指数 120 140 137
    流動点、度C
    -30.0 -37.5
    全酸価mgKOH/g 0.01以下 1.79 1.9
    全塩基価(過塩素酸法)mgKOH/g 0.14 5.58 5.30
    H.T.T(ホットチューブテスト)
    ファレックス焼付荷重(290rpm)1b
    1000 1000
    評価:・・・・A添加剤は分散性が不適合と思われます。 
    (オイルパン底部に堆積する可能性がある)・・・etc.(以下略す)



    3.オイルに添加剤を入れた場合の分析 例(走行条件の良好な場合)

    下記は模範的な走行条件によるオイル劣化の例と言えそうです。
    実際にほとんど高速道路使用による定地走行中心の使用例で、
    オイル自体は使用距離の多さから外見上はディーゼルオイルのように「真っ黒状態」です。
    ただし、分析データではまだまだ乗れる状態と言えます。
    (この距離を乗れば通常はまず交換を薦められるでしょうね。)
    実際オイル交換すると、エンジンの調子がよくなったと使用者も感じていますので、フィーリングとオイル劣化の状態とは
    また違う側面があると思えます。
    なお、使用途中のオイル消費が考えられますので新油の補充はされているかもしれません。
    (そのための粘度的な性状向上は考えられます。)

    使用オイル:ワコーズ、プロステージ(部分合成油。API:SJ/CF.SAE:10w-40)
    使用添加剤:ワコーズ・スーパーフォアビークル(S-FV)6%使用
    使用車種:トヨタセルシオUCF11(走行約52000kmより74031kmまで実施)
    分析したオイルの使用期間と全走行距離:2000/9月より2001/4月まで=7ヶ月間。使用距離約22031km走行
    使用燃料:無鉛プレミアム 
         

    性状.分析 新油(代表性状) 添加剤6%添加後のサンプル性状(使用後) 備考
    引火点(C.O.C)、度C 218 222 ほぼ変化無し
    動粘度40度C、mm2/s 89.67 92.77 変化少ない
      ” 100度C、mm2/s 13.45 12.96 変化少ない
    粘度指数 151 138 変化少ない
    全酸価mgKOH/g 2.85 5.96 酸価増加
    全塩基価(過塩素酸法)mgKOH/g 9.46 6.06 塩基価低下
    水分量(間接法)mass%
    0.087 水分混入量多い
    不溶解分(n-ペンタンB法)mass%
    0.28 増加
    金属分=鉄(Fe)mass%
    0.002
    金属分=鉛(Pb)mass%
    0.000
    金属分=銅(Cu)mass%
    TRACE(微量)
    金属分=クロム(Cr)mass%
    0.000
    金属分=アルミ(Al)mass%
    TRACE(微量)
    金属分=ケイ素(Si)mass%
    0.002
    燃料希釈  GC法
    0.5 少ない
    評価:全塩基価やペンタン不溶解分(スラッジ)などからオイルの劣化は進行していますが動粘度変化が少なくオイル交換基 準値 (±20%) には達していません。 
    燃料希釈率が0.5%と少なく通常使用のオイルより粘度が高いオイルを使用している事もあり、油膜も適正と思われま す。 
    摩耗金属が殆ど検出されていないので、潤滑状態は良好と思われ、模範的な 
    オイル劣化状態と言えます。まだまだ使用可能と思われます。 
    ただし、常にこのような良好な走行条件となるかわかりませんので注意は必要です。(出来れば早めのオイル交換をお勧めしま す。)



    4.オイルだけの場合の分析例(市街地中心、たまに高速走行)

    使用オイル:ワコーズ、プロステージ(部分合成油。API:SL/CF.SAE:10w-40)
    使用添加剤:なし
    使用車種:トヨタスターレットEP9(走行25040kmkmより33067kmまで実施)
    分析したオイルの使用期間と全走行距離:2001/11月より2003/11月まで=24ヶ月間。使用距離約8000km走行
    使用燃料:無鉛レギュラー      

    性状.分析 新油(代表性状) サンプル(使用後) 備考
    色相・外観
    濃褐色 見た目もはっきり判る黒さ
    引火点(C.O.C)、度C 224 170 引火点降下
    動粘度40度C、mm2/s 89.020 89.840 動粘度維持、ほぼ変化なし
      ” 100度C、mm2/s 13.29 12.26 動粘度維持、ほぼ変化なし
    粘度指数 150 144 粘度指数ほぼ変化なし
    全酸価mgKOH/g 2.76 7.87 酸価増加
    全塩基価(過塩素酸法)mgKOH/g 9.14 2.58 塩基価低下
    水分量(間接法)mass%
    0.187 水分混入量多い
    不溶解分(n-ペンタンB法)mass%
    0.22 多量
    燃料希釈GC法mass%
    1.2
    金属分=鉄(Fe)mass%
    0.001以下
    金属分=鉛(Pb)mass%
    0.001以下
    金属分=銅(Cu)mass%
    0.001以下
    金属分=クロム(Cr)mass%
    0.001以下
    金属分=アルミ(Al)mass%
    0.001以下
    金属分=ケイ素(Si)mass%
    0.003
    評価:金属分析からは鉄、銅、アルミ、鉛、クロムなどほとんど検出されず、潤滑状態そのものは良好に保たれていたと考え られます。 
    ガソリン車にしては、不溶解分が0.22%と比較的高く、全塩基価が顕著に低下していたことを考えますと、エンジン油の清浄 分散性が相当 失わ れており、そのために分解できないスラッジ類が油中に現れていると考えられます。 
    また特に燃料希釈が多いこと、水分が多量に混入している事からブローバイガスが混入される市街地走行中心では交換サイクルを もう少し早め (1 年に1回)にされることをお勧めします。



    上記4つのデータ資料:某メーカーオイル分析機関

    7)オイルや添加剤の歴史


    西暦年

    精製技術
    添加剤
    エンジン油
    (ガソリン)

    エンジン油
    (ディーゼル)
    ギア油
    油圧作動油
    冷凍機油
    1730年

    1820代

    産業革命(英国)







    1810年 プラハに石油蒸留工場






    1834年






    蒸気式冷凍サイクル
    冷凍機開発(英)
    冷媒:
    エチルエーテル、
    アンモニア、CO2など
    1850年頃

    単独釜蒸留法による基油開発
    (硫酸・白土処理法)






    1857年

    石油機械掘り開始(米国)






    1870年

    単独釜連結による連続蒸留法






    1883年



    ガソリンエンジン発明(独)




    1891年





    歯車式変速機搭載車開発(仏)


    1898年




    ディーゼルエンジン
    実用化(独)




    1903年頃





    デファレンシャルギア開発


    1908年



    T型フォード量産開始(米)




    1911年



    SAE粘度分類制定(米)




    1914年
    ~1918年

    第一次世界大戦







    1917年
    酸化防止剤(赤リン)





    1920年代~






    無添加鉱油、O/W(オイルインウオーター)系エマルション


    1920年
    油性向上剤(オレイン酸)





    1925年






    油圧式ブレード付きブルドーザー開発

    1927年

    溶剤精製法(液化無水亜硫酸法)
    溶剤脱ろう法・溶剤脱れき法















    1930年代
    ~1960年代

    エステル系合成基油開発~
    PAOや各種合成潤滑基油開発





    フロン系の冷媒の
    実用化
    冷媒潤滑油
    ・ナフテン系鉱油

    1931年
    流動点降下剤(アルキルナフタレン)






    1932年 溶剤精製法(フルフラール法)
    ※粘度指数100前後







    1935年
    リング膠着防止剤(ナフテン酸 Al)
    酸化防止剤(ナフチルアミン)






    1937年
    粘度指数向上剤(PAMAポリアルキルメタクリレート)
    腐食防止剤(ホスファイト類)
    油膜強化剤(ジクロロステアレート)


    添加剤配合ハイポイドギア油開発



    1938年
    防錆剤(アルケニルコハク酸)
    極圧剤(ナフテン酸鉛-活性S/Cl-S)






    1939年
    ~1945年
    第二次世界大戦







    1939年
    清浄剤(石油スルホネート金属塩) 初のエンジン油規格(GM)

    GM、自動変速機車を発売



    1940年代~




    R&O鉱油系作動油、航空機用にリン酸エステル


    1940年

    酸化防止剤(DBPC)
    腐食防止剤(ZnDTP)=後に酸化防止剤、摩擦防止剤






    1941年

    清浄剤(フェネート金属塩)






    1942年




    ハイポイドギヤ油の米国連邦規格(VV-L-761)制定



    1943年

    清浄剤(ホスホネート金属塩)
    消泡剤(シリコーン油)

    米軍規格制定(U.S.Army 2-104)




    1945年

    清浄剤(過塩基性スルホネート)
    流動点降下剤(ポリアクリルアミド)






    1949年




    初の自動変速機油規格(GM TypeA)


    1950年代~





    エンジン油(MS級油、Series 3油)
    W/O(ウオーターインオイル)系エマルション、水-グリコール


    1950年




    MIL-L-2105(API GL-4相当)制定



    1952年
    ~1960年


    APIサービス分類制定(米)
    (ML、MM、MS)
    APIサービス分類制定(米)
    (DG,DM,DS)




    1953年


    マルチグレードエンジン油登場(米)





    1954年 水素化仕上げ法(hydrofinishing)







    1955年
    無灰分散剤(コハク酸イミドなど)
    清浄剤(高塩基性フェネート)






    1956年



    キャタピラー社シリーズ3規格制定
    (高塩基価処方;
    TBN>10mgKOH/g)



    1960年代~





    耐摩耗性作動油(ZnDTP系)
    高粘度指数作動油(NC作動油)


    1962年



    MIL-L-2105B(API GL-5相当)制定


    1964年
    極圧剤、摩耗防止剤(MoDTC)=後に摩擦調整剤






    1965年頃
    清浄剤(サリシレート金属塩)






    1967年 水素化分解改質法(hydrotreating)


    直噴式ディーゼル
    エンジン開発

    GM、Dexron規格制定



    1969年
    ~1970年


    API、ASTM、SAEによるトライバタイトシステム構築(米)




    1970年代~




    SP系極圧剤の普及 耐熱・耐摩耗性作動油(ZnDTP系)
    脂肪酸エステル
    冷媒潤滑油:
    ・深冷脱ろう
    パラフィン系鉱油
    ・アルキルベンゼン

    1969年




    APIサービス分類制定(GL1~6)



    1970年頃
    粘度指数向上剤(OCPオレフィンコポリマー)





    1970年

    API分類見直し(SA~SE)
    米国、マスキー法制定
    API分類見直し
    (CA~CD)




    1972年

    API、SE制定(低P低灰分処方)

    GM、Dexron ®Ⅱ規格制定


    1973年 第一次石油ショック





    特定フロンによる
    オゾン層破壊報告


    1974年



    SAE粘度分類改訂(SAE J306a)



    1975年

    CCMC規格制定(欧)
    日本、ガソリン無鉛化
    米国、燃費規制法(CAFE)制定





    1978年

    日本、エネルギー法制定





    1979年 第二次石油ショック






    1980年代~




    自動変速機の電子制御化
    進展
    非Zn耐摩耗性作動油(SP系、P系)
    生分解油(植物油、合成エステル)
    冷媒潤滑油:
    ・POE
    (ポリオールエステル)
    ・PAG(ポリアルキレングリコール)
    ・PVEポリビニル
    エーテル
    に添加剤(極圧剤、油性剤、酸化防止剤)

    1980年頃 水素化分解・ワックス異性化法
    ※高粘度指数・低流動点基油







    1980年


    API SF制定(中P中灰分処方)














    1982年



    スリップ制御ロックアップ機構開発



    1984年


    API CE制定
    (低灰分化処方)




    1985年 接触水添脱ろう法







    1986年
    粘度指数向上剤(ミックスポリマー)






    1987年

    日米の自動車業界でILSAC結成

    金属ベルトCVT搭載車を発売

    モントリオール
    議定書採択


    1988年

    API SG規格
    (ブラックスラッジ
    対策)





    1989年頃
    高分子量
    無灰分散剤





    1990年代







    HFC-134aの
    温室効果が
    指摘される


    1990年頃
    粘度指数向上剤(星型ポリマー)






    1990年



    API CF-4制定
    (さらに低灰分化)




    1992年 API基油グループ分類制定

    EOLCS(エンジン油確認システム)発足
    ILSAC GF-1/API SHグレード(低粘度、低摩擦油の普及)
    日本、
    自動車NOx法制定





    1993年

    JASO二輪2サイクル油規格制定(日)





    1994年


    API CG-4(低灰分、
    高分散性処方)
    GM、Dexron ®Ⅲ規格制定


    1995年


    コモンレール実用化
    JASO M315制定



    1996年

    ACEA規格制定(欧)





    1997年

    ILSAC GF-2/API SJグレード 日本、
    0.05%硫黄軽油





    1998年

    JASO
    二輪4サイクル油
    規格制定(日)
    API CH-4制定
    (排気後処理装置対応処方)

    日本、省エネ法改正施行


    1999年



    トロイダルCVT搭載車を発売


    2000年代~

    天然ガスよりGTL基油開発




    超高粘度指数高効率作動油
    CO2、イソブタン、アンモニアなど自然冷媒に回帰、またはHFO(ハイド ロフルオロオレフィン)の使用など

    2000年


    JASO DH-1規格制定(日)



    2001年

    ILSAC GF-3/API SLグレード




    2002年


    API CI-4
    (EGR付エンジン適合性)




    2003年


    日本、50ppm硫黄軽油 DCT搭載車を発売



    2004年

    ILSAC GF-4/API SMグレード(低SAPS処方、0W-20油の普 及)

    建機用作動油規格制定
    (JCMAS HK/HKB)


    2005年
    粘度指数向上剤(櫛型ポリマー)
    日本、10ppm硫黄ガソリン
    JASO 
    DH-2、DL-1規格制定(日)
    日本、
    新長期排出ガス規制





    2006年


    API CJ-4制定
    (低SAPS処方)




    2008年



    API CI-4+
    (分散性、剪断安定性強化)




    2010年


    ILSAC GF-5/API SNグレード 日本、
    ポスト新長期排出
    ガス規制




    2013年


    SAE粘度分類改訂(SAE #16の追加)





    2015年


    SAE粘度分類改訂(SAE #8、#12の追加) 日本、10ppm硫黄軽油



    ※トライボロジスト vol.61/no.10/2016(665-672)より抜粋編集

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