オイルの酸化防止剤
オイルは酸化しますと「油溶性酸化物」になります。
これが更に重縮合反応して、「不溶解性物質」になります。
「不溶解性物質」は、いわゆる「スラッジ」「ワニス」と言われる もので、オイルラインを詰めてオイルを必要とする摺動部の
潤滑不足を引き起こしたり、ピストンリングを固着させたり、 エンジンの冷却を阻害したりします。
エンジンは高温で、酸化の触媒になるような金属や酸性ガスの環境下に
おかれていますので、
オイル(炭化水素)は空気(酸素)のもとですぐ酸化(カルボン酸生成)してしまいます。
酸化しやすさを考えますと、基油(ベースオイル)だけでみれば、
エステルが一番酸化しにくく、その次が鉱物油となり、一番酸化しやすいのがPAO(ポリアルファオレフィン)となります。
100%合成油のPAOが何故そんなに酸化しやすいかと言いますと、
不純物が無いわけですから、下記図のようにフリーラジカルなど酸化促進因子があれば、連鎖的に反応が進行してしまうためと
考えられます。ですから、高度に精製された水素化分解法などでつくられた鉱物系(合成油と言えるかもしれませんが)基油も
PAOと同じように酸化しやすくなっています。
普通の精製法でつくられた鉱物油は不純物が多くありますから、そこそこ酸化阻害されているわけです。
(酸化阻害成分は成分中の硫黄化合物になります。)
こういったわけで、高性能されれば、酸化による性能劣化が自動車の各性能に影響してきますので
より良い酸化防止剤の必要性が出てくることになります。
酸化反応としては図のような機構になります。
図から酸化防止剤の作用機構は
1.連鎖停止剤
2.ペルオキシド分解剤の2つに分けられます。
1.は連鎖成長を妨げます。
2.はヒドロペルオキシドと素早く反応してラジカルでない不活性物質とします。
両方の作用を兼ね備えたものもあります。
また、鉄や銅などの遷移金属イオンMn+はヒドロペルオキシドのラジカル的分解反応を促進しますので、
(ROOH+Mn+→RO・+OH−+M(n+1))
この反応を防止するために金属不活性剤と呼ばれる添加剤が使用されることがあります。
酸化防止剤としての働きは、このことから、
◎酸化を防御する=ラジカル連鎖開始反応の速度を低下させる
(1)パーオキサイド(R00H)分解剤
(2)金属イオン不活性化剤
◎連鎖反応を停止させる=ラジカル反応の連鎖を断ち切るためにパーオキシラジカルと先に反応する
(1)連鎖停止剤
などが、その役割をし、各添加剤に相乗効果などもあることが確認されています。
酸化防止剤はベースオイルの種類によっても変わり、
異なる成分が含まれる添加剤もあり、
他の添加剤との相乗効果も考え、効率よく添加されています。
また、酸化自体は避けられないので、ベースオイルによって酸化されにくくするか、
酸化された後の反応成分(不溶解成分)の処理を「清浄分散剤」に 任せるなど、添加剤成分同士のやりとりも重要になってきますし、
添加剤自体が酸化して不溶解成分になるなどの問題もあり、 安定した成分であることが今後も求められて行くことと思います。
酸化劣化の因子となるもの
1.酸素
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潤滑膜が酸素下で酸化鉄・リン酸鉄と変わり、保護膜として働く反面、
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潤滑剤自体も酸化反応によって劣化を引き起こします。(上記参照)
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ただし酸素濃度でその生成物質も異なりますので、ラボテストでは短期間テストとなるためもあり、
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高圧酸素テストでは注意深く実験されています。
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劣化モードとしては含有添加剤がまず劣化防止の働きをするため、一番先に劣化をしてしまいますので、
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オイル中の酸化防止剤の劣化モードが重要な鍵となるとも言われています。
2.温度
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酸化反応が化学反応であるため、熱の上昇は酸化に大きな影響を与えます。
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一般的に油温が10度C高くなると、酸化反応は2倍に加速されますので、
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油温管理が重要なポイントになります(ATFも同様)。
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添加剤としては、油温を上昇しにくくするタイプがありますが、オイル酸化反応から見て、10度C下げることが出来れば、
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温度による劣化防止効果は2倍になると言えますので、オイル寿命は単純に2倍となるのですが、
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普通の添加剤成分はそれ自体も高熱で劣化してしまいますので、
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高温特性のいいものが有利となります。
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ただし、閃光温度はきわめて高い温度であることと、酸化防止剤自体が時間と共に劣化してしまう要素を持つため
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ある程度のオイル延命効果の後は他の因子とも関連して加速度的に劣化してしまうこともあり、注意が必要です。
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3.摩耗金属粉や使用金属自体の触媒作用
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エンジンには、アルミニウム、銅の合金、鋼、その他の金属が使用されていますので、
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それら金属摩耗粉やそれ自体がオイルの酸化活性因子となることが知られています。
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また、油溶性の金属塩と言った形で、添加剤としても含まれていたり、微量金属としてオイルの成分にミネラル分として
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含まれていたりします。
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金属表面の酸化物質が金属を含む化合物として次にあげる水分と共に油中に溶けだして作用することもあります。
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金属表面は特に高温になり、触媒反応的にも好都合な条件がありますので
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水分とNoxと並んで、酸化促進の因子と言えます。
4.水分
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内燃機関の性格上、燃焼ガスに含まれる水分やEGRによってもたらされる水分が主になりますが、
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オイル自体も空気に触れる構造であるため、水分はある程度最初から含まれています。
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特に日本は湿気の多い環境ですから、オイルの保管管理に湿気を避けることが重要です。
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水分は特に亜鉛系酸化防止剤(ZDTPジアルキルジチオリン酸)や過塩基清浄剤が多く含まれるオイルでは
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加水分解されたりしますので(金属塩系フィネート、スルフォネートなどはオイルと分離して沈殿することが考えられます。)
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長期間使用しない場合も劣化が進行すると思われますので、
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オイルの交換に期間を考えることも意味があります。
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特に水分・ブローバイの発生が多くなる短距離短時間走行の場合は「シビア−モード」と考え、
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走行距離より早めのオイル交換が好ましく思われます。
5.ブローバイガス
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ガソリン車の場合はNOx(特にNO2や硝酸など)、ディーゼル車の場合SOxなどが発生し、
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水分に溶けて酸になりますので、オイルを著しく酸化させることになります。
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EGR装着がほとんどになっていますので、オイルにとっても、各金属パーツにとっても、酸化因子が増えたことになり
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その影響はかなり強く現れています。
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そのため、ブローバイガスの成分、(未燃燃料、水分、NOx、SOxなど)に対して、中和、不活性化させる添加剤が
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必要になります。
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油温が高温条件になるテストが多いですが、低温域でも劣化条件はきわめて厳しいため、
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使用温度帯を見極めたオイル使用が必要と思われます。
酸化反応の行く末
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オイル中の酸化防止剤の効果で、ある程度の使用期間は他の添加剤成分と協力し、
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全酸価の上昇が抑えられ、粘度増加の要因である酸化劣化での生成物(ワニス・スラッジ)の発生が
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押さえられます。
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ただ、酸化防止剤それ自体も酸化抑制と言う使命をを終えますと「劣化物質」となりますし、
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その後の酸化防止が出来なくなるため、
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添加剤の寿命がいわばオイルの寿命とも考えられます。
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しばらくの間、清浄分散剤がオイルのスラッジ化を抑制しますが、それも飽和してしまえば後は
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オイルは酸化する方向へ促進する事になり、
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酸化の開始時期を見極めることが重要なポイントとも言えます。
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オイルのベース自体はそれでもまだまだ使用できるわけですが(廃油を生成して販売されたりしていますので
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おわかりでしょう)、オイルに溶解したススや金属粉、スラッジなどは分離がし易いわけですが、
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オイルに溶け込んだ塩基や金属成分などは分離するにもコストがかかるため、
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結局、大部分のオイルは、オイル交換により廃油として処理されることになります。
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廃油は現在の所、燃料に再利用される方向が一番多いのですが、
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今後、低価格で、効率の良い、安全に分離された廃油をベースオイルとして活用する方向へ
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向かえば、限られた資源の再利用として評価出来る事と期待しております。
添加剤製品としての安全性
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規制物質などに指定されている添加剤もありますので、輸入オイルで規制品対象外としている国からの
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オイルや添加剤は特に注意が必要です。
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国内で製造されている場合は、規制対象ですから、含まれていないと考えられます。
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酸化防止剤で規制物質(TTBPとPDA−Z2)はこちらに記載されています。
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TTBP=2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール
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PDA−Z2N-モノ(又はジ)メチルフェニル-N'-モノ(又はジ)メチルフェニルパラフェニレンジアミン
工事中
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