高温で油膜が薄くなるとどうなるかと言いますとなお、PAM、COPなど粘度指数向上剤は、同時に、流動点降下剤(パラフィンワックス結晶形状の抑制機能)をもっています。
金属同士は擦れ合う=摩耗、発熱、摩擦抵抗が起こり、燃異が悪くなるばかりか
オイルの無くなったエンジンを考えれば分かるように、いずれエンジンが壊れてしまいます。
このために、高温になる内燃機関のピストンなどの潤滑には
油膜が必要と考えるわけです。
そのため、高温で薄くなって行く油膜をどうにか厚くするために
いろいろな方法を取るわけです。元もとから硬いオイルを使うと低温時には硬くてエンジンも回り難くなります。もちろん、シリンダー部で摩耗・摩擦が起きなければ、
逆に始動時の低温時を基準としますと、高温では油膜切れも起きやすくなります。
昔のオイルが「夏用・冬用」と分けて使われていた理由がここにあります。
内燃機関の燃焼熱の排出の問題・気密性などを除けば
油膜は必要では無いとも考えられます。
ただ、今のところ、そのような都合の良い動部の材料は
添加剤やコーティング膜などで減らす事は可能ですが
一般的に取られる方法は
油膜の状態を管理する事=粘度指数向上の方に重点が置かれています。
こういった成分は低温では糸をコイル状に巻いたように丸まっています。
そのため添加剤の粘度は ベースオイルとほとんど変わりませんが、
(=抵抗があまり増えない)
温度が上がるとベースオイルは粘度が下がりますが、そういった場合に
そのポリマーは糸がほどけて伸び広がり(膨潤化)、
粘度が下がったベースオイルをくっつけますので、全体としては 粘度の変化がそれほど極端に低下しません。
温度による粘度変化が少ない程良いオイル(=高VI)と言うわけで、
高温でも油膜を金属同士が接触しないよう基準以上に保つ事で
金属摩耗と動摩擦による発熱・気密性の低下を避けられるわけです。
ただ、ポリマーということは、強い剪断力(=物理的剪断)に対しては弱くなり、
ポリマーの鎖が切れて低分子量化しますので、
粘度低下を招くことがあります。
(反面、高温で分解する官能基を導入し、その導入量を調整することによって、中温域での酸化安定性を低下させずに
高温でのデポジット生成量を低減することが見出されています。)
また高温下ではポリマーの糸まりが剪断を受ける方向に配向しますので、
増粘効果も低下します。(=川底の水草が川に流れに沿って配列しているような感じ)
この点からポリマーの分子構造と剪断安定性の関係が重要となります。
激しいエンジンの回転数ではこういったポリマーの剪断劣化は早く起こるため、
最近は いいベースオイルの使用が基本となっているようです。
ただし実際はどんなオイルにも こういったポリマーは大なり小なり添加されています。
油温と粘度の関係が密接なため
低温から高温までの広い範囲で使用されるエンジンオイルには
マルチグレード化の方が大切なためです。
マルチグレードのエンジンオイルが現在は一般的ですが、
「低粘度ベースオイル+ポリマー」と言う形は「省燃費性」には効果的ですが、
上記の説明から
高温時に高剪断を受ける「軸受けメタル」には過酷となります。
各種オイルへの添加量(配合例)
配合量、vol% | ガソリンエンジン油 | ディーゼルエンジン油 | ギア油 |
粘度指数向上剤 | (PMA、ポリマー分)=2 | (OCP、ポリマー分)=1 | (PMA、ポリマー分)=14 |
流動点降下剤 | (PMA、ポリマー分)=0.2 | ||
硫黄−リン系極圧剤 | 3〜5 | ||
清浄剤 | 1〜2 | 3〜6 | 1〜2 |
分散剤 | 6〜8 | 1.5〜3 | 2〜4 |
抗酸化剤 | 1〜2 | 0.6〜1 | 0.5〜1 |
消泡剤 | 少量 | 少量 | 少量 |
基油(鉱油) | 86〜90 | 89〜94 | 79〜76 |
資料:「新材料のトライボロジー」日本潤滑学会編、養賢堂、「トライボロジスト」vol.45/No.8/2000