オイルの剪断安定性

メールにてよく、AとBのオイルはどちらが「長持ちするのか?」という 質問を受けます。
長持ちすることの真意はひとさまざまに答えがあると思います。 単に「いつオイルを交換するのか?」ということから、
「レースで使用するのに、2回以上大丈夫か?」 あるいは「距離を乗らないので、2年間もつのか?」等々です。

また、「高品質な添加剤を使用しても、オイルのフィールはやはり悪くなる」ので
そういった添加剤は必要がないのでは?と言うご質問もあります。

ここでは、オイルのフィーリング劣化の問題と
添加剤の性能の劣化の問題と、
また摺動摩耗の問題なとと関連して考えてみたいと思います。

1)剪断安定性(オイル粘度が変わってゆく度合い)

例えば、カストロールのオイルを選ぶとき、同じ値段帯の「RS」か「シントロン」か迷います。
エンジンオイル=ベースオイル+添加剤−−−から考えてゆきますと、
(1)粘度=ベースオイルの粘度+{”ポリマー”=粘度増強剤(or粘性維持剤、粘度指数向上剤など)}


(2)ベースオイルの質=100%合成=PAO+エステル


なのでベースオイルとして「RS」の方が粘度はかたい。
(3)添加剤の量=オイル全体−(PAO+エステル)


となります。

ところで、ラボテスト(実験室でのテスト)では、剪断安定性は30分間の”超音波”をかけての実験をしていますが、
これでは、十分なテストとは言えず、実際のレースでは、殆ど5分間でオイルに含まれる上記の添加剤成分は
ダメになってしまう場合もあります。 残るのは、ベースオイルということになります。

そうなると、ベースオイルの粘度が問われるのです。
「シントロン」では5wにするため、「RS」よりも粘度が柔らかい「ベースオイル+エステル」が使われています。
(どれくらい柔らかいのかは判りません)
そのため、油温が150度C−−160度Cにも上がる夏場のレースでは、「RS」の方が高温での粘度保持に有利となります。
しかし、冬場ではどうでしょう。かえって粘度の固さが抵抗になりますので、 柔らかい「シントロン」の方が有利です。

オイルメーカー各社、夏用と冬用では(一般車でも)粘度の違うオイルを積極的に販売しています。
レースでは「油温のコントロール」が重要になるから特にです。
冬場では5w−30なども使われていますが、(最近では0w−20も海外では販売されています)
これは使用する環境にオイルの粘度を合わせている と言うことになります。
1回きりしか使えなくても、目的は「勝利」ですから・・。

「ノンポリマー」オイルといわれるものでも、実は「100%ポリマーは入ってないか」というと
大抵はそうではないようです。
ノンポリマーで出来るのはPAOではPAO製造メーカーの番手の10番で0Wor5Wー30程度
15番で5w−40か10w−50程度となりますが
確かにそれならRSもノンポリマーになるかもしれませんが
多分、上記番手ではないと思われます。
(作れないことはないでしょう)
ただ、ノンポリマーにすると「最適油温が狭く」なる傾向があり、
狭い範囲の温度帯の製品は別として、
それ以外のワイドレンジな製品ではまあそれでも別のオイルなども含め
何らかそれに代わる添加剤として入っていると考えて良いでしょう。
(※上記は2000年以前の製品評価)
時代と共に本当にオイルとしてワイドレンジに調整された製品が出るとは思えますが・・・。
昔はエステル自体が添加剤に入りましたが、現在では合成油として扱われますので
PAO+エステルでわずかな添加剤を入れ、ノンポリマーと言うことは
妥当な表現なのかもしれません。
でも添加剤にポリマーを含んでいるような場合は、
剪断による劣化が早く出ますので、フィールが悪くなる度合いがいわゆる「ノンポリマー」より
早くなるのは事実と思われます。
PAOでもHIVIでもオイルの低粘度化でベースオイルは「5W」とか「10W」に相当するオイルを元に
ポリマー・流動点降下剤その他などで0w−30や5w−30、5w−40などが作られています。
ですから、それらのオイルは添加剤の劣化・ポリマーなどが剪断されてしまうと
シングルオイルに近い粘度帯に戻って行くことになります。
確かにエステルなどでノンポリマーで10w−30の1年2年では剪断しないようなオイルを作ることは
可能です。しかしコスト的に使う用途は限られるでしょう。
普通、80度−120度Cが油温として最適になりますが、上下を繰り返す使用状況にとっては、
暖機性が悪いため、低温側にオイルの適温をもってゆくか、
高温側にオイルの適温をもってゆくか、という「油温管理」に慎重にならざるをえません。
もちろん「ノンポリマー」といわれるようにポリマーがほとんどないわけですから「剪断されにくい」わけです。
100%ベースオイルだけなら剪断安定度は最高値が出ます。
ベースオイルは、エステルにせよ、PAOにせよ「200−300位の分子のかたまり」ですから、
ポリマーの「100000−1000000位の分子のかたまり」からみれば、「剪断されにくい」
という事にも、うなずけます。

剪断は、熱と力や化学反応によります。

上記は、オイルが異なるブレンドの例でしたが、同一銘柄で「粘度だけ異なる」場合はどうでしょうか。
普通、オイルでも0w−30に5w−40を足して粘度調整する場合があります。エンジンの性能によって
最適の粘度がありますので、ベースオイル自体が優秀な場合、そういった再ブレンドは良くされています。
では、1度レースで使用したオイルは剪断されてしまい、粘度劣化を起こしているから、使えないかどうかと言うと、
一般車のチューン位なら十分とはいえないまでも、まだ耐えられるといったレベルのものが多いのも事実です。
オイル粘度を著しく劣化させる原因はオイル分析によって、
未燃焼ガソリンの混入と燃焼による水分による場合が大半とされてます。
オイルが「薄められる」事による、粘度劣化が殆どなのです。そして、 その、混入は自動車1台1台異なるので、
一概に5wだから悪い、15wだから良いとも言えないのです。

2)エステルの剪断安定性

エステルは別のページでも紹介していますが、 ジェット機のエンジンの潤滑には100%エステルが使用されています。
現在は100%合成油に殆ど含まれています(20−30%)。
理由は


ということになります。 エステルは加水分解(水と混ざるなど)して、水とアルコールになるタイプのものもありますが、
 改良され、現在ではポリオールエステル、ジエステル、複合(コンプレックス)エステルとして、 加水分解にも強くなり、
 ベースオイルに欠かせなくなっています。
よく「磁性をもった」「油膜が吸着し」などと 説明しているオイルには、必ず「エステル」が添加剤的に入っています。

粘度が低く、かつ低い粘度でも十分に油膜を形成しますので、省エネにももってこいです。
粘度はピストンでの圧力とオイルポンプからの圧力などから生じますが、ある程度電気的に
吸着したエステルがあると、金属自体の直接の接触が避けられますので、
ことさら粘度ばかり気にしなくても良くなってきました。

普通のオイルにエステルが入っていますと、エンジンを傷つけるドライスタートに効果が現れます。
オイルは通常6時間ぐらいでピストンやシリンダーにはほとんど着いていません。
エステルがあると僅かながらオイルがそこに吸着していますので、油膜による金属の直接接触は ある程度避けられます。
従って、エンジンに最もダメージが大きいといわれるドライスタートを避けられることになります。
油膜が潤滑(つまりオイル=潤滑)という従来の潤滑の理論ではありますが、 結果的に摩耗を減らすわけですから、
特に、サンデードライバーにとってはエステルを含むオイルは多少高価になっても、 安心という意味でお勧めできます。

3)添加剤とオイルフィール劣化の関係

工事中


参照1.オイルの元になる物
工事中 
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