オイルの清浄分散作用

一般には清浄分散剤と言いますが、清浄剤と分散剤は別の化合物で す。 Caフィネートは清浄剤の一つです。ただし、両方の添加剤がオイルには含まれて、 効果を生みますので、”清浄分散剤として”1つのものと 考えても誤りではありません。
 
 
表面を保護する添加剤−自動車の潤滑剤

添加剤タイプ
目的
典型的化合物
機能
清浄剤 デポジットから金属表面を清浄に保つ Na、Ca、Mg、フェノレート、スルホン酸塩などの有機金属化合物 スラッジやワニスになる前に中和して、可溶性にする化学反応
分散剤 潤滑剤では出来ない汚濁物質を分散する Alkylsuccinimids, alkylsuccinic esters, and mannich reaction products 洗剤分子の極の引力によって、汚濁物質と接着し、塊になるのを防ぎ、洗剤の溶解度で浮遊状態にする
資料提供:クエーカステートの新田さん、ありがとうございます。

清浄分散剤とは

清浄剤は

高温運転でおこってくる劣化物がオイルに溶けないで塊になり、 不溶解性のスラッジになるのを防いでいます。 予防、抑制効果があり、金属系が主で

 スルフォネート(金属:Ca、Ba、Mg)
フェネート(金属:Ca、Ba)
ホスホネート(金属:Ba)
サルシレート(金属:Ca)
ナフテネート
(カルボキシレート(金属:Ca)

などの金属を含む添加剤です。

安全性の問題から現在ナフテネートは使用されてません。

Mgスルフォネートは針状結晶生成が問題で用途が限られていますが、
スルフォネートの中では長鎖モノアルキレートが性能がよいとされています。
ミセルコア内部の炭酸カルシウムや水酸化カルシウムが
カルボン酸を取り込み中和し不活性化させ、清浄剤としての効果を生むわけです。

中でもオイルのロングライフ化に伴い熱安定性が必要なため、サルシレート(硫化カルシウムサリシレート、
カルシウムボレート分散型サリシレートは国内で生産されています。)周辺が
開発研究されています。同時に、硫酸中和力では炭酸カルシウムより素早く、
清浄剤に不足な潤滑性も高いことが特徴にあげられます。

ただ、金属系であるため、その灰分の影響がどれぐらいあるかなど、
環境などにもこういった清浄剤の問題はありそうと思われます。
Ca系清浄剤の比較

参照:トライポロジストVol44/No.12/1999/p937

上記性能比較表
 
性能項目 試験方法 評価項目 Caスルホネート Caフェネート Caサリシレート
高温清浄性 ホットチューブ試験 デポジット付着
酸化安定性 ISOT 塩基価維持
低温清浄性 エンジン清浄性試験 ロッカーアーム
カバースラッジ
耐水性 加水分解試験 塩基価維持
低摩擦 モータリング摩擦試験 摩擦トルク
酸中和性 濃硫酸中和 炭酸ガス発生圧
濃硫酸中和 pH低下
コスト
評価:優◎>〇>△劣
参照:エンジンテクノロジーVol3/No.1/2001/p95
分散剤は
比較的低温で発生するスラッジを分散させるもので、無灰系が多く 分散、可溶化そして酸中和の3つの作用を持っています。

こはく酸イミド
こはく酸エステル
ポリポーラー型ポリマー(polypolar型高分子化合物)
など、アルキル基を含むタイプとポリマーが一般的のようです。

低温でと高温で、添加剤として役割が異なるようですが、基本的には エンジンの汚れを洗い落とし、オイル中に浮くように分解しているわけです。大体、カルシウム系などは”金属石けん系”とも呼ばれ、汚れを”0.1−0.5ミクロン” 位に分解します。
 
 

効果の違い

清浄と分散の作用機構は理論的には同じものと考えられるのですが、清浄か分散のどちらかの 作用に優れているかで分けられているようです。

 まとめると、

ということになります。

 案外、研究材料としては意欲を駆り立てられないせいか、文献も少ないのですが、 今後のオイルのロングライフ化には欠かせない添加剤となりそうです。

 多分、石けんや洗剤でこういった図は見たことがあると思いますが、添加剤の分子が極性基を持ち不溶解物質に 吸着して「ミセル」を形成してオイルに分散させたり、金属表面上に吸着してそれらが沈積するのを防止します。 そのミセル形成は酸化反応を押さえる働きもあり、オイルの塩基性が酸性酸化物を中和します。

フラッシング剤(オイル)

清浄分散剤とは別の形で、
フラッシングオイルとかフラッシング添加剤などがありますが、ほぼ、上記の 作用を強力にしたタイプと言えそうです。
しかし、アイドリング程度で使用し、時間的にも10分前後を目安として 使用することが記載されています。
つまり、即効性を出すため、オイル添加剤とはまた別の製品と考えてください。
オイルに混ぜて使用すると、オイルの性能を著しく低下させるため、 使用後の廃油はエンジン内部に残らないようにすることが肝心です。

 洗浄効果の内容は3つのタイプに分かれます。

これらの問題点はオイルシールやオイルそのもののシール(油膜)に対する影響なのですが、
フラッシング後に大量に残ってしまったり、長期間使用するとそれらに悪影響が出ることが起こりそうです。

 特に、・1.の灯油系や・3.のソルベントなどは洗浄性が優れており、汚れを落とすのは強力なのですが、 その分、注意が必要です。
対シール性に問題のない製品かどうか確認し、明記されている製品を使用することが安心と思われます。
と言うのも、洗浄能力と対シール安定性の間には、因果関係が立証されていませんので、 そういうフラッシング剤を使用して問題が発生しても、対処して貰えないのがほとんどということになるからです。

 どうしても心配な方は、フラッシングをせずとも、早めのオイル交換でオイル管理をすることで 対応できるものと思われます。
現在のオイルのグレードであれば(SJ)、かなり効果的に清浄分散剤が含まれていますので それほどフラッシングに対して必要性は無いものと思われます。


ラッカー・ワニス状物質の生成機構

エンジンオイルの劣化は粘度を増し、沈積物を作り、金属腐食を促進するのですが、
これらは、「オイルの酸化」から出発しています。

 一方で、オイルの酸化劣化とは別に、ラッカーやワニスを作る反応を起こしていますので、 それらの生成の機構が下記の図のようになります。

酸化防止剤参照してください。


オリフィス絞り部でCa系清浄剤は付着し目図まりしやすい

 上記構造のようになっているCa系清浄剤が入ったオイルの流れに、水分が加わると、
通状油温において、炭酸カルシウムが管に付着し、目図まりが起こりやすくなります。

 これはCa系清浄剤のアルキルベンゼンスルホン酸が水分を乳化するために中心に位置する 炭酸カルシウムがむき出しの状態になってしまい、 互いによりあって粒子になることが原因で、 細管の中で15−50m/sの早さでオイルが流れるときだけに起こる現象のようです。
くっつく理由はファンデルワールス力によって初期に静電引力した炭酸カルシウム に、流動帯電によって出来た静電引力で次々に付着していくからと思われます。

参照:トライポロジスト43巻6号

こういった現象は他の添加剤成分にも考えられると思われます。

オイル交換の目安となるには

清浄分散剤でオイルの汚れを落とし、エンジン内部を綺麗に保つわけですが、
基本的にはオイルの汚れ自体はオイルフィルターでかき集められるほど大きくなく(濾過出来るのは10ミクロン程度以上)
上記添加剤成分によってミセル内部に取り込まれた酸系物質も素通りしますので、 汚れはオイル中にたまる一方です。

 そしてオイルに浮いていられる限界を超えますと、それ以上汚れも落とせないということになります。
一般グレード以上のオイルの清浄分散剤成分は、交換推奨期間の2倍ぐらい使用しても 大丈夫なぐらいの量が含まれています。
けれど、洗濯と同じように、必要以上の汚れは落とせませんし、 汚れがひどいものを洗った場合、水もひどく汚れます。
オイル交換しないということは、 次から次へと洗濯物を洗濯機に入れて、水を交換しないのと同じ事ですから、 洗濯槽側まで汚れが付着してしまうこともあるわけです。(特に水位以上の箇所が汚れますよね)
つまりオイル管理が悪い自動車は、タペットカバーのスラッジやら、オイルのふた の裏側のスラッジなどに現れてきます。

 そういうことが積み重なると、いくら良いオイルや添加剤を入れようとも、オイル中に浮かべられる 汚れの量が決まってますから、どこかへ溜まらないわけにはゆかず、
オイルの状態やエンジンの調子と関係なくスラッジだらけ(まみれ)になることは必然のことと思われます。
確認するには、オイルキャップの裏を見るか、
その奥に指をつっこみ、タペットカバーの裏側をさわってみると良いでしょう。
ヌルっと来たら要注意です。そうした対処としては 本当は取り外して丸洗い洗浄がいいのでしょうが、費用がかさみますし 大きな塊になってしまったスラッジをオイルラインなどに落として 詰めてしまう可能性もありますので「オイル交換をもう少し早めにする」など と言ったような長期的な対応の方がお勧めできます。

 もう一つの方法としては
オイルフィルターの性能をアップさせ、1−3ミクロン程度までのオイル中の不溶性不純物を
取り除いてしまうと言う方法があります。
こういったフィルターを使用しますと、かなりオイルが汚れにくくエンジンも綺麗になるはずなのですが、 清浄分散剤のミセル内部に取り込まれた酸性物質や、不溶解性物質も、取り込んだ添加剤成分と共に フィルターで取り除かれてしまいますので、(もちろん添加剤自体の酸化劣化も起こってますので) 添加剤成分の補充が必要になってくると思われます。
ですから、ロングライフ化させるにはやはり別売添加剤が必要になるものと思われます。
ただし、最初からオイルに混ぜてしまうには、オイルに溶かせる限度というものもあり、 ベースオイルによってもその限度が異なりますので、むやみやたらに 添加剤を入れると、オイルに溶けきれない成分が沈殿する可能性も否めません。
そのため、いろんな機能を多く持った添加剤製品が今後とも開発され、 「オイルへのなじみやすさ」も考えられるようになってきています。



で、時々、廃油のスラッジをどれだけ落とすか試したくなり、
オイルや添加剤で洗って、どれだけ汚れを溶解するかみるときがあります。
エンジンには直接試しても、よく分からないわけですが、
ATFチェンジャーに溜まったカーボンスラッジは、元々ATオイル中に溶融していたものと思われ、
長期に渡って、沈殿したもので、10リッターのポリ容器の底はかなり黒くなっています。
(ですから、針金などの僅かな力で簡単に剥がれてしまいます。)

ATFの廃油は除いて、
これに安い鉱物油を入れますと、ごく僅かに溶け出すのですが、かなりしつこく振っても、
ほとんどは溶けません。
オイルがこういう状態で汚れるのは、オイルの清浄分散性だけと思われますので、
短期間では、こういったヘドロ化した場合は、
安いオイル自体は、それほど洗浄性は無いものと思われます。

次に、これも安い添加剤ですが、入れて、よく振ります。
さすがに、清浄分散性に優れた製品とだけあって、今度は添加剤自体が黒くなり、
よく溶けていることがわかります。
ただ、原液にしては物足りません。

それで、一端、オイルなどを捨て、
さらに、オイルフラッシング剤で試しますと、それ以上によく溶けだし、
こういった製品がある程度エンジンをクリーンに保つことがわかります。

で、今度はそういった物ではなく、キャブレタークリーナーなどの、ワニス的な物に対する溶剤を
吹き付けてみますと、
スラッジは溶けるといった風ではなく、細かく剥がれてくるといった様相を呈します。
つまり、ポロポロと細かく粉砕されるといった様子になります。

ここで、今度はレンジクリーナーなどのいわゆる「洗剤」でどうなるかを試すのですが、
これはほとんど落ちる気配を見せません。
油汚れを白く分解してしまうだけで、カーボンに対しては効果がないようです。

最後に、ポリ容器の洗浄をかねて、アルコール系パーツクリーナーで洗うのですが、
これも溶ける気配はありません。
ただ、ガスの勢いがあり、圧力がありますので、
そういった物理的な力で、どんどん剥がしてゆきます。
結局、溶かすという形ではないのですが、これが一番効果がありました。

何か参考になればと・・・。



添加剤の途中添加の効果

オイルに含まれる塩基性の清浄分散剤は、
酸性成分を中和することでスラッジの生成を抑制すると言う構造を持ちますが、
どれぐらいの効果があるか、実車試験のデータもあまりなく、不明な点が多いわけです。

中和剤ですから、途中でのオイル継ぎ足しでも効果は出てきますが、
元々、オイル全体が酸化方向へ進行しているわけですから、
新油交換のように、一気に元のオイルのように完全にいい状態になるのではないようです。
添加剤成分の分量だけ一気にオイル酸性成分を中和して、添加剤の使命を果たしてしまいますので、
その後の酸化進行は早いようです。
添加するなら、劣化しかかるまでで、約2000kmまでに入れた方が効果的と言えそうです。
 

工事中
元へ戻る


ホームページへ inserted by FC2 system