オイルの性能劣化なのかオイルへの異物混入なのか?
前のページで
4.燃費を優先したオイルの使用期間の目安を考えましたが
現在のAPI規格SMであれば通常の走行で5000kmぐらいまでは
ほぼオイル中の添加剤の成分の劣化は大した事はない事がラボデータでは分かっています。
基準では良好な条件下で走行すれば
15000kmぐらい走行しても
エンジンに大きなダメージを与えない規格です。
日本のようなシビアーなコンディションとなる条件下でも半分の7500kmなら
申し分のない性能をまだ残しているはずです。
ですから5000kmあたりですとなおさらのことでしょう。
燃費を基準にした規格としてはですが、実際の走行では燃費が3000kmあたりから落ちてくるといった報告も多く見られます。
特にSM/CF-4規格では、0w-20の粘度のオイルの場合は
基準値に比較して使用油の燃費向上率2.0%で未使用油の燃費向上率2.3%ですから
実際の走行上で差が分かるぎりぎりなのでしょうが、
それでも通常にいわれる「燃費が落ちた」は3%以上の差と考えられますので
(リッターあたり10km走行出来た自動車がリッター9.7kmぐらいになると、多少気になってきます)
燃費向上率が無くなるほどオイルが劣化しているなら
はっきりとした燃費データとして出てきます。ガソリン満タン法ではガソリンの給油の仕方で測定値が随分変わってしまいます。
給油の時に起きる燃料タンク内のエアーの噛み込みがありますと
5Lぐらい違う事もあります。(ビールを注いだとき、入れ方で量が変わるのとほぼ同じ現象)
長時間走行直後の給油ですと給油したガソリンが沸騰し更に入りにくい事も(約10L違う時も)ありました。エンジンをかけますとですから、
ガソリンはタンクからポンプで押し出され、
フィルターを通ってキャブレターやインジェクションへ到達しますが、
届いたガソリン全部をわけではなく
余った燃料は
もう一度タンクに戻るというように循環しています。
このため、タンク内のガソリン温度は
エンジン付近で暖められたガソリンによって常に上昇しています。
そこへスタンドで冷えたガソリンを入れますと
タンク内のガソリンの温度が高い場合は体積膨張もしますし
夏や長時間走行後すぐ入れる場合などでは、ガソリンが沸騰することもあります。たとえば、
長距離使用し、ガス欠寸前まで走った自動車が
翌日本当にガス欠状態になっている現象(減圧や体積の減少による)や
夏場にノッキング気味のエンジンでは
長距離走ってひどくなった場合でも給油したら燃料の温度が下がるので
しばらくノッキングが治まったりする事もあるなど、です。
出来ればエンジンの冷えている状態で2度に分けて入れる方法が正確な測定と思われます。
(一旦満タン入れて、当日2ー3km走行してからもう一度給油、あるいは翌日か翌々日もう一度満タンにする)
この2回入れですと多い時と少ない時の誤差の幅は1000ml以内と思われます。
当方のユーザーさんに協力頂き、現在の使用オイルが5wー40ですのでまず使用中のオイルの燃費を出し、
これは変えずテストしてゆきたいと思います。
次に
燃費が悪くなってきたと満タン法で計算出来た時点でのサンプルを取り
「新油」、「2500km走行油」、「燃費劣化時油」の3つを比較して
原因が何と考えられるかを
見て行きたいと思います。
テストにどんな銘柄のオイルに決めるかは結構迷います。使用車両:スバルレガシィ、アウトバック
各社この粘度帯は充実した製品になっていますので
こちらでも今まで使用したメーカーを上げれば
POLO、モチュール、カストオール、ワコーズ、バーダル、ダッカムス、モービル・・・とありますし
ブレンディングで粘度を調整するタイプを除いても
現在「5wー40」だけは5銘柄あります。
(それぞれ、価格帯がちがいますし、数値ではないオイルの硬さや性能の違いなどの特徴があります)
粘度はワイドレンジで低温から高温まで使用出来る幅が大きい製品ほど
粘度変化がおきやすい傾向にありますので
SM規格としては15000km程度の使用に耐えられるとは思われますが、
通常はこの粘度でフィール的には4000kmから5000kmぐらいまで
コストパフォーマンス的には8000kmから10000kmぐらいまでが良いようです。エステル系の商品は単価が多少張るので、ブランド的にはカストロール(BPでも良いのですが)
かワコーズあたりのPAO系100%合成油で決めたいと思います。
当方で扱っている製品は下記となり、好きなブランドを選んでもらうことにしました。
カストロール「EDGE5w-40」API表示(ACEA)=SM-CF(A3/B3/B4)100%合成油 (1600円/1L扱い) ワコーズ「4CTS=フォーシーティエス」API表示(ACEA)=SM-CF(A3/B3/B4)100%合成油 (1600円/1L扱い)
○燃費の中間結果はこちらにあります。
○使用中のオイルの中間分析(サンプル量200ml)
使用オイル:ワコーズ「4CTS=フォーシーティエス」API表示(ACEA)=SM-CF(A3/B3/B4)100%合成油
分析したオイルの使用期間と全走行距離:全走行12000km、新油より2500km走行後分析
使用添加剤:なし
使用車種:スバルレガシィ、アウトバック3000cc
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
性状.分析 | 新油(代表性状) | サンプル(使用後) | 備考 |
色相・外観 | 淡褐色 | 見た目はきれい | |
動粘度40度C、mm2/s | 95.41 | 89.78 | 多少低下するも動粘度ほぼ変化なし |
” 100度C、mm2/s | 15.34 | 14.51 | 多少低下するも動粘度ほぼ変化なし |
粘度指数 | 170 | 168 | 粘度指数ほぼ変化なし |
全酸価mgKOH/g | 3.67 | 2.97 | 多少酸価値が低いが全く問題ない。 |
全塩基価(過塩素酸法)mgKOH/g | 9.53 | 9.27 | わずかに塩基価低下 |
水分量(間接法)mass% | 0.075 | 水分混入量少ない | |
燃料希釈GC法mass% | 1.5 | 燃料希釈やや高い | |
金属分=鉄(Fe)mass% | 0.001以下 | ||
金属分=鉛(Pb)mass% | ----- | ||
金属分=銅(Cu)mass% | 0.001 | ||
金属分=クロム(Cr)mass% | ----- | ||
金属分=アルミ(Al)mass% | 0.001以下 | ||
金属分=ケイ素(Si)mass% | 0.001以下 | ||
評価:
燃料希釈が1.5%とやや多い傾向が見られます。水分や動粘度は問題のない範疇です。 金属分析からは鉄、銅、アルミ、鉛、クロムなどほとんど検出されず、潤滑状態そのものは良好に保たれていると考えられます。ただしオイルに無い成分のモリブデンや他の配合金属値に異なる数値があるので、このサンプルにはコンタミ(異物混入)の可能性があります。 |
コンタミはサンプル量がわずかなため
サンプルを抜くときの機器(ATFの劣化比較に使うポンプ流用)に付着していた可能性があります。 |
実際に、上記で燃料希釈が多いだけの結果になっています。○5000km走行後の燃費の結果はこちらにあります。(2007/10/20)
コンタミがあったのは、サンプルを取り出す際にうかつでしたが、
わずかでも分析結果に出るという事が
逆に分かったわけです。
(いつもは、オイルをドレーン抜きしますので、廃油量4L以上になりますが)
ほとんどオイルだけではフィールも変わらない程度の変化と分析できました。
実際に使用者の評価は
「今回は添加剤を抜いた性で劣化をひどく感じて以降は、あまり変化を感じない」
「燃費自体は添加剤を入れていない新車の時と同じレベルに下がっただけ」
となっています。
今後5000km走行時にもう一度上記の分析をして比較し、
今度は今までの添加剤を加えた状態で燃費を比較することにします。
上記車両での使用後のオイルの分析(サンプル量200ml)
使用オイル:ワコーズ「4CTS=フォーシーティエス」API表示(ACEA)=SM-CF(A3/B3/B4)100%合成油
分析したオイルの使用期間と全走行距離:全走行24166km、新油より5000km走行後分析
使用添加剤:なし
使用車種:スバルレガシィ、アウトバック3000cc
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
性状.分析 | 新油(代表性状) | サンプル
(使用5000km) |
比較用
上記サンプル (使用2500km) |
5000km走行
サンプルの 備考 |
色相・外観 | 濃褐色 | 淡褐色 | 「交換しなければ」と
感じるほど見た目はひどく汚れている。 |
|
動粘度40度C、mm2/s | 95.41 | 89.63 | 89.78 | 多少低下するも
動粘度ほぼ変化なし |
” 100度C、mm2/s | 15.34 | 14.46 | 14.51 | 多少低下するも
動粘度ほぼ変化なし |
粘度指数 | 170 | 168 | 168 | 粘度指数ほぼ変化なし |
全酸価mgKOH/g | 3.67 | 3.04 | 2.97 | 問題ないレベル |
全塩基価(過塩素酸法)mgKOH/g | 9.53 | 8.57 | 9.27 | さらに塩基価低下 |
水分量(間接法)mass% | 0.057 | 0.075 | 今回は夏の高速走行があったためか
水分混入量は減っている |
|
燃料希釈GC法mass% | ----- | 1.5 | ||
金属分=鉄(Fe)mass% | 0.001以下 | 0.001以下 | ||
金属分=鉛(Pb)mass% | ----- | ----- | ||
金属分=銅(Cu)mass% | 0.004 | 0.001 | 多少増えている | |
金属分=クロム(Cr)mass% | ----- | ----- | ||
金属分=アルミ(Al)mass% | 0.001以下 | 0.001以下 | ||
金属分=ケイ素(Si)mass% | 0.001以下 | 0.001以下 | ||
評価:
動粘度の変化は軽微なものとなっています。 また、水分混入量もほとんど検出されませんでした。摩耗金属分として銅が若干多めに検出されましたが問題となる量ではありません。 他の摩耗金属分もほとんど検出されていないことから、潤滑状態は良好であったと推定されます。今回の試験油からは異常(コンタミ)は見られませんでした。 |
オイルに入っている添加剤成分は
エンジンを保護する基準となる必要最小限より多少なりとも多く入れられています。
最初から入っている添加剤自体も高性能になってきておりますが
ベースとなるオイルそのものよりははるかに劣化し易く、
長期間使用によるオイルの性能低下を見越しての処方なのです。
このために、使用した初期段階では燃費が向上すると思われるデータが多く見られますが
これは、後から入れる添加剤を併用して使うと更に燃費が上がるという事からも
理解出来る事柄です。
つまり、オイル性能は販売する時点で
表示している規格の規格水準を超えるように添加剤が入れられている訳で、
維持する為には、その添加剤の添加量を
○オイル中に常に「入れすぎ」状態にする(=それでも下がるのは止められない)
○劣化しにくい高性能添加剤を入れる(=オイル劣化の防止とエンジンの保護はするが、異物混入は阻止出来ない)
○高性能フィルターを併用使用する(=害となる異物はある程度除けるが、成分の劣化は防げない)
というようになると思うのですが、
劣化した成分を調べて、その分だけ添加しても既にオイル中に異物が混入しているわけですから
それを取り除かない限り
どの段階かではオイルを交換する必要が出てきます。