摩擦と摩耗を減らすには

摩擦の分類はこちら エンジンにオイルを入れる理由の最も大きな役割は”オイルの潤滑膜を利用して 摩擦と摩耗を少なくする”ということです。 つまり金属同士が直接触れ合わないようにオイルという”膜”を、 サンドイッチのようにはさみこんでいるわけです。もし、この膜が完璧なら 摩耗は殆ど起こりません。この状態を”流体潤滑”といいます。けれど、 実際はエンジンは摩耗劣化していきます。 なぜでしょう。

 まず、金属の表面をみてみます。
 
 

金属の表面図

一般の殆どの金属表面は 機械仕上げ面 のような状態で山脈状になってます。 超精密仕上げの最高級でも0.05ミクロンぐらいの荒さです。 こうした凸凹面に荷重がかかったら、どういう状態になるでしょうか? 次にその状態を表します。

荷重を支えているのは接触点の面積 になります。 A×Bの見かけの接触面積より小さいということです。この状態で動かそうとすれば、 かなり強い摩擦が起こります。この状態を”乾燥摩擦” とよびます。 そしてこの真実接触部では金属結合やイオン結合などによって強い 凝着=焼き付き、がおきます。

 金属同士の間には、オイルの膜があり、金属同士の直接の接触を 避けていますが、完全に固体接触が避けられるはずのないことは、接触面の ”荒さ”から、わかります。

 摩擦があるわけですから、必ず摩耗します。そして削られた摩耗粉がさらに 加わって摩耗を促進します。オイルについて言えば、オイル成分と金属が 化学変化を起こし、化学摩耗も加わります。
 
 

表面処理剤の役割

表面処理というのは、この荒い金属表面の真実接触部の面積を広くし、 表面金属を柔らかくしたりする事によって、直接接触している金属同士の凝着 を避けることにあります。

 この場合、表面処理として塩素系薬品を使用していることが多く、基本的には 金属を、削り落として真実接触部の面積を広げています。

 イメージとしては、荒い木材にカンナ掛けしている状態 をさします。

潤滑の状態

必ず摩耗することは、わかりましたが、どんなときが一番摩耗しないのでしょうか。 このことについて、
1900年代初期のドイツのストリベック(ストライベック・Stribeck)という人が 軸受けの摩擦について、
多くの実験をして次のような結果を導き出しました。

            オイルの粘度(η)×摩擦する物の速度(V)
     摩擦係数(f)は ──────────────────────
              摩擦面を押しつける力(W)

  の変化によって 潤滑状態が変わり、それは次のような曲線になります。
 

ストライベック線図(トライボロジーハンドブックより)

  

        η(粘度)×V(速度)
摩擦係数f ───────────      
          荷重(W)     
     

境界潤滑の複雑さ

固体(1)と固体(2)の間では...凝着、移着、アブレシブ摩耗、 表面疲労、摩擦の増大、潤滑膜の 生成がおきています。

固体に挟まれて潤滑剤は...固体表面にくっつき、 化学反応を起こして潤滑膜をつくり、 摩擦、摩耗を少なくします。これは、かなり効果の大きい物質をつくる添加剤もありまが、 反面、反応して出来た化合物が潤滑液に溶け、かえって固体をすり減らすと言う 化学摩耗を起こすこともあります。

環境は...酸素や水の影響、押さえつけている荷重の大きさ、 固体のこすれる速さ、 摩擦で発生する摩擦熱、外気の温度などが、複雑に大きく 影響します。

 こんな具合ですからオイルと添加剤はある意味では、手作り状態で、まだまだ進化 し続けているわけです。
 
 

潤滑剤の3つの状態

(1)気体...空気、不活性ガス(ヘリウム、アルゴンなど)
              空気も潤滑剤です。というのは固体の表面にくっつき摩擦係数を真空中よりも小さく
       しますし、パソコンのFDなどの磁気ディスクにも、ヘッドを浮かすためつかわれて
       ます。また発生する熱を冷却するということにも使われます。
         
(2)液体...油、エマルション、水溶液(ソリューション)、グリース(半固体状)
              一般にはオイルが代表格になりますが、燃えると危険な場所には水をベースにして
       潤滑剤をいれています。また、エンジンオイルとしては(3)の金属や化合物を積極的に
       取り入れています。

(3)固体...軟らかい金属、無機化合物、有機化合物
       軟らかい金属とは、カルシウム、亜鉛、鉛、銀、銅、などで、それらの化合物も
              あります。最近はチタンボロンなども使用されています。

       よくオイルに入れられているのは、無機化合物の二硫化モリブデンやセラミックスで、
       モリブデンの方は層状結晶構造なので(新聞紙を重ねて積んでおいて、走ってきて
       その上で急に止まると、新聞紙が、ずれてすべってしまいます。そんなような構造と
       思ってください。)摩擦係数を下げます。
       セラミックス(代表的にはアルミの化合物)の方は、表面がきめ細かく、転がり
              やすく、耐熱性、耐摩耗性にもすぐれ、腐食しにくいので、
       はさみやエンジンのターボに使われたり、そのままオイル添加剤としたりしています。
       オイル添加剤として使用されるセラミックスとしては”ころがり摩擦”
       という現象とセラミックス固体粒子が固体表面を削るアブレシブ摩耗が起こります。
         
       他に有機化合物としてテフロンに代表されるプラスチック系の物は、表面が
       分子レベルで緻密でなめらかで、分子間の結合する力が小さいので、摩擦によって
       すべりやすい構造になってます。しかし極圧に対しては、否定的な意見があります。
       一般的には有機亜鉛系の減摩剤を使用していますが、安定性に欠けます。
       有機モリブデンなどの有機金属系の潤滑剤もありますが、技術的に難しいので、
       コスト面では高価な物になっています。

       固体の潤滑剤は、殆どが公害性を持っているため、処理する際に、注意が必要です。

もう少し詳しく知りたい方は 表面の化学反応 へどうぞ。
macchann


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