摩擦する固体の表面での化学

エンジンオイルや添加剤を使用する理由は、
潤滑剤によって固体同士よりも低い剪断抵抗の油膜を作り、2つの固体を引き離すことで、
摩擦・摩耗を少なくし、表面の損傷を防止する事と言えます。

その油膜の形成や潤滑性は

・潤滑油の粘度
・添加剤の化学的性質
・荷重や速度などの機械的条件

によって変化します。

専門的には潤滑モードが3段階に分けられて考えられています。

1.流体潤滑(HDL) および 弾性流体潤滑(EHL)

2.部分弾性流体潤滑(PEHL) または 混合潤滑(ML)

3.境界潤滑(BL)

これらの状態の時に

固体の表面にもあらさがあるため、2つの固体の凸凹の高さにも
関係するわけですが、その凸部の平均偏差を「」として考えます。

油膜の厚さは「h」で表しますと2つを併記して表せます。
流体潤滑(HDL) 、h>10-5cm 潤滑油の内部摩擦(レオロジー特性)による抵抗が支配的な潤滑。
弾性流体潤滑(EHL) 10-4〜10-6cm 効果的潤滑膜はあるが、圧力による潤滑膜の粘度が増大する。固体表面は弾性変形する。
部分弾性流体潤滑(PEHL)混合潤滑(ML) ぐらい 固体の凸部は一部で接触し、荷重もそこで支えられる。摩擦抵抗は
油膜の剪断と表面凸部の間の相互作用によって生じる。
境界潤滑(BL) h→ 0へ向かう 荷重は表面凸部の変形を通して支えられる。摩擦現象は潤滑油の
粘性からは説明できず、固体間の接触の相互作用と
固体と添加剤を含む潤滑油の間の相互作用
特に潤滑油の界面化学作用や化学反応性が重要となる。

表面の化学反応を考える領域は
上記の潤滑モードの2.と3.に関わるものです。
ただ、1.は理想的潤滑と考えられますので、現実のエンジンなどでは、どうしても
摩耗に関わるこちらの方に重点が置かれそうです。

なお「表面粗(あら)さ」をどういうふうに定義するかが問題になっていますが、もともと、加工に関連して製品の
品質管理的な側面が強いため、3次元的なものをどこまで測定すれば良いかは、用途によって
変わってきます。
オイルの定着性向上のため、深さ4ミクロンの溝をわざわざ施してある軸受けや、磁気ハードディスクでは、
50−100nm(ナノメートル)の溝を掘っていますが、これを「表面粗さ」と呼ぶかどうかはわかりません。
けれど、製品が壊れて行く=摩耗面で言えば「表面が意図した幾何学的形状から外れる」と言うことを
考えて行くとどうしても、トライボケミストリーを考える必要性が生まれてきます。

1994年改訂(現在)の「表面粗さ−定義および表示」を参考として載せておきます。
 
粗さの求め方 粗さ曲線よりすべてのパラメータを求める。
基準となる線 平均線(ろ波うねり曲線を直線に置き換えた線)
粗さ曲線のカットオフ値 位相補償型高域フィルターの利得が50%になる高周波に対応する波長
パラメータ(評価変数) 算術平均粗さ・・・・・・・・Ra
最大高さ・・・・・・・・・・・・Ry(=Rmaxは使用しない)
十点平均粗さ・・・・・・・・Rz※1
凸凹の平均間隔・・・・・・Sm
局部山頂の平均間隔・・・S
負荷長さ率・・・・・・・・・・・tp
評価する部分 評価長さ・・・・・・・・・・・・ln
基準長さ・・・・・・・・・・・・l
(すべてのパラメータに対して評価)
区間表示 上限下限を書き、単位と粗さのパラメータを書く
例えば(6.3−1.6)μmRaのように。
廃止されたもの(1982年改正時より) 最大値表示、仕上げ記号、粗さ数
1十点平均粗さ・・・Rz・・・(ten points average height, peak to valley average)
             基準長さの粗さ曲線において、その平均線から高い方の5個の山および低い方の5個の谷までの距離を
             それぞれ平均した値の差。単位はμmである。
                             〔JIS B 0601〕
 

参考文献:トライボロジスト43号第11巻(1998)919−924:谷村吉久
(収容文献)文献 1.ASME B46 1−1995.
       文献 2.日本規格協会:JIS B 0601−1970 
       文献 3.日本規格協会:JIS B 0601−1976
       文献 4.日本規格協会:JIS B 0601−1982
       文献 5.日本規格協会:JIS B 0601−1994
       文献 11.日本規格協会:JIS B 0610−1998
       文献 12.奈良治郎:表面粗さの測定・評価法(テクノコンパクトシリーズ6)、(株)総合技術センタ(1983) 7.



境界潤滑の考え方

・1.固体表面エネルギー
・2.物理吸着と化学吸着
・3.表面温度
・4.耐摩耗膜の構成
・5.トライボ化学とメカノケミストリー
・6.ケモメカニカル効果



1.固体表面エネルギー
  A.表面張力と表面エネルギー
    表面張力と表面エネルギーの関係は熱力学的に下記のように示されます。・・・ こちらにも書いています。

       
     表面張力(単位長さあたりの力)=γ・・・単位面積あたりのエネルギー量(表面自由エネルギー)を単位とします。

CGS単位・・・γ(dyne/cm)=Gs(Gibbsの表面自由エネルギー/単位面積)エルグ(erg/cm2)
                                   =Fs(Helmholtzの表面自由エネルギー/単位面積)

SI単位・・・・・γ(J/m2)・・・1Jm2=1000erg/cm2

  B.接着仕事と凝集仕事
     接着仕事==γa+γb−γab・・・a,bは固相、液相の表面エネルギー
                        両相が液体でγab=0ならば両相間の分子は
                                   強く作用し合い、界面を通して自由に混じり合う。
                               aの固体とbの固体が持つ表面自由エネルギー=γa+γb
                               と2固体の界面自由エネルギー=γabの関係。
                               は2固体を引き離すのに必要なエネルギー、または
                                   2固体がくっついているエネルギー
 
  
     凝集仕事=Wc=2γa       ・・・単一相が接している場合、つまりa=bの場合の表面張力
 

           広がりの条件= γsv0>γLV0  ・・・・・γsv0・・・(液体の飽和蒸気下の)固体の表面エネルギー
                                 
                         γLV0・・・(固体表面上の)液体の表面張力

                                                                       この場合は固体面の方が液体の表面張力より強いため、液体が
                                                                       固体表面に引き寄せられて広がると言うことになります。
 

表面エネルギーの小さな材料は対称性が高く、極性を持たないため、水などに濡れにくい。
表面張力が大きいほど、濡れにくくなる。
材料
表面エネルギー
溶剤
表面張力(20度Cdyne/cm)
アルミニウム
500
72.7
1100
エチレングリコール
48.4
2030
シクロヘキサノン
35.2
木材(ダクラスファー)
58〜61
ダイアセトンアルコール
30.2
メラニン樹脂
52
キシレン(o,m,p,)
30.0,28.6,28.3
ポリビニルブチラール
53.6(26度C)
エチレングリコールモノエチル
エーテルアセテート
28.2
ユリア樹脂
45
n−ブチルアセテート
25.2
エポキシ樹脂
46、47
メチルエチルケトン(MEK)
24.6
ポリ塩化ビニル
39、41.9
n−ブチルアルコール
24.6
ポリメタクリル酸エチル
39、41
アセトン
24.0
ポリ酢酸ビニル
36.5
ミネラルスピリット
24.0
ナイロン
46
メチルイソブチルケトン(MIBK)
23.6
ポリエチレンテレフタレート
43
メタノール
22.6
ポリビニルアルコール
37
ヘキサン
18.6
ポリスチレン
33
ポリエチレン
31
ポリプロピレン
29
シリコーン樹脂
20
ポリテトラフロロエチレン
18.5
参考文献「オゾンの不思議」講談社伊藤泰郎著b1270から(引用:沖津俊直「接着剤の実際知識」)


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