レオロジーと言う言葉は1929年にビンガムが「物質の変形と流動に関する科学」と定義され、
固体、液体および気体の粘性、弾性、塑性、チキソトロピー(注1.用語集にあり)
などを対象としています。
流体潤滑(HDL)と弾性流体潤滑(EHL)では、オイルのレオロジー特性が
重要な要素となります。
ですから、低負荷で十分な油膜条件が得られる場合、
液体の粘性、ニュートン流動・非ニュートン流動かどうか、粘度と温度との関係、粘度と圧力の関係、
粘度とその分子構造などに注目する必要があります。
ただし、高負荷域の混合潤滑(ML)や境界潤滑(BL)などでは別の特性が働くため
摩擦面の状態を考える事が必要になります。
オイルの潤滑に関して考えますと
特に
・流体潤滑(HDL)ではオイルの粘性に、
・弾性流体潤滑(EHL)では粘度と粘性の圧力係数が
重要です。
ということで、以下のことを考えてみます。
1.液体の粘性
2.ニュートン流動と非ニュートン流動
3.粘度−温度関係
4.粘度−圧力関係
5.粘度と分子構造
1.液体の粘性
オイルを入れるとき、水と違って流れにくい事は経験上ご承知のことと思われます。
これは、水の粘度が小さく、オイルの粘度が大きいからなのです。
この事は流れる流体に「内部摩擦抵抗」があるということです。
隣り合った流体の平面は異なる速度で流動しているわけですが、
速度をならして一様にするような向きの接線力が現れ、
これを「粘性」「粘度」といいます。
上記の流体の流動に「内部摩擦抵抗」としてあらわれるものです。
流体の内部で、隣り合った流体を動かそうとする時には上記のような考えがありますが、これは
温度が一定の時の層流状態における式になります。
潤滑油の場合「動粘度」が広くもちいられてますが、これは
「絶対粘度」を密度で割ったものです。
単位は「cSt」(センチストークス=1*10-6m2/s)が一般的です。
「絶対粘度」・・・面積A=1cm2、距離h=1cm、u=1cm/s、加える力F=1dyneの時、
2.ニュートン流動と非ニュートン流動
A.ニュートン流動・・・
a.粘性系 | 1.ダイラタンシー | 固体粒子の濃剪断力が増加すると、粘度が増加する。
粒子が高密度に充填されている状態に、剪断を加えると粒子同士がすべりあって分離し、粒子全体のしめる空間が大きくなる。 空間の液体は不十分となるために、流動しにくくなる。 厚懸濁液(しめった砂など)に見られる。 |
2.準粘性流体 | ダイラタンシーとは逆に、剪断速度が増すとともに、粘度が減少するもので、狭い意味での「非ニュートン流動」。 | |
3.塑性(ビンガム)流動 |
流動しだしてからは、ニュートン流動を示し、剪断速度が剪断応力に比例する。 ビンガムの方程式、 「剪断応力−降伏値=一定の塑性粘度*剪断速度」で あらわされるグリースの理想的塑性流体。 |
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4.擬塑性流動 | 粘度指数向上剤添加油のように、降伏値以上で、粘度が剪断応力の増加と共に減少する。ある速度までは剪断応力が急激に増大し、そこからは塑性流動と同様な剪断速度が剪断応力に比例する挙動を示す。
サスペンションやエマルションなど。 |
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b.時間に依存する系 | 1.チキソトロピー流体 | 剪断速度が、剪断応力と剪断応力がかかる時間に依存するもの。
上記の図のようなループがえられる。 潤滑グリースは剪断によって粘度が低下し、流動を示すが、放置すると元のかたさに戻る。 これは、剪断によってバラバラになった繊維状の石けんミセルが時間と共にもとの網目構造に戻る。なお一体型タイプもある。 |
2.レオペクシー流体 | チキソトロピー流体と逆に、一定の剪断速度で流動させると、粘度(剪断応力)が増大する。
せっこうやベントナイトの懸濁液などがあげられ、剪断によって構造の形成が助長されたり、今までなかった構造が形成されることによる。 非石けん系の高温用ベントナイトグリースがあります。 |
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c.粘弾性系 | 剪断速度が剪断応力と内部ひずみの関数、つまり、粘性と弾性を示す流体をさします。
これは、高分子の濃厚溶液や溶融物でみられ、低温や速い変形では弾性を示し、高温やゆっくりした変形では粘性をしめします。また、高圧高速のころがり条件では、潤滑油やグリースは弾性変形します。 |
エンジンオイルでの低温始動性での問題点に、低温時の粘度増加があげられ、
これによって、機械の始動が困難になる場合があります。
体験的に「エンジンが重い」と言う表現であらわされる事柄です。
反対に、高温では粘度は低下し、ひどい場合、著しい粘性油膜形成能力の低下によって、
オイルによる流体力学的効果は得られないことになり、
過酷な境界潤滑となり、最悪の場合エンジンの焼き付きが起こります。
A.ウォルザーの実験式
loglog(ν−k)=−mlogT+b
ν=油の動粘度cSt
T=絶対温度
m、b=油によって決まる定数
k=定数(ASTMでは、ν≧1.5cStの時0.6。ν<1.5cStの時0.65。ν<1.0の時0.7。ν<0.7の時0.75。)
と言う式で、普通の鉱物オイルは低温域=「くもり点(パラフィン分の析出による)」から
大体120度Cまでの範囲で任意の粘度が求められる。
この温度範囲外では誤差が大きく、化学合成油では難しい。
B.ASTMスロープ
アメリカ材料試験協会規格ASTMでは、
粘度と温度の関係をloglog(粘度、SUS)〜log(度F)の直線の傾きから(図参照)
tanα=Y/X
で定義している。
この図表を用いることにより、2つの異なる温度における動粘度から、
任意の温度における動粘度を求めることが出来ます。
ウォルザーの式のmとの関連は1.5cSt以上の油に対して
m=5.056(ASTMスロープ)
になります。
C.粘度指数(VI)・・・式はこちら
潤滑油の「粘度と温度の関係」を表す方法で、一般的になっているのが
この「粘度指数」で、
数値が大きいほど、いわゆる=よいオイルとして評価されるわけです。
ここで表される「VI」はあくまでも
温度変化に対する粘度変化の比較に限られ、
オイルの性能をすべて表すわけではない。
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