摩擦する固体の表面での化学−その2
境界潤滑の考え方

1.固体表面エネルギー
2.物理吸着と化学吸着
・3.表面温度
・4.耐摩耗膜の構成
・5.トライボ化学とメカノケミストリー
・6.ケモメカニカル効果



1.固体表面エネルギー
  A.表面張力と表面エネルギー
  B.接着仕事と凝集仕事      
  C.表面エネルギーの計算式

固体や液体の内部は、内部分子との分子間引力によって引きつけられ、出来るだけ小さくなろうとします。
ところが液体や固体の表面にある分子は、分子の半面が異なる分子に囲まれているので、高い内部エネルギー状態にあります。
そのため、表面が過剰のエネルギーをもっていることになり、そのエネルギーを安定した状態にしようと液体では
表面積が最少になる「球」になります。

球になるはずの液体が普通観察される場面で、球にならないのは、
その液体に重力がかかり、液体を変形させる事と、
固体と接触する場合、液体−固体間にその界面の相互作用力が現れ、液体の形を変形させる事によります。
    
C.表面エネルギーの計算式    

 結晶の劈開実験から表面エネルギーを求めるギルマン式は、
脆性物質の表面エネルギー値と予測劈開面と良い相関があるが、
金属では相関が弱い。
上記内容やギルマン式に関してはこちらのPDFもご参照ください。

 固体と液体間の相互作用力=接着力を知る上では、ヤング−デュプレ式が有効になり、
その個体の表面自由エネルギーはフォークス式とそれを改良した拡張フォークス式を使って求められる。

 また、固体−固体間の場合は、それらから計算し、理論値が求められている。ただし、実際は違っているため、
原子間力顕微鏡(AFM)などが発展していくと、固体表面と接着する物質間でもっと正確な相互作用力が
分かってゆくものと思われます。

上記の表面エネルギーを考えて、物質を分類しますと、
1.低エネルギー物質・・・フルオロカーボン、メチルシロキサン、軟質炭化水素類(50cal/cm以下)
2.中エネルギー物質・・・非金属元素や多くの有機化合物(50〜200cal/cm
3.高エネルギー物質・・・水、金属塩、金属、金属化合物(200cal/cm以上)
となりますが、
固体表面のオイル潤滑を考えると
オイルが金属表面をぬらす=広がる=吸着すると言うことは大事な事柄で、
”ぬれ”や接着、潤滑、に有意義であるため、
ぬれの尺度として「臨界表面張力(γ)」という考えを簡単にあらわします。

各種液体の表面張力を・・・γ(γLV
固体表面の接触角を・・・・・θ 
固体・液体の界面エネルギー・・γsL  としますと
cosθ=(γs−γs)/γLV

cosθ=1の時、γLV=γcとしたから
γc=γs−γs が得られ
γs≫γsとすれば
γcγs−γs
となり、γcとγs
と密接に関係します。

2.物理吸着と化学吸着

境界潤滑を考える上で、どういった吸着方法があるかを考えますと、
どのような方法で金属摩耗を防いでいるかが分かりやすくなりますので、下記3種類を見てゆきたいと思います。

・物理吸着
物理吸着のプロセスはファンデルワールス力になり、比較的弱い吸着になります。
脂肪族系(アルコール・アミン・アマイド・脂肪酸など)の油性剤の吸着エネルギーは10−14kcal/molぐらいになり、
固体表面に”ぬれ”を生じさせ、摩擦減少やさび止め効果を持つとされます。
ただし、高温(100度C−170度C)までにほとんど金属表面から離れてしまい、
どちらかというと、流体潤滑域での範囲では効果があると思われます。
ZDTP(ジアルキルシチオりん酸亜鉛)膜や有機モリブデン(例えばモリブデンジアルキルジチオカーバメートMoDTC)等は
代表的なFM剤ですが、基本的には物理吸着膜となります。

・化学吸着
物理吸着と異なり、固体表面の性質や吸着する物質の特性によって電子の交換や共有で結びつく、
きわめて強い結合になります。
適当な表面処理をすれば表面から化学的結合は離れ、吸着物質を取り除くことが出来ますが、
大きなエネルギーが必要になります。
化学反応ではないので、生成した化合物を分離することは出来ない化学反応とは対照的です。
また、単分子膜のプロセスですから、一度単分子層でおおわれますと、化学吸着は完了します。

最初は化学吸着ですが、環境雰囲気によって
化学反応へ変わり、溶媒に溶けない生成物が表面に吸着する場合は、
「沈殿吸着」と呼ばれる吸着プロセスになります。

・化学反応
酸素と2分子の水素からH0が出来るような反応で、酸素が鉄の表面に吸着した場合、酸素濃度が高いか、
温度が十分高いと酸化反応が起こります。
水の場合も、混ぜただけでは反応は起こりません。
一度反応してしまうと、もとに戻す事は容易ではなく、金属表面から分離されることが多いため、どちらかというと、
「腐食」と言うイメージを強く感じます。
オイルにも添加剤として、あるいは不純物成分として、腐食性のある物質が含まれ、化学反応を起こしますが、
燃料の種類や燃焼方法によっても塩酸、硫酸、硝酸などの酸を生成しますので、
これらとセラミックや鉄やアルミを化学反応させないため、酸化防止剤等が含まれます。


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