実際にテストしてみると

オイル添加剤の性能を評価するのに、よく極圧性が引き合いに出されますが、
実際にテストして見ますと、金属の削れが多く、
接点直下での面積対荷重のバランスを出してみないと、本当に
その添加剤が極圧性に優れているかどうかわかりません。

例えばエンジンオイル単体での
「チムケンOKロード」といわれる場合、
一般的にはテストピースにかかる力が68kgぐらいまでにほとんどロック状態になりますし、
1cmの面積に計算してみますと500kg/cm2ぐらいの圧力は一応大丈夫となります。
ここでは削れながら回るわけですが、
回しているのはモーターの力ですから、
どれぐらいのトルクが発生しているかでも、かけられる圧力が変わります。

つまり、大きなモーターのついたテスト機器では、大きな電流が流れる代わりに、
トルクも大きい訳ですから、削れがひどくなっても回り続けることが出来ますので、
耐荷重特性はよくなるはずです。

ちなみに出力5Aのモーターでの荷重が100kgまでOKなオイルでも
出力10Aのモーターで荷重をかければ100kg以上でもロックせず回るはずになります。

もう一つは、
テストピースの材質の影響もあります。
きわめて堅い材質のテスト片でテストした場合は、削れ自体少なくロックしにくいでしょうが、
柔らかい材質のテスト片でテストすれば、削れも大きくなり、ロックし易くなります。

テストデータが「機器の違い」・「テストピースの材質の違い」・「圧力のかけ方の違い」等々で
同じ性能の全く同じオイルでさえ異なった数値になりますので、
テスト方法は最低2回以上する必要があり、平均を出してやる必要も生じます。

ですから、
 
テストオイル テスト機器 テスト片 ロック直前負荷電流 焼付接点荷重圧 単位面積荷重圧 負荷電流
オイル(BP−鉱物油)1回目 無負荷電流3.2A−NO.1 HRC58 >6.5A 85kg 6.3kg/mm2 >10A
”−2回目 >7.0A 102kg 6.0kg/mm2 >10A
”−3回目 無負荷電流4.0A−NO.2 同程度 >7.5A 280kg 16.5kg/mm2 >10A
オイル(ワコ−ズ部分合成) >7.0A 280kg 20.2kg/mm2 >10A
参考BP+GRP ロックせず4.3A −700kg以上 891.7kg/mm2 4.3A
参考BP+GRP 無負荷電流3.2A−NO.1 HRC58 ロックせず3.9A −340kg以上 77kg/mm2 3.9A

というようにするのですが、やっぱり比較しにくいデータになってしまいます。

また添加剤では
 
テストオイル+10%添加剤 焼き付き荷重(D3233) 摩耗量226.8kgで30分間(D2670) 摩耗量453.6kgで30分間(同左)
オイル単体10w−30(SH) 453.6kg 10.2mg 不可
スキルE 1814kg以上 7.5mg 18.0mg
ミリテック 1247.4kg 24.2mg
スーパーゾイル 907.2kg 23.6mg
スーパーアタックXI 793.8kg 25.7mg
テフロン系−スリック50 453.6kg前後
テフロン系−スリック50 315kg以下(別ファレックス試験機) 250kgの摩耗の大きさ3.076mm 焼付直前単位面積荷重圧44.7kg/mm2
テフロン系−デュラルーブ 同上” 250kgの摩耗の大きさ3.355mm 同上41.0kg/mm2
テフロン系−クインテック 500kg以下” 400kgの摩耗の大きさ1.527mm 169.0kg/mm2

というように
一見何のことかわからないテスト結果になってしまい、データを比較することにさえ疑問が出てしまいます。

同じ土俵でテストするにしても、
テストごとに微妙な結果の違いは避けられず、
都合のいいことに、比較する対象の添加剤が販売したい製品より勝っている場合は削除も出来ますし、
劣っている面を出せばいいことになりますので、
一覧表など出来るはずはありません。

極圧性だけがすべてでないにしても・・・

極圧性を比較することは、添加剤やオイルの性能を比較する上で
非常にわかりやすい実験ですし、
同時にテストする事で比較が見える形で現れやすいため、
時々、デモンストレーション的に行われています。

オイルだけで荷重をかければ、早々にロックしてしまいますし、
ロックする荷重がかかれば、テストピースに目で見てわかるほどの摩耗痕が
残ります。
そこで、
今度は添加剤を加えて再度テストしますと、
ロックしない圧力しかかけられないテスト機器ですから、
当たり前のように今度はロックしませんし、テストピースもそれほど削れていません。
両者の摩耗痕を比較すれば、
一目瞭然となります。
添加剤入りのオイルの方が削れも少ないはずです。

これは当たり前のことなのです。
ロックしなければ、金属の摩耗量は少なく、削れ自体はそれほど進行しないはずです。
金属が直接ふれあって、摩耗する度合いを減らすという意味では見事に
その的を得た実験といえます。
 

ただ、不思議ですが、それならどうしてすぐロックしてしまうオイルを
純正品としてメーカーは売っているのでしょう。
理由は簡単です。
メーカー保証の距離まで、普通のオイルで大丈夫なように「摩耗」するオイルを売っているからです。
どんな高級なオイルや添加剤といえども、
今のところ(多分将来も)摩耗をなくせるような製品が出来ません。
摩耗を少なくする事が出来るだけなのです。

そこで、エンジンの設計段階で、どれだけ走行したら「摩耗」の限界=エンジンの寿命が起こるかを
計算して、摩耗してもエンジンがかかるように各部品の耐久性を考慮に入れた設計がなされます。
エンジンの性能劣化はともかく、
圧縮率が60%ぐらいまでのコンプレッション低下であれば一応、エンジンはかかるでしょう。
通常の走行であれば、これくらいの状態になるには2000ccクラスであれば
20万キロ以上かかるでしょうから、
摩耗に伴う異音を気にしなければ、自動車の寿命を全うするまで大丈夫と言えそうです。

もちろん必要最小限の添加剤は最初からオイルに入れなければ、オイルの性能が保てませんし、
エンジンに対するダメージも増えますので、
オイルグレードをあげつつ、高性能化をオイルメーカーも研究しているわけです。
添加剤嫌いな人も、メーカーがテストした「対性能的に安くて効果的」な添加剤の恩恵に
あずかっているわけですが、
市販の「添加剤入りオイル」の性能がよくなればなるほど、後から入れる「添加剤」の効果は薄くなりますので、
誇大広告的な内容に辟易するのもよく分かる事と言えます。
まして、エンジンを分解整備できる人にとっては、後から入れる添加剤などより、
ROMチューンや高性能部品を使用する方が(整備費用もいらないし)安く付きますので、
添加剤嫌いがさらに助長されてしまうわけですし、
お金がある人なら、新しく改良されたニューモデルに乗り換えたらいいことなので、
添加剤本来の目的である「摩耗を減らす=機械の寿命を延ばす」事など
関係ないことになってしまうわけです。

添加剤の極圧性と体感度

たまに「どんな添加剤を使っても効果はわかりにくい」
ということを聞きます。

で、どういう事か聞いてみると、
1.エンジン性能と対応するオイル粘度のミスマッチ
2.極端に省エネ運転をする
ことが大体の使用例のようです。

オイル粘度とエンジン性能とのマッチングは、基本的には、そのエンジンに標準で使用されている
粘度を参考に考える必要があります。
エンジンオイルに10w−30を指定している場合に
15w−50を入れますと、粘性抵抗がエンジンの出力を押さえてしまい、
エンジン本来の性能は発揮できません。
粘度は結構エンジンの性能にはっきり現れますし。
それはメーカーがオイルの粘度も考えてエンジンの
設計をしているからなのです。
例えは悪いですが、ペンキを塗る場合、シンナーで(あるいは水で)ペンキを薄めるわけですが、
ペンキが堅いとうまく刷毛が滑らず手も疲れます。
逆に薄いとペンキが垂れてきてしまいます。
まあこれが粘度ということなのですが、
ですからペンキも夏ではシンナーを少なくし、あまり薄めず濃くなりますし、
冬ではペンキが堅くなりますので逆に薄め気味で使用されてます。

粘度と温度の関係は他のページでも書いてますので参考にしていただくとして、
オイルの堅さというのは大体炭素の数で決まってきます。
普通の鉱物油の場合オイルは
「1本のひも」と考えて、それがたくさんまとわりついて出来ているのがオイルというわけでして、
ですから、「短いひも」の多い場合はひも同士も絡み合いませんので、
さらさらの状態になります。
粘度が低い=ひも同士が引き離され滑りやすいといえます。
これが長いひもになると、引き剥がされにくくなります。

また、炭素が1個づつまっすぐにくっついている場合と
途中で枝分かれしている場合とでは、
その性質も異なってきますし、
温度−粘度の関係も、
枝分かれの多さとそのせん断安定性能も変わってきます。

普通は
鉱物油の場合の粘度は、温度に対して変化が多く、つまり
堅さが温度に影響されやすく、
暖まるまでは結構堅く感じられ、高温域では柔らかくなってしまいます。
冬に鉱物油が重く感じられるのはこういう理由よる事が多くなります。

合成油の場合は
温度に対して粘度の変化が少ないわけですから、
低温から中温域まで比較的柔らかくなりますので、走行の多いコンプレッション
が比較的必要になってきたエンジンには
気密性に乏しいと感じられるかもしれません。

同じSAE粘度表示の場合、
鉱物油が10w−40であれば
合成油はもう少し柔らかく5w−40か5w−30あたりに感じるかもしれません。
ただ、逆に10w−60の合成油ですと、
温度の変化によってきわめて柔らかくなりにくいタイプですから
鉱物油で15wか20w−60のような
感覚を持たれるかもしれません。
こういった感覚的な変化は、オイル自体の温度−粘度特性によっていたり、
添加剤成分のポリマーの影響があります。
実際に自分の自動車にあうかどうかは、試してみるしかないでしょう。
(もちろんオイルの表示と中身が保証されている事が前提となりますが・・)

で、
オイル粘度とエンジンの状態・性能がうまく合っていませんと、後で入れた添加剤の効果が
よく分からないことがあります。
例えば極端な話ですが、
冬に2000ccクラスでも10w−60(または15w−50)の合成油を使用した場合、
それだけで粘性抵抗が増えてしまいますし、
極圧剤の効果が出る金属が接触し易い条件が少ないわけですから、
始動時のドライスタートには効果があっても
始動すればオイルだけの性能に近くなり、摩擦を低減する効果によるパワーアップ感など
帳消しになってしまいます。
この場合は普通に10w−30ぐらいの方が体感出来やすく、
場合によっては0wまたは5w−30という粘度のオイルだけの方が添加剤など使用するより
はるかにパワーアップ感が体感しやすくなることでしょう。

粘性抵抗=粘度によるオイル内部の摩擦がいかに大きいかは、同一オイルでの比較
で体感されている事と思われます。
冬と夏の始動直後のエンジンの状態の違いはアイドルアップを考えても
ずいぶん感じられることからも分かります。

どういう状態の時に一番いいエンジンコンディションにしたいか」、によってオイルを選択すれば
添加剤の持ち味がよく分かることでしょう。
「極圧剤ということから見た添加剤」はあくまでもミクロン−サブミクロン単位で化学変化する
金属表面の状態に関係するわけですから、
摩擦抵抗−粘性抵抗−気密性などの諸条件を考える必要があり、
ただ単に金属表面の摩耗状態=摩擦抵抗だけを減らす事では
体感的なパワーアップにつながらないことが起こります。

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