単位系CGSとSI表はこちら
磁石特有の用語説明
0.磁荷と磁気モーメント
電気における”電荷”に相当するものが”磁荷”(Magnetic Charge)であり、その符号がNとSです。
N極とS極間の距離の積は力学のモーメントに相当し、これを磁気モーメントと呼びます。
磁石は磁気モーメントが無数に集まったものなので、磁石の表面ではN極とS極が露出する事になります。
磁性体が一様に磁化されているときの単位体積あたりの磁気モーメントを、磁気分極J(Magnetic Polarization)
または磁化の強さM(Intensity of magnetization)といい、J=m0Hの関係で表します。
(m0は文字化けするため、実際の記号はギリシア語のエムの小文字、マイクロの記号と同じ”μ”
で”μ0H”となります)
1.磁界
地球上には磁界(磁場)があります。この磁界は、永久磁石はもちろん、電流の流れる導線周辺にも存在します。
磁界の単位はSI単位でA/m(CGS単位でOe)で表します。例えば、地球磁界はおよそ24A/m(0.3 Oe)
です。1.6MA/m(20000Oe)程度の磁界ならば電磁石によって比較的簡単に作ることが出来ますが
、これより強い磁界を作るにはいろいろ工夫が必要になります。
2.磁化
磁界の中に磁石の素材を置くと、その素材は磁気的な変化を起こします。この変化を磁化と呼びます。
また、その変化の度合いを”磁化の強さ”で表し、記号としてはM、単位はA/m(CGS系では記号が4πMまたは
4πI、単位がG−−文字化けしたとしたらπ=パイ=円周率と同じpのギリシア語の小文字)を用います。
3.飽和磁化
磁石素材に加える磁界を増加していくと、素材は磁化を増し、やがて飽和状態になります。この量を飽和磁化といいます。
例えば、バリウムフェライト磁石の飽和磁化(Js)はおよそ0.44T(テスラ)=4400G(ガウス)、2−17系サマリウム・コバルト磁石
はおよそ1.1T、ネオジム・鉄・ボロン磁石(ネオマックスがこれです)はおよそ1.6Tです。
ボンド磁石(冷蔵庫のドアに付いている磁石)の飽和磁化は、
磁石粉の飽和磁化X磁石粉の体積含有率
で求められます。ボンド磁石によく用いられるバリウムフェライト粉と粉は、
ともにおよそ0.45Tです。(100%詰まった状態に対する値)。
磁石粉の飽和磁化を用いる仕事には磁石粉の真密度(いわゆる真比重)が
しばしば必要になります。磁石粉ごとのおおよその真密度を挙げると、
ネオジム・鉄・ボロン磁石が7.6g/cm3、
2-17系サマリウム・コバルト磁石が8.4g/cm3
ストロンチウムフェライト磁石が5.1g/cm3
です。
4.着磁
磁石になる材料=素材に磁化が飽和するまで充分磁界を加える作業を着磁と呼びます。
そして着磁に要した磁界を取り去ると、磁石素材には磁化が残ったままの状態となり、
ここで始めて磁石素材が永久磁石として生まれ変わるわけです。
なお、着磁に要する磁界の強さは「保磁力=Hcjの3−5倍以上に強さを
目安にして決められるのが普通です。
5.磁束密度(磁気誘導)
着磁によって磁石素材は磁化されますが、このとき素材には一般に磁束が通るようになります。
単位面積あたりの磁束を磁束密度(磁気誘導)と呼び、記号は B で表します。
単位は磁化の強さと同じです。この磁束密度は、B=J+μ0H(Hは磁界の強さ)
で表すことができるので、素材に外部から加わっている磁束密度μ0Hとそのときの
磁化μ0M(厳密にいえば磁気分極J)による磁束密度を加えたものに
等しくなっています。
空気の磁界の強さは磁界の強さに関係なくほとんど”0”(つまり空気の4πlはほぼ0)なので、
着磁に用いた磁界の外に磁石を取り出したあと、その磁石のまわりの磁界の大きさが
そのままその場所での磁界となるわけです。
6.残留磁束密度、保磁力、ヒステリシス曲線
磁石素材に徐々に磁界を加えていったり、また磁界を減少させて逆の磁場を加えていったりしたときに、
磁石素材の磁化の強さや、磁束密度がどのように変化するかを調べてみましょう。
まず、磁石素材に徐々に磁界を加えていくと、素材は次第に磁化の強さを増し、ついに飽和磁化の点に達し、
−−−ここまでの磁化過程を「初磁化過程」といいます。
次に磁界を減少させ、磁石素材に加わる外部磁界を0にしたとき、
磁石素材が持っている磁束密度を「残留磁束密度=Br」(残留磁気誘導)と呼びます。
さらに外部磁界のない状態から今までと逆方向に磁界をかけてゆくと、
磁化も磁束密度も減少を始めます。
そして磁石素材に磁束が通らなくなる状態がきます。このときかかっている磁界の大きさを「保磁力(HCB)」
と呼びます。
さらに逆方向磁界を増してゆくと、磁束は今までと逆方向に流れはじめ、あるところで磁化もなくなります。
このときの磁界の大きさを「保磁力(HCJ)」と呼びます。
つまり保磁力には2つあって、1つは磁束密度Bを0にする磁界HCB
、
もう1つは磁界の強さJを0にする磁界HCJです。
さて、保磁力(HCJの点を越えて逆磁界を増加させていくと、磁化は始めの向きとは逆になり
逆磁界の向きと一致し、やがて磁化は飽和に達します。
このくり返しで描かれる曲線がヒステリシス曲線(磁気履歴曲線、B−Hカーブ)といわれるものです。
7.反磁界
永久磁石は、自分で作るN極S極によって外部に磁界を作る一方、
磁石内部にも同じN極S極によって磁界が生じています。
これを反磁界と呼び、その大きさも向きも磁石内部の磁束密度とは異なっています。
反磁界は自分自身の磁化を減少させるように作用し、
N極S極が近づくほど、すなわち
磁石の寸法比(長さ/直径)が小さいほど、大きくなります。
8.減磁曲線
永久磁石は磁化された結果残る磁束を利用しますから、反磁界が大きくても
磁束密度が消滅せずに残っているほど、磁石の特性を良く備えていると言えます。
従って一口にいって残留磁束密度と保磁力HCBが大きいことが優れた磁石の必要条件です。
逆磁界の大きさにより磁束密度がどう変化するかを知るために減磁曲線を用います。
この曲線は、とりもなおさず磁束密度と磁界の関係を示したヒステリシス曲線の第二象限そのものです。
永久磁石の真の評価の第一歩はこの減磁曲線を見ることです。
なお、「減磁曲線」の呼び名は本来はB−Hカーブに対して使われる言葉なのですが、現在はJ−Hカーブにも
使われています。
すると、「減磁」の意味が異なることに気を付けなければなりません。
J−Hカーブでの「減磁」は物質内部の変化(磁壁の移動や磁化の反転など)
によって「J」が減ることのみを意味します。
一方、B−Hカーブでの「減磁」はJの減少に外からやってくる磁束密度(Jとは逆方向)が
加わったものです。理想磁石を考えると、JはHCJまで減りませんが、Bは減ります。
ですから概念的には「減磁曲線」の言葉は本来通りB−Hカーブに限定されるべきでしょう。
9.動作点
磁石に働く有効磁界(反磁界+外部磁界)が−Hd(Hd>0)であるとき、磁石はB−H減磁曲線上の
H=−Hdに対応する磁束密度Bdを出していることになります。
ここで、p=Bd/μ0Hdをパーミアンス係数といいます。(μ0=m0)
パーミアンス(Permeance)というのは”浸透しやすさ”という意味です。
これはBd/μ0Hdが、実は磁束を電流に見立てたときの電気伝導度(電流/電圧)に
相当していることに由来しています。
勾配が−Bd/μ0Hdに等しく、かつ原点を通る直線を「動作点」、動作点と減磁曲線との
交差を「その磁石の動作点」と呼びます。
動作点は磁石の周囲の状況によって変化します。
例えば、着磁した直後の磁石の動作点が左の図のp点であったとしても、その
磁石に鉄片を近づけると、磁石内の有効磁界は正側へずれます。
鉄片に誘導された磁化がその磁石に”引力磁界”を及ぼすので、反磁界が部分的に打ち消された形になるからです。
その結果、磁束密度が大きいところに動作点が移動します。
この変化はよく「高パーミアンス側へずれる」といわれます。
磁石−鉄片間引力が加わると全体の磁気エネルギーが低下しますので、全系はより安定し、
磁石は単独の時より減磁しにくくなります。従って「高パーミアンス状態」は、
より減磁しにくい状態です。
単独の磁石で「高パーミアンス側へずれる」とは、N極S極が遠ざかること(細長くなること)、
またはU字形や馬蹄形にしてN極S極を接近させること、
減磁しにくくなること、などを意味します。
10.最大エネルギー積
磁石の磁気特性の判定の基準は、まず減磁曲線を見ることです。つまり、ある減磁界Hdがあるときに、
磁束密度Bdがいくら出せるかを知ることが出来ればよいわけです。
そこでもっと簡単に永久磁石の磁気特性を判定する方法として、動作点上のHd*Bdの積の最大値を用います。
Hd*Bdは磁石が外部の空間に出すことの出来る磁石単位体積当たりのエネルギーに比例した量であるために、
その最大値を最大エネルギー積と呼んでいます。
最大エネルギー積の単位はSI系でJ/m3、CGS系GOeです。
磁石の最適設計は、動作点がこの最大エネルギー積の点にくるようにした場合であるといわれます。
その理由は、必要エネルギーを取り出すのに、磁石の体積を最小にすることが出来るからです。
11.マイナーループ
動作点は磁石の使用状況によって移動しますが、この移動は
一般に減磁曲線上をそのまま移動するものではなく、
図に示すように、はじめの動作点の位置を起点として作る小さな
ヒステリシス曲線を
「マイナーループ」と呼びます。
磁石の動作点は、このマイナーループ上の点に来るのが普通です。
しかし、スピーカー磁石のように動作点が移動し、
ない場合には、当然、、動作点は減磁曲線上に作動点があります。
12.可逆比透磁率(リコイル比透磁率)
マイナーループはそのループを描く面積が小さく、一般にはループの往復を
1本の線で代表させることができます。
この直線の傾きB/μ0H(H>0)を可逆比透磁率と呼び「μr」(mr)で表します。
可逆比透磁率は減磁曲線上の出発位置によっても異なります。リコイル(Recoil)とは、”跳ね返る、後戻りする”
という意味で、動作点が直線的マイナーループ上を行ったり来たりする様(さま)を表現しています。
希土類磁石とアルニコ磁石の可逆比透磁率を同一スケールで比較したのが右図です。
普通、可逆透磁率を一つの数字で代表させるときは、最大エネルギー積を示す動作点での値を用います。
減磁曲線が45度の直線に近い磁石材料は、この可逆透磁率が1に近いことと
保磁力が大きいために、強い逆磁界が一時的に加わっても、ほぼ始めの動作点に戻ります。
従って、磁界を発生させたり、吸着力を利用するばかりでなく、
反発力を利用する場合に有利です。
13.高温減磁と低温減磁
13-1.高温減磁
常温で着磁した磁石を高温にさらすと、熱活性による磁気モーメントのゆらぎによって、
いったんは磁束が減少しますが、常温に戻すと可逆的に回復します。
これを「可逆減磁」といいます。この温度変化の比率を「可逆温度係数」といいます。
一方、常温で着磁した磁石を高温にさらし、再び常温に戻しても磁束が回復しないことが
あります。これを「不可逆減磁」といい、次の3つの場合があります。
13-1.A.初期減磁
ある磁石の常温での減磁曲線を右図のマル1、同じく昇温時のものをマル2とします。
まず、この磁石の使用パーミアンス係数をp1とした場合、その動作点は昇温によって
一時的にa点からb点へと移動しますが、冷却によって再びa点に戻ります。
ところがパーミアンス係数がp2の場合、始めa’点にあった動作点昇温によって
曲線の屈折部より下のb’点まで移動します。そしてこのような場合には、いったん
移動した動作点は冷却しても元のa’点には戻らず、c’点までしか回復しません。
つまり、この結果生ずる、a’−cの減磁を「初期減磁」といいます。
このように初期減磁の場合は、磁石の種類、使用温度および使用パーミアンス係数の3つの要素で
決まります。
13-1.B.経時変化
希土類磁石の経時変化は、使用される温度および動作点と密接な関係があります。
とりわけ、動作点との関連では、初期減磁と同様に、動作点の低いところで減磁が
大きく、高いところで小さくなります。
13-1.C.冶金学的構造変化
キュリー点以下であっても、冶金学的構造変化により、磁性を失うことがあります。
これは、永久減磁の原因の一つです。
冶金学的構造変化を起こす恐れのある温度は、サマリウム・コバルト磁石では品質により
350−500度C、ネオジム・鉄・ボロン磁石で300度Cですので
この温度以下で使用することが必要です。
このほかに、酸化や錆などの変質による永久減磁もあります。
13-2.フェライト磁石の低温減磁
異方性フェライト磁石は、パーミアンス係数が高くない場合、着磁したものを1−40度C付近の低温
に冷却すると、再び常温に戻した時に大きな減磁を示します。
一般にフェライト磁石の温度による磁力の変化はBrとHcでそれぞれに温度係数を持ち、
という値で表されます。この変化率に伴いB−Hカーブが変動するため
動作点が移動することになります。
左図でパーミアンス係数P1の磁石は、20度Cでa点にあった動作点が、−40度Cではb点に移動
することになります。このa’からb’の勾配は−0.18から−0.19%/Kの温度係数によります。
これを20度Cに戻せば、再び動作点はa点に帰ります。
しかし、パーミアンス係数がP2の磁石は、20度Cでc点にあった動作点が
低温になるのに伴い−0.18から−0.19%/Kの温度係数に従って、Brについては
動作点がcからfへと変化してゆきますが、Hcが+0.35から+0.5%/Kの温度係数で減少するために、
途中から反転して−40度Cではd点へきてしまいます。これをさらに20度Cへ移動させると、今度はd点から
また温度係数に従ってe点へくることになり、以後−40度Cから+20度Cにおいてはこのd、e間を往復する
ことになります。
参考文献・引用は「磁石のはなし」社団法人日本電子材料工業界”技術資料”より
資料が増え次第更新します。
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