オイルが、エンジンなどの継ぎ目からにじみ出す現象は、
誰もが経験されていることと思われます。
どんな自動車も金属をボルトでつないでいるため、わずかですが隙間が生じています。
一番簡単で分かりやすい身近な部品は、
オイルの排出用に設けられている、オイルドレーンコックです。
そしてオイルの漏れを防いでいるのは、オイルパンに付いている「ねじ」の部分にある、ガスケット=オイルシールでしょう。
オイル交換したとき、観察していただくといいのですが、この部分の材質は、
ねじの隙間から漏れてくるオイルをふさぐ目的で
アスベスト状のもの、
銅製の軟質金属、
アルミニウム製の軟質金属、
場合によって、ゴム系のオイルシール剤、
などがあります。
エンジンに限って合成ゴム系のシールを見てみますと、下記のように分類されます。
材質としてはフッ素ゴムとシリコンゴム、アクリルゴムが主に使用されているようです。
漏れ止め剤を使用する場合、フッ素系やシリコン系ゴムは膨潤剤にはなりにくく、漏れ止め剤は効かない事になります。
また、シリコン系はガソリンに対して弱いと言えます。
けれど基本的には耐油性と耐熱性が良くて、高価なパーツと言えます。
経時変化によるゴム固さの変化も少なく、ゴム硬度ももともと固めのものを使用している事が多いようです。
経験的にドレーン部ではアスベスト状のパッキンと言われるものをよく使用するのですが、
ねじの大きさがうまくあっていませんと、漏れの原因になります。
つまりこのパッキンの空いている直径よりわずかに小さいねじの径であれば、うまくふさぐことができるのですが,
大きすぎてごそごそしてしまうと止まりません。
また、オイルパンのねじと当たる部分にゴミがかんでいたり、
傷が入っていたりしても漏れる原因ができますし、
パッキンが古くなってしまい亀裂が入っていて漏れることもあります。
こんなそんなでオイルとその漏れについてできる限り考えてみたいと思います。
1)漏れると言うことはどういうことなのでしょうか?
漏れると言うことは一体どういうことなのか考えてみますと、
大体の様相がつかめるのではないかと考え、考察をしてみました。
オイルなどの液体や気体を密閉するためには、どうすればいいのでしょうか?
普通、物質はある空間を占有しています。
時空の法則に従って、特定の位置を任意の座標に記すことができます。
それが重力波として空間を移動するか
電磁波となって質量を放出するかどうかはさておき、
あるまとまったエネルギー単位として「そこに存在するもの」として
考えられています。
ここで取り扱うエネルギー単位はきわめて大きな単位であって、
「漏れる」という場合、
マクロな質量を扱うのであって、量子力学が取り扱うような世界でないことがわかると思われます。
つまり、ニュートリノのように、ほとんどの物質を通関してしまうような単位は扱っておりません。
また、光子や電磁波などというものでもありません。
普通に分子や原子記号で表される世界です。
ですから、実用的な機械の密閉性で十分事足りる世界と言うことを考えています。
例えば魚を捕まえるのに、網が使用されますが、
体長50cmもある魚を捕まえるのには、
網の隙間は5cm間隔もあれば十分捕まえることができますが、
この網で体長3cmの魚の稚魚は捕まえることができません。
網の目をすり抜けて、稚魚は通過してしまい、網の目以上の大きさを持った魚しか引っかからないからです。
漏れると言うことも同様に、網の目との比較などで考えることができます。
オイルが漏れると言うことは、
オイルの分子などの大きさが、十分小さくて、引っかかることができなくて、
すり抜けてしまうことと思えばいいわけです。
こういったことは物と物を分離する科学の世界では詳しく研究されていまして、
水の濾過や、オイルなどでいえば、オイルフィルターなどの濾紙で実用化されている訳です。
ところが、オイルのにじみや漏れなどは
最初から起こっているわけではありません。
使用するに従って、段々と漏れだしてきたりするわけです。
特にオイルのシール材に対する影響は、漏れの修理代が結構な値段となるため、
気にされている方が多くおられると言うことがあって、
時々質問されるわけです。
クランクなどのシールでは柔らかいオイルでは漏れにくいとされている事が言われているのですが、これは動圧が低いために、
リップ部にかかる負荷が小さくなるためと考えられています。(普通思われているのとは反対のようです。)
もし図で説明するとなりますと下記のようになるのですが(図がまだ出来てません)、
専門の方の図式をご紹介できれば良いのですが・・・。
基本的には
鉱物オイルはオイルシールに対して、シールに浸透性があり、オイルシールに入り込んで行く傾向があります。
つまり、オイルシール自体を膨張させる傾向がありますが、
オイルシールに対して、マイルドな浸透性ですから、オイルの漏れやにじみに対してはそれほど深刻に考える必要は
ないとされています。
化学合成油では
ポリアルファオレフィン(PAO)などの成分はオイルシールを収縮させ、隙間ができやすくなる傾向が見られると
一般的に指摘されていますし、
エステル系などは逆にシールを膨張させる傾向が指摘されております。
また、各種添加剤成分はそれぞれ検証されておりますが、一応無難な線での膨張・収縮作用が見られる場合が
多くあります。
少し話がずれますが、クーラント系などのように、いつも「金属の錆」にさらされる部品の場合、
密封面の平坦さや、金属腐食の問題が起こる場合も考えられます。
錆の進行によって、隙間が広がれば、当然漏れは発生しますし、
特にクーラント交換によって、クーラント液の表面張力が変化すれば、今まで漏れていなかった密封面に
クーラント液が浸透しだして、じわじわと漏れが発生する場合も起こります。
特にクーラント交換の際注意したい事項です。
それでは、オイルシールを製造しているメーカーの考えや、
エンジンオイルを調合しているメーカーは一体どう考えているのでしょうか。
(残念ながら断片的な回答しか頂いてませんが・・・)
まずシールメーカーの立場としては、
「耐油性、耐候性、耐熱性・・・などを考えて制作しておりますので、
問題は出ておりません。」
多分そうでしょう。
最初から、オイルなどに浸透することがわかって作られているわけですから、
問題がある基準値はクリアーしていて当然です。
ただし、これはラボテストが中心で、実際どれくらい耐久性があるかは、個々の製品の精度、
エンジンの組み上がりかた、締め付けのトルクなどによって変わってくるのは致し方ないでしょう。
オイルメーカーにしても、同様なテストがされており、シールに対して問題が発生する製品を販売するとは
考えられないと思われます。
ただし、オイルというのはそのエンジンの出来た時代を背景としています。
もし、オイルシールが合成系の添加剤に耐えられない古い時代の製品であった場合や、
先ほどあげた隙間の問題で、当時のオイルの分子の大きさがずいぶん大きくて、
密封面の隙間がちょうどであった場合、
最新の低分子(小さい)オイルを使用した場合には、シールの密閉性が機能しない可能性も出てきます。
また、シールに掛かる油圧の強度によっても漏れが発生します。
これは圧力によってオイルシールの密閉性に限界があることを意味します。
それで、オイルが漏れだした例を挙げてゆきます。
まとめて考えますと「オイルが漏れる条件」は
下記のように表されそうです。
ただ、オイルシールの材質はガスケットなど重要部品では、
メタル系やカーボン系が主流であるため、
オイルが原因となる漏れは現在ほとんど考えられないというのが一般的です。
ほとんどの漏れは
タペットカバー部やデストリビューターのOリングや、
クランクシール・シャフトシールなどのように、
材質が化学合成系のゴム質を材料としたり、シリコン系であったりというように
摺動する面がある場合に多く見受けられます。
オイルシール側の問題 | 密封面の状態 | オイル側の問題点 |
経年劣化によりシール性が不足していないかどうか(シール材の収縮や可塑剤の問題を含む) | 締め付けるトルクは十分かどうか、ねじが緩んでいないかどうか | 溶剤系が含まれていないかどうか |
オイルシールの硬化など、弾性変形率が十分かどうか | 平坦な面かどうか=摺動面に傷・腐食など摩耗を促進する原因がないかどうか | オイルの圧力が異常でないか |
シール材の耐薬品性など化学的に安定した素材かどうか | ダブルパッキンなどを含め、異物が挟まっていないか | オイルの分子の大きさが適当か |
引っ張り強度など、強度に対して十分かどうか | 密封面が振動によって変形しないかどうか、また熱による変形がないかどうか | 異常な温度上昇がないかどうか |
など、上記のようにチェックしてゆけばいいわけですが、
今までの経験上、漏れる原因の主流は
1.密閉面の精度が原因
2.密閉面が変形し易い構造かどうか
3.シール材の寿命・耐久性の問題
などがほとんどで
オイルが原因で漏れるといったことは番外編ということが言えそうです。
(ただし、オイル劣化によりシールの寿命を縮める事はあり得ます。)
2)一度漏れだしたシール部は直らないか
シールの材質が、アスベストやメタル系であれば、増し締めで直ることもあり得ますし、亀裂などの金属疲労や塑性変形であれば
直らないこともあり、やってみての結果で判断するしかないわけです。
ゴム系のように可塑剤によって膨張・収縮する材質であれば、膨張剤に浸すことによって
密閉面の隙間が圧力回復で塞がることも起こり得ます。
ただしこの場合、ほとんどは徐々に漏れが収まってくるといった時間のかかるケースが多いですし、
直らないケースも多々あるわけです。
こういった漏れが直るかどうかは、いろいろ試すしか方法がないようですが、
安くすむようであれば今後のことも考えて、シール材を交換してしまうことの方が手っ取り早く確実と思われます。
特に、タペットカバーのパッキンなどは交換するのが普通で
変形してしまった場合、修復材では直らないのがほとんどですし、増し締めも効果が薄いようです。
高価な修理代がかかる場合でも、ほとんどはOリングの交換で直ってしまうのが普通ですから
こういったノウハウを持っている整備士さんと相談して解決を図るほうが、
得策です。
場合によっては、Oリングだけの交換をしてくれるかも知れません。
オイル漏れでオイルが燃えたりして炎上するケースもあるわけですから、
素人判断は避けた方がいいでしょう。
けれど、整備士の判断も間違っていたりする場合もあり、
原因究明に時間がかかるケースもあることは忘れないで覚えておかれるといいでしょうね。
修理を安く仕上げるという方法をとるか、今後の使用期間との比較も考えて完全になおしてしまうかどうか、
どういった方法を採るにせよ、
漏れている箇所がどういう原因であるかを知っておくことは大切です。
修理せずそのままにして置くことはよいこととは思えません。
どうするかを素早く考えて、早めのメンテナンスが最終的には一番と言うことは、
整備上の経験から言えることです。
場合によっては、メーカー対策が出ていることもありますので、
相談することを忘れないでください。