オイルなどがシールに対してどのように影響するか−その2


1)漏れると言うことはどういうことなのでしょうか?

2)一度漏れだしたシール部は直らないか

3)シール漏れ止め剤は効くかどうか

メーカー対策もなく、危険性もなく、修理代が高く付き、予算も安くあげたい場合、
漏れ止め剤を使用することがいい場合もあります。

けれど、本当にそれで解決するかどうかは、シール材の材質などにもよります。
材質がゴム系で、膨張剤によって修復可能な箇所もありますし、
最初から無理な箇所もあります。

ドライブシャフトの付いているミッションシールは軸に対するシールですが、
こういうようなシールの場合、

『この場合の条件は、
1.リップ接触面の状態が平滑である事。
2.シールの緊迫力(オイルシールが軸を締め付ける力)が適正値である事。
3.異物の噛みこみの無き事。
4.軸にスラッジが堆積していない事。
5.軸表面が滑らかである事。』・・・(Kさんありがとうございます。)
と言う、専門家のご意見をうかがっておりますが、
収縮したシールを膨潤させることで、一時的に機能回復が出来ます。
ただ、やはり「時間かせぎ」であり、シールを膨潤させることで止まっても、
『結局はリップ接触部の面圧が許容する数値を下回るまでの時間を、
早めてしまう事となりますので、設計時の寿命よりも早く磨耗する。』(同上)
と言うことになります。
裏を返せば、正常な機能を持ったシールに対しては、漏れ止め剤はかえって
良くないのかも知れません。

『オイルによる体積変化のテストでは、せいぜい体積で5%程度の収縮』(同上)と
お聞きしておりますので、その事を加味した設計をされていることは、十分うかがい知れますし、
後は、シールの設計の精度的問題と軸の表面制度の問題と
オイル側から言いますと、清浄分散性や摩耗を促進するような固体潤滑剤を含まない
高品質オイルかどうかと言うことになりそうです。
 

アスベストやメタル系での漏れの原因は、
締め付けトルクの劣化による場合や、シール材の亀裂・破損の場合もありますし、
密閉面の変形による隙間の増大による場合もあります。
場合によっては、金属自体のクラックが原因の場合もあります。

漏れ止めが可能な箇所は

  • 添加剤に含まれる充填材が隙間を物理的にふさぐことが出来、オイルの圧力に十分耐えられるかどうか。
  • シール材の収縮による隙間の増大が原因の場合、添加剤成分でシール材を膨張させられるかどうか。

  • という2点に集約できそうです。
    これ以外のシール材の亀裂・破損や密閉面の変形による隙間などは直せそうもないので
    最初からあきらめてください。
    (ねじの緩みなどによる締め付けトルク不足は、増し締めで対処)

    ですから、
    添加剤を使用する場合、
    充填材が効果的に隙間をふさげるかどうかが問題となり、シール材を膨張させられる成分かどうかが
    添加剤側に要求されます。
    こういったことは、それぞれの添加剤メーカーに相談されるといいでしょう。

    バルブステムシール・軸受けのシールなどのシール材はゴム剤ですから、いったん硬化してしまうと、
    弾性の劣化が生じ、オイル漏れを起こすわけですが、
    大抵はリップ面の亀裂が生じていると言われます。

    パターンとしては、上記軸シールと同様ですが、
    オイルと共に潤滑する事でシールのリップ面は摩耗し、接触面積が増大し、
    そのリップ面に摩擦熱が増加して、ゴムの硬化、その後亀裂発生が起こることであらわされます。
    ですから、添加剤で漏れを修復できるかどうかと言えば、メーカー側としては
    「かなり無理がある」と言わざるを得ないようです。
    添加剤でシール材を膨潤させることによって万一うまく一時的に止まったとしても、
    同じ事が繰り返されるからですし、
    膨張剤自体がかえって悪い影響になり、シールにとどめを刺すことも考えられるからです。
    残念ながら、専門家のご意見では「添加剤でバルブステムシール等は修復は不可能
    と言う事のようです。(ましになるかも知れませんが・・・)

    化学的に判断して対処された方が効果的ですが、
    シール膨張を考える場合、タペットカバーのパッキンなどのように、いつもオイルに浸かっていない箇所には
    ほとんど効果がないということがわかっておりますので、
    こういった場合は部品交換をまず考えてください。
    オイルが漏れる通路がパッキンに出来てしまった場合、増し締めも効果は薄いといえます。

    4)漏れないオイルの選び方

    上記にも書いていますが、シール材に対して、浸透性のあるものや、膨潤させるか収縮させるかは
    オイルの種類や添加剤等で決まってきますし、シール材との相性も考えられます。
    組み付け精度、摺動部(軸側・シール側)の精度、放熱性、等の物理的な側面を
    除いて、オイルだけで考えてみますと、
    オイルの劣化が及ぼす影響が、シールの寿命を決定する要素がかなり強く感じられます。

    高級なオイルが良いと言われる理由は、粘度変化が少なく、劣化成分(=異物の挟み込み)
    が発生しにくく、清浄分散性に優れていることで、摺動部においてアブレシブ摩耗の発生が
    少なく押さえられるためと考えられます。
    こういったことは「日本ゴム協会」の学会誌などを参照し、専門研究者の方々のご意見をうかがわなくては
    はっきりしたことが書けないわけですが、
    低品質オイルと高品質オイルを比較すると、
    明らかに「低品質オイルの方がシールからの漏れの発生が多くなる」
    と言うことが判っているようです。
    対応としては、
    オイル劣化をベースオイルの粘性劣化からと
    スラッジ等の異物発生(添加成分=粘度指数向上剤・清浄分散剤などの劣化を含む)
    の側面から見る必要があるわけで、
    成分的にはイオウやリンの影響も見逃せないようです。

    オイルに含まれる添加剤を含む成分は、シールを中心に考えることが出来ませんので、
    ユーザーとしては、
    1.オイル全般に要求される性能レベルの高いオイルを選ぶ
    2.劣化する前に早めのオイル交換を行う

    と言うことで対応すればいいことになります。

    1.はオイルの性状が優れていますと、オイル劣化をしにくいわけですから、添加剤の割合も少なくなります。
    元々の添加剤の劣化の方が早いと思われますのでそれらは異物となってシールにダメージを与える要因に
    なりますから、少なければシールに対しての影響も少なくなります。
    一般的にオイルと別に、後で入れる添加剤には、清浄分散剤や粘度指数向上剤など
    オイルの劣化を押さえる成分が多く含まれていると言うことになりますから、固体潤滑剤の是非はともかくとして、
    添加剤を入れると言うこともこちらに入るかもしれません。

    2.は劣化が早いなら、頻繁に交換してしまうことでダメージになる要因を取り除くと言うことです。
    安いオイルを頻繁に替えた方が、高級オイルを長く使用するよりいいと言われる考え方の
    基礎をなすものですが、あくまでもレベルとしては「シールに関してだけ」とも思われます。
    シール部には大きな荷重がかからないからで、金属部の摩耗とは潤滑モードを異にするといえるからです。
    ただし、エンジンなど自動車はあくまでも償却年数とのバランスが大切とも言えますので、
    ことさら高級オイル中心には考えられない理由もあるわけです。

    シール漏れ要因の分析

    資料(トライボロジストVOL44/No.11/1999)
     
     



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