ピストンリングについて

エンジンの出力を考えていくうちに、
走行が多い−少ないでオイル選びも、添加剤の効き方も
全く異なるプロセスを取ることがあります。

そこには、ピストンでの気密性と摩耗についての関係が深く横たわっています。
それで、ピストンリング側からそういったことを考えてみることにしました。

とはいうものの、ピストンリングについては1冊の本が出来るほど研究されていますし、
どういう方法でエンジンオイルや添加剤と関わっているかを
うまく書くことは出来ませんので、
書物や研究成果のダイジェスト版にならざるを得ませんが、
分かる範囲で書いてゆきたいと思います。

ピストンリングの役割

1.形状と代表的な種類

ピストンリングはシリンダー内部を往復する形のエンジンの発明とともに作られ、
1854年頃から自己張力を持ったリングを作って以来、現在に至るまで発展し続けています。
最初は1本だけだったのですが、機能面で役割を分担するため、普通2−3本で構成されています。

上記は断面図ですが、実物はガソリン車の4輪の場合、内径はピストンの大きさで決まりますが大体5−10cm程度で、
厚み(上下方向の高さ)=h1が1.2−1.5mmの薄いリングになります。
ピストンの溝に入る深さがあるため、(外経−内径)=a1は
厚みの約2倍程度の幅を持っています。

ピストンの溝に入れるため、円形の一部が切れており、広げると「C」になり、
リング自身の張力(外へ突っ張る力)でシリンダーと密着する形を取ります。
重なる部分から、燃焼ガスの漏れを防ぐように工夫がされ、
トップリングとセカンドリングは、同じ位置に切れ目がこないようにセットされるのが普通です。
(リング自体ピストン溝に平行に回転するため、どうでもいいという考えも確かにありますが・・・
ただ、小型2サイクルには、合い口などが給排気ポートに引っかかるとリングが破損するので、
「回り止めノッチ」が付いています。
またこういった動き自体もピストンリングの精度と相まって、摩耗に関係する要素となります。)

これらのピストンリングの役割は下記のようになります。
 
1.気密 圧縮行程では混合気、燃焼行程では燃焼ガスをシリンダーとピストンの隙間からクランクケースに漏れ出すのを防ぐ。出力低下や熱効率低下を防ぐ役割を持つ。
ガス吹き抜けは、シリンダーとリング間の油膜を破壊し、スカッフィング(焼き付き)の原因となる。
2.伝熱 ピストンが受けた燃焼ガスなどの熱を、接触を通してシリンダーへ逃がす。
ピストン頂部に受けた熱量の70−80%はリングを通してシリンダー壁へ伝達されているといわれています。
3.オイルの制御 シリンダーの壁面に潤滑油の膜を作り、同時に余分な油を書き落とす。主にオイルリングの役割。
少ないと焼き付きが生じ、多いとオイル消費量が増え、スラッジの発生量も増えます。
4.ピストン姿勢制御 ピストンとシリンダー壁によるスラップ音の低減や、強い直接接触を防ぐ様にピストンの挙動を制御している。

2サイクルにオイルリングがないのは、潤滑油の供給方法が根本的に相違している事によります。
また、リングから漏れるガスの量は、エンジンの回転数に逆比例しますので、
低回転ほど多くなります。
そのため、大型の低速ディーゼルエンジンではコンプレッションリングが4−5本ある場合も出てきます。

また、上記1.2.3.(4)は下記関係を持ちます。(トップリングについて)
 
リングの張力(1.大きいと) 大きいと気密性・追従性が良くなる。
リングの挙動は制御されやすい。
反面、摩耗量が増え、摩擦抵抗も増える。
リングの張力(2.小さいと) 小さい方が回転数を大きく出来る。
挙動制御がしにくく、ピストン溝摩耗が増える。
リングの幅(h1) 幅が大きいと高出力に耐え、長寿命。
またピストン溝を摩耗しにくい。
設計上ピストンスピードは遅くなる。
小さくするとピストン溝の外周近くを広げ、オイル消費を多くする。
リングの厚さ(a1) 大きいとリング張力が大きくできる。
また、ピストンからの熱の流路になりやすい。
一般的な寸法比(a1/h1) 二輪では・・・幅h1が大体0.8−1.0mmなので
その比に関わらず、シリンダー内径が大きくなれば厚さa1も
大きくなる。
ガソリン4輪では・・・1.8−3.0がほとんど。
ディーゼルでは・・・1−2の間で設計されていてほとんどキーストン型。

a.機密作用−ブローバイとの関係

ブローバイガスは、バルブ−バルブシート間・シリンダーヘッドガスケット・点火プラグのガスケット・燃料噴射ノズルのガスケットなど
にも発生しますが、ほとんどはピストンリングを通過してクランクケースから漏れています。

リングからのブローバイは
・シリンダー壁とリングの間(すべり面)=図1.
・「合い口」(リングの切れ目)=リング自体の熱膨張のため僅かにすきまがあります。=図2.
・リング下側面(底)とリングの溝の側面=図3.図4.

図1.図2.図3.
図4.図5.
 

上記のように、わずかですがブローバイガスが漏れているのですが、
一般的な実測例からは、2500rpmから3500rpmのあたりが一番ガス漏れが
起こりにくいと言うことが分かっております。
低負荷時や、高回転ではかえってブローバイは急増するようです。

また、リングの本数を増やすことでも、ラビリンス効果としてブローバイガスを押さえることも可能ですが、
摩擦抵抗の問題も出ます。
効果的なのは、トップリングのシール性向上が最も有効と言うことも分かっています。
a−ref:

なお、特殊な形状の合い口構造を除き(斜め段付き合い口)、普通の合い口の形状(=垂直、斜め、段付き)
では、ほとんどブローバイ量に差が無いという報告もされています。
また、自動車用としてはオイル上がり抑制型の”斜め段付き合い口”が主流です。




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<参考文献:「自動車用ピストンリング」「自動車用ピストン」ともに編集委員会編、1997年初版、山海堂。
トライボロジスト1999,Vol44,No.3。>

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