パワステのベーンポンプ

パワステのベーンポンプの略式構造がわかりませんと、
どうしてこういった箇所に添加剤の効果があるのかわからないというご質問がありましたので
簡単に図式させていただきます。
 


それ以外はバルブ系になりますので
作動する時の摺動抵抗はそれほど問題にならないかとも思えます。
ただ、制御が素早く油圧に反応し正確になりますと、
応答性などの改善があると思われます。

ポンプ自体は
外側に壁のある水車のような構造で、
外側の壁と水車の羽根が接触するような密閉されたオイル室を持ちます。
外側の壁は円ではありませんので
高い低いがあり、羽根はその壁に沿って、伸び縮みするように、
軸と羽根の間に弱いスプリングが入っています。
羽根(ベーン)はスプリングと、ローターと一緒に回る事で起こる遠心力ベーンポンプから発生する油圧
利用することによって
壁と密着する事になります。
ということで
その上下運動と壁面との摺動摩擦・摩耗が添加剤で効果が出てくるわけです。
もちろん特定の添加剤などでは気密性も同時に良くなることが考えられます。
摩擦から言いますと
軸の駆動トルクは機器による固定トルクと僅かな回転速度増加による増加成分を含みます。
ローター部の摺動部は流体潤滑状態のため摩擦抵抗は非常に少なく、駆動トルクと同様、
油温が高いほど摩擦は低くなり、回転数上昇とともに増加する傾向が見られます。
最大の摩擦はベーンとカムリング間の摺動摩擦で、流体潤滑を含むヘルツの弾性変形と
高圧による粘度変化を考慮したEHL(弾性流体潤滑)理論に基づく油膜が解析されていますが、
この部分が境界潤滑と流体潤滑が入り交じった混合潤滑の箇所になります。
ですから、この部分は摩耗性が少ない素材が求められています。
なお、パワーステアリング装置はエンジンの摩擦損失の約10%程度を占めるため、
ポンプ部には低摩擦性・低粘度性の要求が強くなってきます。

油圧ポンプの分類と性能

油圧ポンプの分類
 
歯車ポンプ 外接形
内接形
ベーンポンプ 定容量形(平衡形)
可変容量形(非平衡形)
ピストンポンプ アキシャル形 斜軸式
斜板式
ラジアル形 回転シリンダ形
固定シリンダ形
レシプロ形 クランク形
カム形
スクリューポンプ 2軸形
3軸形

性能
 
項目\種類 歯車ポンプ ベーンポンプ アキシャル
ピストンポンプ
4外接形
3内接形
平衡形
非平衡形
斜軸形
斜板形
ポンプ作動の原理 歯溝とケーシングに
囲まれた
容積の移動による。
ベーンと
カムリング間の
容積変化による。
ピストンの
往復運動による
容積変化による。
押し除け容積
(cm3/rev)
1〜500
1〜500
1〜500
10〜230
10〜1000
4〜500
圧力(MPa)
2〜21
2〜30
2〜21
2〜14
7〜40
7〜40
最高回転速度
(rpm)
1800〜7000
1200〜3000
11200〜4000
1200〜1800
750〜6000
全効率(%)
75〜90
75〜90
75〜90
60〜70
80〜95
騒音 高い 外接形より
低い
最も低い 平衡形より
高い
ベーン形より高い
粘度の影響 最も大きい
2大きい
最も小さい
摩耗と効率 摩擦とともに低下
効率の低下は小
摩擦とともに低下
ごみの影響 過酷な運転に耐え、
ごみに強い
外接形より弱い ピストンポンプより
強い
最も影響がある
可変容量形の可否
1自動車用のパワステに用いられる場合は500〜8000min-1(rpm)
2自動車用のパワステに用いられる場合は−40度C〜130度C以上に及ぶ広範囲の作動油温でも作動するよう設計されている。
3自動車用のAT用に用いられているが油圧制御圧力はPS用ベーンポンプの12〜16MPaに比較すると小さい2MPa程度。
    CVT用にはかなり改良された製品が用いられている。
4普通CVTの場合効率のよいピストンポンプや駆動軸を別にした小型外接ギアポンプが用いられているようである。

パワステオイル(PSF)の自動車規格(JASO M314−79)試験項目6.1〜6.14
 
1種 2種 試験条件
1号 2号 1号 2号
引火点(度C) 160以上 180以上 180以上 160以上
動粘度cSt(mm2/s) 3.5(3.5)以上 4.6(4.6)以上 6.0(6.0)以上 6.0(6.0)以上 100±0.03度C
また40度Cの
動粘度と新油の
全酸価の報告が必要
絶対粘度cP(mPa・s) 1250(1250)以上
1900(1900)以上 −18度C
粘度指数 90以上 90以上 110以上 140以上
流動点(度C) −30以下 −15以下 −30以下 −40以下
銅板腐食(変色番号) 1以下 1以下 2以下 2以下 100±1度C、180±5分
さび止め性能 錆が認められないこと ←同差 ←同差 ←同差 60±1度C、24h(時間)
あわ立ち性、ml 泡立ち度100以下
泡安定性10以下
←同差 ←同差 ←同差 1、24±0.5度C
2、93.5±0.5度C
3、93.5±0.5度C後の
  24±0.5度C
酸価安定度:
1.粘度比
2.全酸価の増加(mgKOH/g)
3.ラッカー度
4.正ペンタン不溶解分(%)
1.2以下

1.5以下

付着物なし

0.5以下

←同差

←同差

←同差

←同差

←同差

←同差

←同差

←同差

←同差

←同差

←同差

0.1以下

温度および時間
1種と2種1号は
120±0.5度C96時間。
2種2号は
150±0.5度C96時間。
粘度比40±0.01度C
アニリン点(度C) 90以上 ←同差 ←同差 ←同差
ゴム膨潤:
 
硬さ変化
体積変化率(%)
 −5〜+10

  0〜+8

←同差

←同差

←同差

←同差

←同差

←同差

温度および時間

1種および2種1号:
120±1度C、70h
2種2号:
130±1度C、70h

耐荷重能、kgf/cm2(MPa)
2.5(0.245)以上 ←同差
摩擦係数
0.18以下 0.16以下 常温
混和安定性 不溶性物質または
成分の分離が認め
られないこと
←同差 ←同差 ←同差

パワステオイルの要求性能

油圧ポンプとしては上記ベーンポンプの他にトロコイドポンプ、ローラーピストンポンプ、ギアポンプなどがあるが、
使用圧力が最高値でも7−8MPaで高くなく、回転数が7000rpmにも達することもあるため、
自動車用には高回転に対応したタイプになっており、
小型軽量化と高信頼性、低コスト化のベーンポンプが主流となっている。
ただし、排気量の小さく、エンジンルームに余裕のない軽自動車などでは電動パワステが使用されている。
(大型車ではモーターの大型化によるコスト、部品の信頼性・耐久性の問題が残されています。)

パワステオイルは現在のところ、ATFを転用したものと、専用にPSFとして開発されたものがあります。
ATFはギア油兼作動油であるために、本来のPSFと要求性能がことなり、コスト的にも高くなりますので
専用油が使用される場合も少なくありません。
PSFとしての要求性能としては

  • 省燃費性
  • メンテナンスフリー性
  • 低温始動性

  • があげられ、下記のように考えられています。
    1.省燃費性
    油圧パワステに消費されるエネルギー量は燃料消費3%程度と見積もられるため、その粘度−温度特性と
    低フリクション化が省燃費に貢献するものと思われます。
    具体的には、作動油の低粘度化による攪拌抵抗低減・配管の流動抵抗低減や
    オイル添加剤の摩擦調整剤による摺動抵抗低減が考えられています。
    現在のところ7mm2/s(100度C)程度の粘度のオイルが使用されています。
    ベーン型は構造上摩擦トルクが大きくなる欠点がありますので、特に添加剤の効果は有効になります。
    2.メンテナンスフリー性
    廃車まで交換されないことが普通になっているため、PSFのオイル自体の性能劣化
    (耐熱性・酸化安定性・剪断安定性)に対して、また
    ポンプ、ギア、コントロールバルブなどの耐焼き付き性・耐摩耗性・耐スラッジ性が求められ、
    ゴムホース、オイルシールに対する材料適合性も要求されます。
    3.低温始動性
    エンジンオイルと同様に、寒冷地での使用も考えられるため、−40度C対応している事が多い。
    低温始動時には粘度が高く、作動応答性が悪くポンプの騒音にも影響が起こることも考えられるため、
    寒冷地仕様車では特に10000mPa(−40度C)以下にされる場合が多い。



    <参考資料:「油圧の基礎と応用」高橋徹著、東京電気大学出版>
    <参考資料:「トライボロジスト」Vol41/No10/1996&Vol45/No4/2000>
    油圧2:配管のエネルギー損失
    油圧3:油圧装置に特有な現象
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