肩の凝らない、しかし、嘘かもしれないページ42


最近質問された「固体潤滑剤について」の内容をまとめてみました。

固体潤滑剤の材質としては、

軟質金属(金、銅、銀、亜鉛、鉛その他)
金属酸化物(PbOなど)・複酸化物(CaF+BaF+Ag系、BaZrO+Cr系、SrCa1−xCuOなど)
硫化物(二硫化モリブデン、二硫化タングステンなども含みます)
セレン・テルル化物(CuNbSe2、AgNbSe、など)
ハロゲン化物
フッ化物(PTFEなど)
窒化物(窒化ホウ素h−BNなど)、ファインセラミックス粉末
黒鉛(グラファイト)、ダイアモンド粉末
有機化合物(ナイロンなど)
 

などがあげられますが、大体は摺動部の金属より柔らかい成分が使用され、
摩擦係数を下げたりします。
特に層状の結晶構造があり、層を形成している結合が弱いために、新聞紙を積み重ねたように
またはトランプの束のように、滑りやすくなって、摩擦係数を下げます。
大体は添加後すぐ効果を表し、段々と薄れて行く物が多いようです。
金属面の摩耗を、添加剤としての成分が献身的(?)に劣化していくことで防いでいるといえます。

ですが、一時セラミック系の硬い材質の添加剤が流行ったことがありました。
セラミックなどは、包丁を研ぐ砥石になるように、金属を削り、滑らかにするかもしれませんが、
金属の摩耗を積極的に起こすものとのイメージがぬぐえません。
ピストンまたはリングやシリンダーを鏡面仕上げするには一時的に効果があるかもしれませんが、
クリアランスの狭くなった、また、表面精度の高くなった最近の自動車に、果たして必要かどうかは、
疑問に感じます。
確かに、摩擦係数は下がるでしょうが、
コンプレッションが低下する方向へ摩耗をしてしまうということであれば、
自動車の寿命と引き換えにしているといわざるをえず、
やはり硬質系の添加剤が使用されなくなってきた理由が分かります。

たとえば、こういう風に考えてしまうわけです。
パチンコの玉のような「ころ」がついているテーブルがあり、
床が木材のフロアーとします。
「ころ」がついていなければ、フロアーにも傷がつき、押して移動するのも楽ではありません。
無理をして動かそうとすれば、もちろん床にも傷がつきます。

但しこの場合はオイルレス状態を考えた場合で、
オイルの膜があればそれほど大きな差にもならないかも知れません。

問題に考えられるのは、低い圧力で押し付けられたときではありません。
極圧がかかり、あるいはオイル膜がちぎれてしまうような境界潤滑域に在る時なのです。
急激な力で押しつけた場合は、
パチンコ玉にたとえた硬質固体潤滑剤は、フロアーとした金属摺動部の金属に「めり込みます」。
(ですから、大抵の固体潤滑剤は金属より「柔らかい」のです。)
めり込んでいつまでも張り付いていればいいのですが、
必ず剥がれます。化学結合ではないからです。
ということは・・・・。
どういうことが行われているか想像できますよね。

直接動かすよりも「まし」かも知れません。
(ですから二硫化モリブデンなどは、
オイル膜が無い状態のドライスタートに効果があるといわれる訳ですが)
こういった成分がどれぐらい極圧に耐えられ、
どれぐらい金属摩耗を減らすかが問題となります。
エンジン内部ではさまざまな領域の潤滑が行われているわけですから、
摩擦係数だけで性能を考えるわけには行きません。

硬質系固体潤滑はある程度の効果を期待できますが,
エンジンなどの金属摺動部を摩耗から守り、長寿命化するにはあまりいい方法とは思えません。
削っていくことに変わりはないように思えるからです。
硬いがゆえの結果、摩耗に対しては疑問が残るのです。

どんなに成分が微細であろうともあまりお勧めできない理由として、
もう一つに成分の沈殿があげられます。
残念ながら、オイル成分より比重が大きいわけですから
必ず沈殿します。
油中分散を有効にするためには、
粒子表面に界面活性剤の吸着膜を形成させて、
粒子間に反発力を発生させるか、
あらかじめ表面を親油化処理をして、オイルになじみやすくする必要があります。
多分たとえそれが出来たとしても、
沈殿が避けられないことは「よく振ってから」ということで分かることと思われます。

沈殿しますとオイルの流れる速度ぐらいでは、もう一度オイルに攪拌されることはまずありません。
こういった理由からも、「セラミック」や「ダイアモンド粉末」のような、
沈殿しやすい、堅い固体潤滑剤は特に薦められない理由があります。

またディーゼルエンジンで発生するカーボンなども固体ですから、
オイルに混じって金属摩耗を促進していますので、
最近はそれを抑制するような工夫もされるようになってきています。

摩耗を防ぐには床に鉄板のような堅い板を敷いて置くことのほうが、床にダメージを与えません。
こういった訳で、そういう摩耗を減らす方法としては、固体の堅い「ころ」を使うのではなく、
床に堅い物を張ってしまおうという考え方が、
「化学蒸着法=CVD(TiC、WC、TiN、Alなどの膜)」
「物理蒸着法=PVD(イオンプレーティング、スパッタリング、真空蒸着などという方法があります)」
という方法なのです。

また、反応生成皮膜として有機モリブデンなどもありますし、
金属表面改質などもこの金属の表面を硬くしてしまう効果の添加剤といえると思いますし、
「共晶(被)膜」はきわめて効果的と思われます。

こういったことから、特殊分野では
ダイアモンドに似た構造を持つ硬度のきわめて堅い炭素膜(DCL膜)を金属面にくっつけてしまおうと言ったことも
行われていますし、窒化ケイ素の硬質膜をスパッタリングしている場合もあります。
これなら、摺動部が削れることも少なく、いつまでも最初の状態に近い性能を
保つことが可能と言えます。
万一のオイルレス状態でも、
金属との直接接触が無いわけですから、
焼き付きに対しても強い性能を持ちます。

しかし、現実は「高価」と言うことで、自動車などではめったに使用されていません。
自動車のエンジンなどは金属面の精度で進歩しましたので、
普通に使用する限りにおいて、何らそういったコーティングをする必要性が生じていないからです。
(コスト高は販売価格になって、はねかえってきますので強いて必要性を感じないのでしょう。)

なお、摩擦条件によって固体潤滑剤の選定がなされますが下記の通りとなります。
オイルやグリースに添加する場合は固体潤滑剤の「沈殿性」に注意が必要で、
グリースやペーストではその必要が少ないため粒子を15ミクロン単位から大きくは50ミクロン単位まで使用することもありますが、
オイルには1−2ミクロン以下のサブミクロンが使用されます。ただしサブミクロンになりますと
表面積が大きくなり活性を持っている場合が多く、微量の酸化や、ガス、水分の吸着などがあるので
そのまま油中に添加しますと凝集しやすく分散剤を添加するか、表面処理を必要としてきます。
(多量の分散剤は摩擦特性を劣化させる可能性があります。)
 
高面圧 二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、これらの混合物
低面圧 PTFE、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、高分子材料
耐食性 結合剤の成分比が多い被膜を選び、二硫化モリブデンや二硫化タングステンとグラファイトを併用しない。
耐熱 グラファイト、窒化ホウ素、雲母など
低摩擦 PTFE、PFA、二硫化モリブデン
極低温 二硫化モリブデン
高速 二硫化モリブデン、二硫化タングステン


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