肩の凝らない、しかし、嘘かもしれないページ71

添加剤で音が変わる?

オイル交換したり、添加剤を入れると、エンジン音が変化することがあります。
今まで粘度の低い柔らかなオイルを使用していて、オイル交換で粘度の高い硬いオイルを使用した場合、
タッペットをたたく音がやわらいだりすることもあります。
キュルキュルと鳴っているファンベルトに、水が付いたり、スプレーグリースなどを付けると、
ベルトの音が泣きやんだり、あるいはもっとひどくなる場合があります。
ガタがほとんど無いにも関わらず、ウォーターポンプなどの音が出る場合、クーラントに少しの潤滑剤を入れると
泣きやむこともあります。
その他にも、ドアのきしみ止めにグリースを使用したり、音がするブッシュに潤滑剤を付けたり、
ワイパーゴムに鳴き止め剤をスプレーしたり、
いろんな所から出る音を「潤滑剤」は消すためにも用いられています。

音と潤滑については、専門に研究されていますので大体の理解は可能になってきました。
音の3要素は「大きさ=音圧」「高さ=周波数」「音色=波形」になりますが、
心理的な要素も加わるため、音楽(心地よい)と聞こえるか、雑音(不快)と聞こえるかでも
相当捉え方が変わってきます。
また、周波数の感度(音の高い低い)に関しては人の感覚は0.2〜0.3%の違いも聞き分けられるそうです。

自動車などの機械的な部分での振動や音の発生にも上記心理的な要素が入るのですが
(排気音の好み、エンジン音の好みその他)
ここではいわゆる「異音」としてあげられる振動音が問題となります。
ただし、吸気音、排気音など気体の乱流ジェットなどによる振動は省きます。

その中でキーワードとなりますのは「スティック&スリップ」と言う言葉です。
音は振動ですから、それぞれの摺動部が接触しているわけですが、
あるところでは「動き」またあるところでは「止まる」ような動き方をしているわけです。
打音も大まかに言えば2固体の接触があって、その後離れる事になりますので、
これに加えても良いかなと思います。
 

ただし、弦楽器の弓と弦の場合は単純な「スティック&スリップ」とは言えず、弦は「へ」の字のような形に
振動し、その振動の頂点が刻々と移動する「ヘルムホルツ波」と呼ばれる自励振動(工作機械のびびり振動や
ステアリングのシミーなどもこれに当たります。非振動的なエネルギーにより振動が発生し、
その振動が振動系の振動状態に依存しているような振動を指します)が発生しています。

 
で、機械的な音の発生も、楽器などと似た構造と捉えることができ、
2つの摺動部の圧力や摩擦係数、表面の凸凹さの粗さや相対速度、材料の弾性係数などなど、
各方面からとらえられています。
ギアなどの歯車の場合は、ばねのような振動が出ますので、隙間の問題や歯車の当たり具合で
片側面に荷重を受けたりしますと発生しやすくなります。
(まるで音叉を鳴らすような音の発生の仕方と考えても当たらずとも遠からずと思うのですが・・・)
理論油膜厚さよりもギアの表面粗さが大きくなると金属接触を起こすため、高次の周波数成分に影響が出るといえ報告もあります。
基本的には歯面の誤差と表面粗度の問題と言えそうですが、
使用される金属の素材によっても振動低減は認められるようです。
添加剤としては出来うる限り金属接触を避け、摩耗による隙間(クリアランス増加)の防止に効果を持つ製品が
良いと言えるかも知れません。

スティック&スリップと言えるかどうか分かりませんが
これに似た現象を身近に見てみますと、
黒板にチョークを使って線(文字)を書くときに音と共に描かれる「・・・・」というチョークが飛び跳ねる現象や、
マジックなどで同じく白板に線などを書く時に出る「音」とその線に描かれたマジックの濃淡が見られる現象を
考えてしまうわけです。

チョークやマジックは黒板や白板に押しつけられ、摩擦が生じていますが、
板に平行に移動させようとする力のため、線を描きながら動いています。
(この摩擦といわゆる「書きやすさ」は深い関係にある事になります。)
黒板や白板を線を描きながら滑らせようとする手の力が、2固体の間に生じる摩擦力と同じ位になりますと
動く事は出来ませんので線を書くことは出来ません。
(もちろん、摩擦が少なすぎて、チョークの粉を削って黒板に付着出来ないのでは、線が書けません。)
止めようとする摩擦力と動かそうとしている腕の力が微妙なところで拮抗していることが分かります。

摩擦力の方が強ければ止まり、動かそうとする力が強ければ動くと言うことになります。
つまり摩擦の法則(クーロンの法則とも呼ばれる経験則)が適用されます。
1.摩擦は接触面積に加えられる力に比例し、接触面積の大小には無関係である(静止摩擦および運動摩擦において)
2.摩擦はすべり速度の大小に無関係である(運動摩擦)
3.一般に同じ条件下では運動摩擦係数は静止摩擦係数より小さい。
  (荷重(または圧力)や速度がこの経験則(クーロンの法則)を超える範囲にある場合には この法則からはずれ、
  この理論は適用できなくなります。)

ある速度と力の関係がうまく重なったとき、音が大きくなるような状態になるわけです。
本当は音が大きくなる場合には、多分必ず「共鳴」という事が関わるわけでしょうが、
残念ですが詳しくは知りません。

チョークの場合は、今まで線を引いていた摩擦力と平行運動の関係が変化したため
(多分、黒板の表面粗度、表面の汚れ、削れて行くチョークの材質そのものの摩擦変化等々・・)
チョーク自体が振動する事になり、飛び跳ねたり、黒板との間で共鳴したりして音を出すのではないかと思われます。
(この場合は楽器の弦と弓の関係に似ているように思われました。)
原子・分子レベルで表面を見れば、音を発生しやすい2個体間は、
まるでノコギリの歯のような凸凹状態ですから、お互い(あるいは片方)が動くためには、
ノコギリの歯を削って行くか、一山一山を乗り越えて行くしかありません。

ノコギリの歯が当たる箇所ではスティック状態になり、
その固体接触状態にさらに平行移動させようとする力が加わることで、
硬い方の歯が柔らかい方の歯を削るか乗り越えて行く時は、
最初、歯の部分周辺が弾性変形します。その後、2固体の圧力と反対方向に持ち上る力へ変わり、乗り越えるか、
片方の固体の表面の分子(粒子)が剥ぎ取られ移動できるようになります。
音としては特定の周波数になった場合だけ聴覚によって、これらの振動を知覚出来るのでしょうが、
量的にどうであれ、振動していることは確実のように思われます。
(聴覚の不自由な方にとっては、音波も体圧として感じる圧力波と知覚されるようです。)
 

で、音の発生に関して、添加剤が効果が出る場合は、
「摩擦係数」を変化させるとか、
摩擦の元になっている「表面粗度(凸凹の状態)」を変化させる、
あるいは、「共鳴をじゃまする」と言った関わり方をするのではないかと思われます。

スティック&スリップしなければ、2つの摺動する固体間に上下の力も少なくなりますし、
スティックさせる障害物がなければ、弾性変形も起こりにくく、それに伴う振動も減ります。
このため、あるレベルまでは、潤滑油を伴う摺動面では凸凹がない方が音が出にくいようです。
全く凸凹がない場合は逆に分子間力など他の力が作用し、逆に摩擦力は増えることになります。
ただ、通常の研磨、加工では金属間に必ず不純物(水分や酸化物など)がありますし、
全く均一な分子の平坦な面は除外していいと思われます。
ただ、2固体間の潤滑は自動車などでは流体潤滑域から境界潤滑域まで含まれてしまいますので
一筋縄にはゆきません。
また、音(振動)一つとっても、それぞれのパーツ間の部品の素材が異なるわけですから
それぞれにあった、異音解消法が生まれます。
(トライボロジー自体、学際的な分野であるため、摩擦の領域やそれに伴う振動や摩耗なども異なってしまうわけですし、
それぞれの分野で使われる潤滑剤(添加剤)も全く異なってしまう事になります。)

いつもながら、随分横道にそれてしまいましたが、
添加剤を使用しても、ほとんど異音の質に変化がない事もあります。
異音の発生とその原因がわかりますと、それに対処する方法もわかるわけですが、
潤滑剤や添加剤で出来ることと出来ないことがあるわけで、
部品の精度や共振点の問題も考慮する必要があります。

特に近年注目されている平衡(静的な体系)−非平衡(動的な体系)=線形−非線形、の関係からも、
音の発生は研究されてきています。
「複雑系の科学」として、カオス理論などはタイヤのノイズ軽減に利用され良く知られています。
カオスは時間的な運動に関わるため、秩序状態から複雑系に変わりカオス状態になると言われます。
摩擦や摩耗も振動と共に時間的に変化が刻一刻と移りゆく現象と言え、
接触面の非線形振動はラトル現象として解明が急がれています。
こちらもそう言った見地から実験的に解明出来るようになって行くと思われます。

ともあれ、受け入れたい振動を心地よく受け取り、
不快な振動は遠ざけたいという気持ちは、万人共通のようです。
ベースオイルでは不可能になりつつある振動発生源の低減に、添加剤が有効に効果を現せるように
ユーザーとしては、研究成果を体感する製品を期待するだけです。
部品の素材面から、構造から、潤滑面から、
地道な研究を支える個々の研究者方にエールを送るばかりです。

まとまりのないまま、また考えたい事柄です。

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