肩の凝らない、しかし、嘘かもしれないページ75

電気系のトラブル

中古屋だからと言うわけではないけれど、本当にいつも不思議なのは電装系統のトラブルです。
最近の自動車は、機械的に壊れる箇所も本当に少なくなってきまして、
修理で入ってくる自動車の大体半分近くが、電気系の不具合という傾向があります。

ワイパーが動かない=ヒューズが飛んでいる。と言った事から、おわかりになる通り、
自動車は電気によって動いている・制御している箇所が本当に多くありますので、
そういう箇所で絶縁されたりしますと、機械的には問題がない場合でも、動くはずがありません。
ちょっとした接触不良によってエンジンがかからなくなったり、
エンストしたりという例が増えてくるのも仕方のない傾向と思っていますが、
その不具合になっている箇所を見つけるのも、結構手間のかかる、華やかではない仕事と言えます。

症状から判断して不具合箇所を特定する作業というのは、ある意味で経験的な要素が強いわけでして、
フローチャート式にやっていけば良いように思えるわけですが、的が外れている場合も時々あります。
また、不具合箇所が複合的に重なっていることもあるわけで、
根本的なところを修理しないと、いくら発見された関連する回路の故障をなおしても「再発」することも起こります。
ですから、修理確認のために、実際に試乗を1週間もしたこともあります。
その箇所を特定するのに何日もかかり、修理完了確認のためにさらに
数日かかることもあり、こういった事例はディラーさんでも時々あるようでして頭を悩ませておられるようです。
こういった事例で発見された不具合箇所は大体後で「リコール」or「対策」になるケースが多いみたいです。

一般的に簡単に誰でもが出来る修理と言えば、ヒューズの確認になり、
「ヒューズ切れ」が圧倒的になります。
ですから、オーナーとして最低ヒューズボックスのある場所だけは、自動車が納車されましたら覚えておく方が
いいと思います。
ヒューズ切れでなくとも、ヒューズ自体の接続部の表面の酸化によって、接触がうまくいっておらず
発熱などによってバイメタルのようにゆがむことで断線=切れたようになって、不具合が発生することもよくあります。
この場合は、別のヒューズに替えてやるか、表面を綺麗にして再利用すると直る場合もあります。
一度抜いてから、差し込んでやるだけで正常になるケースも見られます。
接点復活剤などという製品の利用も効果的と思われますが、
金属表面の酸化劣化物の除去だけではなく、
物理的な接触圧力にも関係してきますので、ゆるみやガタがないかもチェックする必要があります。

また、ヒューズにクラックが入り、完全に切れていない状態で時々断線してしまう場合も稀に経験してますので
故障個所の系統のヒューズは特によく観察された方がいいでしょう。
ヒューズを替えても、すぐ切れてしまうケースでは、どこかでショートしている可能性がありますので
(特に後からオプションを加えられた場合に多いようですね)
これは専門家にみてもらった方がいいかも知れません。

自動車が古くなってきますと、自ずから振動や接触面の酸化などにより断線が起こるケースが増えてきます。
昔から多かったのがホーンやフォグなどのアース不良ですし、
振動などによって、エアコンの電磁クラッチの配線が疲労し、亀裂が入ってしまった例もあります。
ビニールコード内部での断線には泣かされたものです。
また、配線取り付けの不良やコードを挟み込んでしまったためのショートなど人為的な要素も多くあります。

その他には、バッテリーのターミナルの接続不良も多いようです。
この部分は外部からは観察しにくいこともありますので、取り外した時、白い粉がたくさん付いているようでしたら、
サンドペーパーなどで取り除いておいた方が良いでしょう。
たまにターミナルを外して確認するだけでも十分ですが、危険ですから注意して取り扱いしてください。
ショートさせては何のためのメンテナンスか分かりませんものね。

ターボタイマーなどを取り付けたら異常が発生したと言う場合には、取り外せば異常が出なくなるケースが多いようです。
また、後付けされた機器の方に問題がある場合もあるようですし、
アース不良などが原因の場合もあるようです。
これらは、後付した機器のメーカーと相談される方がよいでしょう。

エンジンがかかりにくい、エンスト、ラフアイドルなどは、
基本的にはダイアグノーシスを活用して、異常箇所を自己判断によって発見する方法があるのですが、
普通簡単に発見できるケースでは役に立ちますが、
瞬間的なエラー(瞬間的断線・ショート)は発見できませんので、「異常なし」と出てくる事の方が多いようです。
この場合は空気の吸気量や水温など他系統からの制御によって異常が出ていることもありますので
テスターによる診断を参考にした上で、症状の発生状況から原因をつきとめてゆく方法しか
現在のところはないようです。
今までの経験から探り出す方法に加えて、起こりうる原因を消去法によってたどって行くような、
きわめて人間的な方法なので、
当たる、当たらないが賭のような修理になることもあります。

水温センサーなどの微妙なずれがある場合など、
冬期のアイドルアップ修了がはやまり、サーモスタットの開閉時期と燃料噴射量を正確にフィードバック出来ないことで
エンストを起こす事がありましたが(常時出ない)、自己診断では全く正常値で、
(最新の機器を使用してもエラーが発見できませんでした)後は勘に頼るしかないことがありました。
もちろんこれくらいですと春・夏・秋期にはほとんどエンストなどおこりません。
この場合は水温センサーを交換することで症状が発生しなくなったため、よしとせざるを得ませんでした。
完壁な解決とは言えませんが、このようなセンサー類の微妙な狂いも頭が痛い整備になります。

よく起こるトラブルに混じって、わけの分からないケースもあるわけで、
かわいそうな場合は、各ディーラーの整備士まで伝わっていない場合もあり、懸命の努力があっても、
「ダメな整備士」の烙印を押されてしまうことがあり、
こういったトラブル例の公開をメーカーにして欲しいのです。
新車からのクレーム期間中に発生するケースも多く、ほとんど部品の設計・製作ミスと言わざるを得ない場合がほとんどですが、
電気系統で「新品からこういう事が起こるはずはない」と決め込んでしまう場合が多いためと、
機器が見えない箇所に置かれているケースがほとんどですから、気がまわらない場合もおこります。
時々知る「対策」など、各メーカーの自動車を扱う一般工場では始めての事例も多く、
あれこれ暗中模索の状態ではユーザーの不信感にも繋がります。

ある10年以上経ち、10万キロ近く走った自動車で、夏期のみオーバーヒートしやすい車がありました。
症状としては、ラジエター側のクーリングファンが回ったり、回らなかったりと言う状態でしたので
(エアコン側は回っていました)、ラジエター側のリレーだろうと、交換したら、その時はきちんとON・OFFが出来ましたので
完了としたのですが、長時間走行するとやはりオーバーヒート気味になるとのことで、
ラジエターの詰まり・ファンモーターの性能劣化など色々調べました。
上記には異常はなく、スイッチもON・OFFしてきちんと回るので不思議でしたが、
ある時、リレーがONした時、ファンあたりから「カチン」と言う音が聞こえたので、不思議に思い、
手で回してみると、一所に何か当たるものがありました。
そういえば、最初にもそういった音がしていたような気がします。
診断のミスでした。
ここまでやったのだからと、ファンモーターを分解してみたら、モーターの磁石が一つずれているのです。
走行中に振動か何かで、磁石がずれてモーターが起動し難くなることが原因のようでした。
最初に一つの原因と思ってしまったのも不注意でした。

こういう磁石を焼き付け接着する製品が手に入りませんでしたので、
他のファンモーターの取り付け位置を加工し、その後は全く問題なく長距離も走行できるようになりました。
まさか、モーターの磁石のずれとは思いもよりません。
別件で、モーター自体の性能劣化でトルク不足になりファンがちゃんとした回転数にならないため
冷却不足になるという症状もこういう経験がありましたので、すんなり出来ましたが、
自動車が古くなってきますと本当に何が原因なのか分からない謎解きのような感があります。

電装系のトラブルは制御機器が増えてくるほど、やっかいです。
電気という目に見えないものが相手だけに、トラブル集にはいつも顔を出す事柄になっています。
整備士皆さんのご苦労が本当に身にしみてわかります。
経験していないトラブル例の多さに、本当にびっくりするばかりです。

匙を投げるのは楽ですが、一度投げてしまいますと後で後悔します。
後悔しないで解決しようと思うと、ほとんどボランティアみたいなラバーレートにしかなりません。
難問数式やパズルが解けたからと言って、誰も喜ぶわけではありませんが
ただ、どういうわけか嬉しくなります。
電装系のトラブルは、
そういった世界の仕事なのかも知れません。
 

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