肩の凝らない、しかし、嘘かもしれないページ77

ATのすべりとATFや添加剤との関係

(なお、ここで”すべり”と表現されるのは、発進が不能になるような状態ではありません。
また、エンジンの回転が急激に増えて、つながるまで多少の時間を要するほどのものでもありません。
それらはほぼ完全にすべっている状態になります。”完全にすべっているAT”による場合での、
ATF交換・添加剤投与による変化を調べている場合が多いのですが、
正常な作動をしているATで言われる場合は、”クラッチのつながりの違和感”・僅かなタイムラグを指しているとお考えください。)

作動油の中でもATFはギアの潤滑を兼ねており、ATの構造自体も複雑に感じられます。
どのようにして粘度が決まり現在のオートマチックトランスミッションとかかわっているかがまだ理解できていませんので
粘度やベースオイルの成分や添加剤の処方によるATのすべり現象が説明出来るほどになっていません。
しかし、作動油である以上、粘度の選択は必然的と思われます。このため規格は粘度を中心に決められています。
エンジンオイルのようにSH、SJなどという多くのグレードは現在なく、5w−40とか10w−50とかを決めて規格が定まっています。
ATFは大体”SAE20”に当たる粘度になり、デキシロンU、V、と4WDなどのミッション兼用の特殊タイプが一般的になります。
特殊な粘度のATFは他の市販ATFと互換性はないのでご注意ください。
それでも、デキシロンの規格で、(例えば”D−V”)同じ表示がされている場合でも、
純正オイルと違うメーカーのATFを使うとシフトチェンジで瞬間的に僅かにすべっているようなタイムラグのような違和感が出たり、
シフトショックが若干大きめに発生したり、
滅多にないのですがひどい場合は最初から発進が少しばかり”もたつくような”現象まで出ることがあるので、
こういった現象の解明は避けて通れない事柄と考えてしまいます。
特に最新タイプの制御式機能が多く使用されているタイプでは、そういった現象が現れやすい傾向があるように
思われます。

実際この事は、オイルメーカーの方もご存じの事で、だからこそ「規格」を作っているわけなのですが、
それでも、全く同じATFを作ることは各メーカー無理なわけですから、
その規格内の「ばらつき」により、フィーリング的な違いを生じることになります。
このために、ベースオイルによる「静摩擦係数」「動摩擦係数」の差異を調べ、それに加える添加剤による
変化の出方を測定し、実際のATに使用しての作動状況の現れ方(いわばフィーリングの違い)を
調査しているわけです。
もちろん、オイルとしての劣化、油温との関係、その他はエンジンオイルと同じように
「長期安定性」を中心に考えられて行くわけになります。

エンジンオイルはほとんどどんなオイルを使用しても問題が発生することは滅多にないのですが、
(それでも粘度によるフィーリングの違いは顕著に現れます。)
一般的には、ATFの場合はそういうわけに行かないことが多く起こります。
それでも規格の違うATF(例えばDU→DVに替える場合)を使用しても問題がないどころか、
かえって”しっくりした”という評価もお聞きしていますし、その逆も同様にお聞きしています。
純正から一般のATFに替えたら、シフトショックが減ったという事も起これば、
シフトアップのポイントが僅かに変化したような気がすると感じられる方もおいでのようです。
距離を走り劣化したATFを交換しただけでも、走りが滑らかになった例は普通によく起こる改善ですが、
中にはかえってシフトチェンジのタイムラグが長くなってしまったというように変化することも起こりえます。
渋滞路の多い夏の高速で変速ショックがきつくなってしまった場合など、大抵ATF交換で元のように良くなる事も
時々お聞きしています。
これはメーカーのベースオイル+添加剤の選択に関わって出てくるのかも知れません。
 

最近のことですが2速→3速でタイムラグの発生していたH4式EG4のシビック走行7.8万キロでは、
新油に交換するのがためらわれるほど真っ黒にATFが変色していました。
交換後2速→3速でのタイムラグの発生は全く良くも悪くもなりませんでしたが、
それでも多少タイムラグがかえって長くなったような気がします。
この自動車は販売する車ではありませんので、winn’sのAT&PSという、デキシロンタイプ用の
清浄剤+極圧剤で変化がどう出るかを試したのですが、
思った通り、思いきりタイムラグが長くなってしまいました。
(AT&PS自体はストップリーク剤で、壊れていないATに対しては良い製品です。念のため良くなった例では
昔、GS110のクラウンでは変速がスムーズに改善された事もあります。)

 
また、もっとひどい状態の症状では
発進不能に近いほど本当に”すべってしまっていた”S63式BA4のプレリュード走行8万キロの場合でいいますと、
冷間時はまずまずの発進が出来るようになったのですが、エンジンが暖まってきますと
何故か、更に発進不能状態がきつく現れてしまいました。
ATFを新油に交換しても改善できませんでした。
ほとんどの場合、こういったような症状では添加剤では改善が出来ないとお考えください。

 
GRP使用の例では、7万キロで発進時のみタイムラグが生じているBF4のレガシィーにGRPを3%添加したのですが
改善が出来ず変化の程度も分からず。5万キロ走行した後でも同じ状態が続いているだけです。
すべりがひどくなるような事もありませんし、タイムラグが全く同じように発生しています。
全く最初と変わらないわけですから、クラッチ面摺動部の問題はなさそうです。
油圧作動部の問題のように考えられますが、オーバーホールせず廃車まで使用されるそうです。
別のBG5のタイプでは変速ショックがかなり改善されたようです。
また、ZCのシビック(走行78000キロ)の場合、最初の状態は多分ほとんどタイムラグがなかったように思えますが、
ATF交換+GRP2%で初期に2速から3速で僅かなすべりのようなタイムラグが発生したのですが、
そのまま2000km走行したあたりでタイムラグもなくなり、全く普通のシフトアップになっておりました。
しかしながら、ATFの新油交換で全くほとんど問題なく正常に作動するATへ、添加剤を加えた場合に、
よろしくない症状(僅かなタイムラグや発進時のもたつき)が発生するとなりますと

保護の目的や機能の改善のためを考えて添加するわけですから、何のための添加剤か分からなくなってきます。
問題のない添加剤を調べ、入れるようにしなければ、困ったことにもなります。

基本的には粘度を中心に考えるATFですが、
どういった種類の添加剤が添加量や他の添加剤との相性で、ATFの性質を変化させるかが随分 分かってきました。
例えば、スルフォネート(SO3Hの塩)が影響が大きいということなどはHPにも書いている次第です。
また、ZnDTPなども通常使用されているようですが、こちらは摩擦係数を上昇させる働きがあります。
固体系(二硫化モリブデン・有機モリブデン・PTFE系・ボロン系など)は一般的にはあまり使用されていないようですが、
それでも、よく見かける添加剤には入っていることもあり、それらの配合量はごく僅かと思われます。
そのAT機構に影響が出ないように添加剤の量は調整されているものと思われますが、
反対に違和感がでるようでしたら、量で調整する必要性があります。
添加剤の目的は摩擦係数とオイルと同様の長期使用(劣化防止)に関係するのですが、
添加剤自体の配合量がATFの基本性能に影響を与える事が起こりうるからです。
 

ATFの基本的な要求性能は
1.適正な粘度があるかどうか
2.湿式クラッチ面での摩擦特性が十分にあるかどうか
3.清浄分散性
4.消泡性
5.酸化安定性
6.有機材料に対するATFの適合性
7.疲労損傷防止性(クラッチ材への攻撃性など)
などが挙げられるのですが、すべりに関しては、1.2.の項目が調べられる必要性があります。

(他の項目も関連するわけですが・・・)

ATFの摩擦係数はデキシロンーVでは、大体低速=0.7rpmにおいては0.1程度あり、スチールプレートと
フリクションプレート間の荷重が増すと摩擦係数は増える傾向にあることは、
フリクションプレートがペーパ材で出来ており、弾性があるため、真実接触面が増加することによると考えられます。
その摩擦係数の要因はフリクションプレートの繊維によるものと思われますが、
また、そこには微視的な凸凹があり、吸着膜と局部的流体薄膜が形成されていると考えられます。
ただし、1MPa以上の面圧になりますと面圧よる真実接触面の割合は増加し難くなります。
ペーパ材の材質の差によることも大きいのですが、こういう事はメーカーでの開発になりますので、
どの自動車にどういう材質の製品が使用されているかは普通は知ることが出来ません。

それで、乾式のクラッチ面に相当するフリクションプレートとスチールプレートの摩擦力は大きい方が”すべり”は起きないのですが、
ペーパ材の材質は同じとして、もし摩擦係数をあまりにも大きくなるように変化させる添加剤を使用しますと、
一時的にはいいかも知れませんが、長期的には繊維を剪断してしまう事にもなり、いわゆる摩耗が促進されて、
かえってひどいすべりを生じさせることにもなります。
このためもあり、
性能を長期に渡って維持させるためには、摩擦力を高いレベルで維持しながら減衰を起こしにくく、
その為に起こりやすくなるフリクションプレートの摩耗も起こしにくくさせ、
かつ、ATFそのものも摩擦力を高回転・高温でも劣化させず維持・制御出来るような添加剤への性能要求が
求められてきています。
最新のATでは、油の流れる量や、粘度、油温などがセンサーにて高い精度で感知されてAT機構が作動し、
自動的にシフトをするようになってきていますので、
ATF劣化がセンサーに与える影響を考えますと、(昔以上には故障しなくなったATですが)
かえってフィーリング面の問題が発生することになります。
つまり、僅かな粘度の差がフリクションプレートとスチールプレートの接触にかかる時間を変化させたり、
添加剤の影響で摩擦係数を僅かに変化させたりするので、
動力伝達に変化が現れるということなのです。

例えば、制御機構では、冬期においてATFの油温が低い場合など、ある程度走行しませんと、
オーバードライブにシフトしないよう制御されていたりします。ATFの粘度が高いと電子制御が難しいからです。
ドライブモードなどを選択出来るスイッチが付いている車種などでは、スイッチを押せば
自動的にそのモードで最適なシフトチェンジなどを選択するようになっています。
こういった制御は他の箇所でもあり、パワステなどでも、万一オイルが異常に高圧になる場合など、
プレッシャースイッチが働いて、エンジンを自動的に止めてしまうような制御も見られるようになってきました。
ATFへの関心は高いレベルでの制御機構などから今後とも考えられるようになると思われます。

ATFによるATの作動の変化は、添加剤だけではなく、ベースオイルの違いによっても起こってきます。
以前はチューンされたエンジンでのAT車の場合、100%合成ATFを使用し、
また別の材質のフリクションプレートが組み込まれたわけですが、
最近は100%合成ATFも特別な場合でなくとも使用されるようになってきました。
このメリットは静摩擦係数の高さと耐久性にあると思われます。
ですから、高出力・高トルクタイプのATに使用しますと応答性が高いので、重量のある4WDワゴンなどにも定評があるようです。
特に油温警告灯が付いている車種で点灯しがちな場合の対策としても効果があるようです。
 
100%合成だから高摩擦係数というのではなく、高摩擦係数のオイルを求めて行きますと
鉱物油+添加剤で開発するより、結局は目的にあった合成油を使用出来ますので、改善がうまく出来るわけです。
もちろんこの場合の添加剤はその合成油に適合したものを使用しなければなりません。
100%合成油の方がそうでないオイルより粘度指数が高いわけですから、温度による粘度の変化率が少なくなり、
作動油としては安定しますし、
高温時の油膜保持能力も高く設定していますので、油膜が十分保持できる利点があります。
劣化自体もしにくいわけです。
ただし、値段に問題がありそうと言えます。
また、フリクションプレートとスチールプレート間は多板構造ですから、一部が薄くなりますと、摩擦力の総和も減ることになり、

ここですべりを生じる事にもなります。プレート数を何枚にすればいいかはメーカーでテストされ、最適な枚数が
決められるわけですが、この場合、プレートの精度の問題も関わってきます。
クラッチとしての作用は、乾式と同じように扱うことが可能ですから、瞬時にプレートが摩擦するようにくっつきますと
ショック発生が起こったり、フリクションプレートの摩耗が進行したり、プレートでの接触面の形が変わってしまったりします。
この際、油膜の厚さとその分子構造、また圧力の関係によってオイルは通常と別の振る舞いが起こるようなのですが、
肝心なこの箇所がまだ勉強不足でわかっていません。
高圧力のトラクションオイルと同等に扱えるかどうかも同様です。

と言うわけで、中途半端な書き出しになってしまいましたが、いずれ解り次第まとめてみたいと考えております。

仕事の現場では、こういった事がよく起こります。
ラボデータが絶対的に正しく通用するとも限りませんし、機器の性能限界値も知らされていないわけですから、
試行錯誤・暗中模索的な症状に悩まされて、先に進めないことも多くあります。
問題を山積みにして諦めず少しずつ解決してゆく方法が普通に取られていますが、
私もその意識の方向性を大切にしてゆきたいと思っています。

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