(なお、ここで”すべり”と表現されるのは、発進が不能になるような状態ではありません。
また、エンジンの回転が急激に増えて、つながるまで多少の時間を要するほどのものでもありません。
それらはほぼ完全にすべっている状態になります。”完全にすべっているAT”による場合での、
ATF交換・添加剤投与による変化を調べている場合が多いのですが、
正常な作動をしているATで言われる場合は、”クラッチのつながりの違和感”・僅かなタイムラグを指しているとお考えください。)
作動油の中でもATFはギアの潤滑を兼ねており、ATの構造自体も複雑に感じられます。
どのようにして粘度が決まり現在のオートマチックトランスミッションとかかわっているかがまだ理解できていませんので
粘度やベースオイルの成分や添加剤の処方によるATのすべり現象が説明出来るほどになっていません。
しかし、作動油である以上、粘度の選択は必然的と思われます。このため規格は粘度を中心に決められています。
エンジンオイルのようにSH、SJなどという多くのグレードは現在なく、5w−40とか10w−50とかを決めて規格が定まっています。
ATFは大体”SAE20”に当たる粘度になり、デキシロンU、V、と4WDなどのミッション兼用の特殊タイプが一般的になります。
特殊な粘度のATFは他の市販ATFと互換性はないのでご注意ください。
それでも、デキシロンの規格で、(例えば”D−V”)同じ表示がされている場合でも、
純正オイルと違うメーカーのATFを使うとシフトチェンジで瞬間的に僅かにすべっているようなタイムラグのような違和感が出たり、
シフトショックが若干大きめに発生したり、
滅多にないのですがひどい場合は最初から発進が少しばかり”もたつくような”現象まで出ることがあるので、
こういった現象の解明は避けて通れない事柄と考えてしまいます。
特に最新タイプの制御式機能が多く使用されているタイプでは、そういった現象が現れやすい傾向があるように
思われます。
実際この事は、オイルメーカーの方もご存じの事で、だからこそ「規格」を作っているわけなのですが、
それでも、全く同じATFを作ることは各メーカー無理なわけですから、
その規格内の「ばらつき」により、フィーリング的な違いを生じることになります。
このために、ベースオイルによる「静摩擦係数」「動摩擦係数」の差異を調べ、それに加える添加剤による
変化の出方を測定し、実際のATに使用しての作動状況の現れ方(いわばフィーリングの違い)を
調査しているわけです。
もちろん、オイルとしての劣化、油温との関係、その他はエンジンオイルと同じように
「長期安定性」を中心に考えられて行くわけになります。
エンジンオイルはほとんどどんなオイルを使用しても問題が発生することは滅多にないのですが、
(それでも粘度によるフィーリングの違いは顕著に現れます。)
一般的には、ATFの場合はそういうわけに行かないことが多く起こります。
それでも規格の違うATF(例えばDU→DVに替える場合)を使用しても問題がないどころか、
かえって”しっくりした”という評価もお聞きしていますし、その逆も同様にお聞きしています。
純正から一般のATFに替えたら、シフトショックが減ったという事も起これば、
シフトアップのポイントが僅かに変化したような気がすると感じられる方もおいでのようです。
距離を走り劣化したATFを交換しただけでも、走りが滑らかになった例は普通によく起こる改善ですが、
中にはかえってシフトチェンジのタイムラグが長くなってしまったというように変化することも起こりえます。
渋滞路の多い夏の高速で変速ショックがきつくなってしまった場合など、大抵ATF交換で元のように良くなる事も
時々お聞きしています。
これはメーカーのベースオイル+添加剤の選択に関わって出てくるのかも知れません。
基本的には粘度を中心に考えるATFですが、
どういった種類の添加剤が添加量や他の添加剤との相性で、ATFの性質を変化させるかが随分 分かってきました。
例えば、スルフォネート(RSO3Hの塩)が影響が大きいということなどはHPにも書いている次第です。
また、ZnDTPなども通常使用されているようですが、こちらは摩擦係数を上昇させる働きがあります。
固体系(二硫化モリブデン・有機モリブデン・PTFE系・ボロン系など)は一般的にはあまり使用されていないようですが、
それでも、よく見かける添加剤には入っていることもあり、それらの配合量はごく僅かと思われます。
そのAT機構に影響が出ないように添加剤の量は調整されているものと思われますが、
反対に違和感がでるようでしたら、量で調整する必要性があります。
添加剤の目的は摩擦係数とオイルと同様の長期使用(劣化防止)に関係するのですが、
添加剤自体の配合量がATFの基本性能に影響を与える事が起こりうるからです。
ATFの摩擦係数はデキシロンーVでは、大体低速=0.7rpmにおいては0.1程度あり、スチールプレートと
フリクションプレート間の荷重が増すと摩擦係数は増える傾向にあることは、
フリクションプレートがペーパ材で出来ており、弾性があるため、真実接触面が増加することによると考えられます。
その摩擦係数の要因はフリクションプレートの繊維によるものと思われますが、
また、そこには微視的な凸凹があり、吸着膜と局部的流体薄膜が形成されていると考えられます。
ただし、1MPa以上の面圧になりますと面圧よる真実接触面の割合は増加し難くなります。
ペーパ材の材質の差によることも大きいのですが、こういう事はメーカーでの開発になりますので、
どの自動車にどういう材質の製品が使用されているかは普通は知ることが出来ません。
それで、乾式のクラッチ面に相当するフリクションプレートとスチールプレートの摩擦力は大きい方が”すべり”は起きないのですが、
ペーパ材の材質は同じとして、もし摩擦係数をあまりにも大きくなるように変化させる添加剤を使用しますと、
一時的にはいいかも知れませんが、長期的には繊維を剪断してしまう事にもなり、いわゆる摩耗が促進されて、
かえってひどいすべりを生じさせることにもなります。
このためもあり、
性能を長期に渡って維持させるためには、摩擦力を高いレベルで維持しながら減衰を起こしにくく、
その為に起こりやすくなるフリクションプレートの摩耗も起こしにくくさせ、
かつ、ATFそのものも摩擦力を高回転・高温でも劣化させず維持・制御出来るような添加剤への性能要求が
求められてきています。
最新のATでは、油の流れる量や、粘度、油温などがセンサーにて高い精度で感知されてAT機構が作動し、
自動的にシフトをするようになってきていますので、
ATF劣化がセンサーに与える影響を考えますと、(昔以上には故障しなくなったATですが)
かえってフィーリング面の問題が発生することになります。
つまり、僅かな粘度の差がフリクションプレートとスチールプレートの接触にかかる時間を変化させたり、
添加剤の影響で摩擦係数を僅かに変化させたりするので、
動力伝達に変化が現れるということなのです。
と言うわけで、中途半端な書き出しになってしまいましたが、いずれ解り次第まとめてみたいと考えております。
仕事の現場では、こういった事がよく起こります。
ラボデータが絶対的に正しく通用するとも限りませんし、機器の性能限界値も知らされていないわけですから、
試行錯誤・暗中模索的な症状に悩まされて、先に進めないことも多くあります。
問題を山積みにして諦めず少しずつ解決してゆく方法が普通に取られていますが、
私もその意識の方向性を大切にしてゆきたいと思っています。
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