肩の凝らない、しかし、嘘かもしれないページ80

添加剤の何が「効く」と言われるのか。
 

すでに、各ページで書いていることの繰り返しになるので恐縮ですが、
市販オイル中の添加剤や後から入れる添加剤は、様々な成分がブレンドされて出来ていますので、
どの成分の効果が出ているのかわからないことがあります。

大きく考えますとオイルや添加剤の目的は「機器の保全のため」ですから、
故障させない事が1番の目的になります。
一方、機械は使用して行く上で必ず寿命=故障が生じてきます。
機械側は金属冶金技術などの進歩によって耐久性が向上し、構造や機構の見直しなどによって
大きく性能が向上していますので、それを支えるパーツ類も「壊れないようにするため」
有機的に見直しがされるようになってきています。
不具合発生によって品質向上や耐久性向上がなされてきたと言うこともできます。

当然ながら、オイルもそういったパーツの一つです。
潤滑などを担当するオイルの負担もそれと共に大きくなります。
エンジンの要求する性能が確保されていないオイルを使用しますと、故障の原因になりますので、
この関係がオイルのグレード評価などが出来た理由になっています。
SGグレードの時は、結構オイルが原因での故障もあったみたいで、
その後SH規格をつくりました。

SGグレードの時代はオイルの品質格差が非常に大きかったように思えます。
その為、今では何でもない添加剤が非常に強烈に効く商品に思えたことを記憶しています。
特に今ではオイルに当たり前に入っているような有機モリブデン自体が非常に高価な商品として、
極圧剤的に(実際は摩擦調整剤で、極圧剤ではありません)売られていましたし、
既にもうアメリカなどでは流行らないPTFE系添加剤などは、流体潤滑であれば
効果的なのでしょうが、エンジン摺動部が混合潤滑であるにも関わらず
「極圧状態に効く」などというように、販売の方から言われて信じていたと言うように、
何だか「何でもあり」の状況だったように思えます。

摩擦係数と金属磨耗の関係は当時のオイルレベル(摩擦係数が結構高かった)では深く関係しており、
摩擦係数の低いオイルが何が何でも良いと思われていました。
けれど、摩擦係数はある値以下になりますとそれ以上エンジンでの磨耗防止には関われないことが
判ってくるようになり、
混合・境界潤滑域ではもはや摩擦係数は意味が薄くなってくるという事が知られると、
油膜や表面改質を含む金属表面の問題や劣化成分の磨耗に及ぼす関係などが研究されるようになります。

産業用切削油に近い、腐食性が強い塩素化パラフィン系などもエンジンオイル添加剤として
こっそり入れられ使用されていたように思います。
なお、今の産業界用切削剤にしても、ダイオキシンやら環境問題から嫌われている塩素系を製造停止して、
代替え製品を販売したにも関わらず、やっぱり旧製品の性能が出せず、製造再開してしまったと
お聞きしていますので、添加剤の問題はコストと性能も絡んできますので、
簡単に代替え商品とはならないところが難しい問題のようです。

耐摩耗性と防食防止性が次のSHでは改善されましたが、
SGの本当の不具合点は清浄分散性・酸化安定性の問題ではなかったかと思っています。
と言うのも、当時のSGグレードの鉱物油系で長期間使用していますと、
オイルラインがスラッジなどで詰まってしまったりして潤滑不良による焼き付きが
発生しているためです。
ベースオイル自体には、合成油でも鉱物油でもほぼ清浄分散性がないため、
酸化安定性はベースオイルで向上できましたが、清浄分散性が添加剤でしか無理という事もあります。

その次のSJでは酸化安定性と清浄分散性が高くなり、この点が改善されました。
省燃費性に関しても、環境問題の側面からクローズアップされるようになり、
自動車各部のフリクション低減や摺動部の磨耗防止などが表面処理などを含む材質からも
検討されるようになりましたので、
オイル側は粘度が低いオイルの要請が強くなり、さらにロングドレーン化(=長期間使用できる)も
進められるようになってきました。
オイルにとっては、さらに過酷な条件をクリアーしなければならなくなったわけです。
そのため、機能的に不純物が多いベースオイルが不利になり、
鉱油から水素化を経て作られる水素化オイルとか、ナフサなどから合成して作る化学合成オイルなどの
商品が今後とも増える傾向にあります。
添加剤もベースオイルの変化に伴ってそれをより効果的に生かす、高性能で耐久性に優れた
製品などが合成されるようになってきました。

現在のSJグレードオイルなどは、本当にその規格に適合しているかを
店頭商品などから抜き打ち的にテストをし、調査する機関を持っていますので
ある程度安心して使用できるということになります。
オイル性能を向上させる為にいろいろな効果的な成分が組み込まれて現在の商品となった訳ですから
「効く」と言う言葉自体が不思議な評価と聞こえるのも無理からぬ事と思います。
少なくとも、旧規格と比較すると格段に高性能なオイルが増えてきたと思えます。

が、しかし、不具合が生じなければ本当は良いわけですが、サーキット走行するための高性能オイルには
実は次のSL規格(2001年7月以降とされている)に適合出来ない商品もあり、こういった基準と別にありますし、
この規格自体があくまでも「一般的基準」と言えるわけです。

また、現在の規格のオイルで不都合があるから、次のSL規格が生まれてきたと皮肉って考えるなら、
この規格設定というのは、やはり「現行車両に使用できる最低基準の設定」と言うことと
考えることも出来ます。
現行SJ規格の商品は、「性能が大きく異なる製品郡」の中の1つと考えますと、
「上には上がある」とも言えますし、「使用目的でオイルを変える」と言うことも納得のいく事と思われます。
(特に粘度が適合する必要があります。)
つまり、エンジン各部のコンディションの善し悪しや使われ方の過酷さによっては、
まだまだ不具合が発生しやすいオイルがあると言うことにもなるわけです。

バイクの場合、もともと自動車用と異なる商品でしたが、需要低下に従い多くの商品が消え、
自動車用と共用されるようになってきましたが、
このところどういうわけか、また専用オイルが並ぶようになってきています。
理由は設定基準の違いなのでしょう。
(高性能オイルの場合はさすがに共用されて問題がないようです。)

オイルの性能劣化の仕方などが、それぞれの自動車で異なってきますので、
それぞれの状況に応じて、使用するオイルも変わりますし、添加剤が必要かどうかも
本当は変わってくると思うのです。
まさか、新車のエンジンでは余程シビアーな条件でなければ、そういった不具合は生じないかと思いますが、
SJの基準値をクリアーしているオイルでもまだまだ品質の幅が大きいことから、
低い水準のオイルを使い続けることによっては、
そういう不具合を発生させる要因が増加する傾向があるとみなせるわけです。
このため、昔からオイル交換をメーカー指定(6ヶ月以内5000km〜10000km)
より早めにする方が良いという一般論
(鉱物油系では3000km程度、合成油系では5000km程度)
が広まっているのではないかと思えます。
この基準はベースオイルとその添加剤の耐久性によると思われます。
オイルメーカーの考え方としては、エンジンオイル自体の酸化防止が保たれている間は
エンジンオイルの寿命とは考えなく、酸化防止剤が効いている間はオイル交換が必要ないと考えています。
また、更にその後も清浄分散剤が機能していますと、不溶分が生成しにくいわけですから
この点までをオイルの寿命としている場合も多く見受けられます。
ここまでの走行距離を平均的な走行条件で示すと、約3万キロという事になりますが、
(酸化防止剤が効いている間としても約半分の1.5万キロ)
実際のオイル交換の実情とはかなりかけ離れたデータと言えそうです。
オイル交換の使用期間を半年程度、エンジンの寿命を10万キロとしているからなのでしょうか?
資料を読んでいますと、時々わけがわからなくなることがあります。

日本は気候的に高温多湿にもなりやすく、都市部の道路は渋滞が多いため、
加速走行をしたかと思えば、すぐ詰まってしまうと言うくり返しが多く、
使用状況も、高速で長時間運転する機会があるかと思えば、たまに近くのお店に乗るだけであったりなどと
エンジンやオイルにとっては、走行距離に比例しない、かなり悪い条件が揃っていますので、
ヨーロッパやアメリカなどの使用条件と比較出来ない事があげられています。
オイルはある限界に達しますと、極端に劣化が進みますので、日本製ではその限界に達するまでを
引き伸ばす必要が出てきます。
添加剤含有量が他国と比較すると大幅に多い理由がそのあたりにあるのではないでしょうか。
(なお、同じ銘柄のオイルでも、アジア向け、アメリカ向けなどと変えて製造されている事が多く見受けられます。)

実際、添加剤を使ってみようとか、オイルを変えてみようとか思われる場合は、
既に何らか不具合
(エンジン音がうるさくなってきたとか、オイルが汚れてきたとかあるいは、どことなく調子が悪くなってきたなど)
が発生している場合が多いですし、
後で入れる添加剤使用で、添加剤の成分中にそれを解決・改善できるものが入っていれば
かなりの確率で効果を期待できるはずだと思っています。
少なくとも、同じ銘柄のオイルに交換するだけでも劣化した添加剤成分を新しく出来るわけですから、
その分、変わるはずです。
(もちろん潤滑関係以外の不具合は別の話となります。)
異なる銘柄のオイルに変える時は、ベースオイルの品質が変わる事が多いですし、
粘度が違うだけでも  フィーリングが変わることが知られています。
メーカーの表示する5w−40とか言う粘度は、結構 幅がありますので、
同じ5w−40という商品を比べてみても、
あるオイルは10wに近い商品であったり、別のオイルは0wに近い商品であったりと、さまざまです。
こういう場合は代表性状の5w−40というSAE粘度ではなく、
40度Cと100度Cでの動粘度を比較されるといいと思います。
今まで使用していたオイルを基準に数値が大きいほうが単純に言えば「硬い」ということになります。
代表性状がわからない場合は購入先のお店の人に聞けば快く答えてくれるはずです。
例えば、燃費を良くしたい場合、オイルの耐久性は考えないとすると、
一般的に「低粘度オイル」が省燃費性に有効と言うことになります。
低粘度オイルが使用できるようになったのもオイル品質の向上と言う事が裏にあるのですが
耐久性まで考えますと、その品質が関係することになりますので
この場合、合成油が好ましくなります。
また、低粘度を基準に考えますと、どうしてもベースオイルの粘度を低くしなければ
対応できませんので、0w−XXと言ったオイルは100%合成油になってしまうわけです。
この問題を解決するため、ほとんどの低粘度オイルには、有機モリブデンなどの
摩擦調整剤が入れられているのが実際のところです。
モリブデンなどは昔から摺動摩擦部の熱の発生を抑える潤滑剤として使用されてきました。
熱が発生すると言うことは、電子が活性化し、他の原子や分子と結合しやすくなると言うことです。
つまり、化学変化が起こりやすくなりますので、
オイルも酸化しやすくなりますし、他の分子化合物へと変化しやすくなります。
添加剤を使用するとオイルの寿命が伸びると言われる理由の一つはこの発熱抑制にもあります。
(こういったことは他のページにすでに書いていますのでまたご参照ください。)

で、発熱を抑制するのがきわめて難しい内燃機関では、出来てしまったオイルに溶けない固体の不溶解成分
(低温ではスラッジが、高温ではラッカー・ワニスが発生)が大きく凝集して行きます。
金属面にくっつけたまま摩擦しますと、その金属表面が更に削れやすくなりますので、
出来るだけ細かいままにしておきたいわけです。
(固体潤滑剤の粒子の大きさで、摺動部の摩耗量に大きな差が出ることが報告されています。
正確とは言えませんが、一応細かい1ミクロンオーダーであれば影響が少ないといえます。)
また、オイルの通路の側面にそのまま付着したりしますと、オイルの流れを悪くし、燃焼室からの不要な熱を
逃がせなくなり、金属面が更に高温になったり、
少ない量でそういった熱を運ぶわけですから、オイル自体も普通より高温になります。
つまり、放熱できない状況が更に悪循環を招き、オイル劣化を加速し、金属摩耗を増加させるわけですから
そうさせないよう洗剤の役割をする清浄分散剤が必要になります。
しかし、この添加剤成分も熱に弱いので、劣化成分と変わり、さらにオイルを劣化させる要因になります。
使用限界値は塩基価の数値、不溶解成分量、etcなどによって判るのですが、成分分析をすることなど
ユーザーがいちいちするわけにはゆきませんので、
いわゆる「シビアコンデション」では、オイルをメーカー設定の半分の距離で 交換するように
記載して、マージンをとっていますのは、このような理由にもよります。

一番最初に「機器の保全のため」にオイルや添加剤があると書いているのに、
それらの評価の項目が、ワニス・スラッジ発生の問題や使用耐久性の問題、摩擦摩耗の問題、放熱に関する問題、etc.
と多岐に渡ってしまうのは、
エンジンを調子よく動かすのに使用されている様々なパーツのうち、
オイルが一番頻繁に交換される=一番早く劣化するパーツだからと言えそうです。
エンジンのどのパーツが悪くなっても調子が悪くなるのは言うまでもありませんが、
オイルが悪くなれば、いち早くエンジン本体へも影響が出るパーツだからとも言えます。
何も機器の保全はオイルだけに任せられたわけではないのですが、
オイルの状態をつかむことで、エンジン全体の状態が判りやすくなりますし、
潤滑に一番関わるパーツですから、出来うる限りの改良を求められてしまう結果なのかもしれません。

高品質の特徴にオイル消費量の問題があります。低蒸発性を考えた場合、
高品質のオイルほど、EGRなどの装置へのカーボン・スラッジ付着は食い止められますし、
それは小さなパーツの配管での閉塞問題を起こす割合が低く出来ます。
(ただし、まれに急に高品質オイルを使用すると今までのオイルでは落とせなかったカーボン・スラッジを落としてしまう
ことで閉塞を招く場合もあります。もちろん最初からいいオイルを使用していれば問題はほとんど考えられない。)

オイルに異常な劣化を及ぼすような他のパーツの不具合が生じた場合、
劣化耐久性があるかないかでは、エンジンへのダメージが変わってきます。
例えば冷却系に不具合が発生した場合、気がつくのが同じであれば、
高品質オイルを使用していたエンジンの方が助かる確率がはるかに高いと思われます。

何らかの理由でプラグの失火確率が増えれば、オイル希釈・オイル汚れ・スラッジ増加などを起こしますが、
その場合でも、エンジンへ影響は最小限にしてくれると思えます。

自動車全体として考えた場合、タイヤがパンクしてもだめですし、プラグが失火したり燃料が送れなくても走りません。
タイヤはパンクしにくくなり、燃料が送れないで始動できないトラブルも減ってきましたし、プラグでの不具合は、
ほとんど珍しい現象となっています。
それぞれのパーツが、それぞれ改良されていったようにオイルもいつも改良されていますので、
オイルメーカーは、「(十分考えてはじめに添加剤は入っているので、後から入れる)添加剤は入れない方がいい」
といった見解を持っているようです。
確かに、的を得ています。
トラブルがなく走るという意味では、もはや後から添加剤など入れなくたって、十分です。
けれど、面白い事に、後から入れる添加剤は今ではディーラーでも販売されるまでに広まってきています。
一つの理由は、整備売り上げをのばす理由で、もう一つの理由はメンテナンス商品としてです。
今ではほとんど「オイルは交換するもの」と言うことは、当たり前になっているのですが、
どれくらい走ったら交換するのかとか、どれ位の期間を乗ったら交換するのか
と言ったことに関して、まだまだ関心のない方もおられますので、
車検から車検の間にオイルチェックもされず、エンジン内部がオイルスラッジやらで
相当ひどくなってしまってから来られるケースがあるからです。
普通に使用されている一般的な鉱物系オイルでは、含まれる添加剤の寿命は大体3〜6ヶ月程度から
劣化が進んでいますし、あまり走行していなくても1年も経てば、清浄分散剤などが効果を失ってしまっていますので
そのオイル性能をあてにして作られている高性能化したエンジンでは、ひとたまりもなくなるわけです。
エンジンが新しい内は摩耗進行があっても、余程でなければトラブルには結びつきませんが、
オイルのキャップを開ければ一目瞭然。オイル管理が悪いことはすぐわかります。
そのまま、それをくり返していると徐々にエンジンの不調が進行して行くでしょう。
エンジンの調子がメンテナンス不良で悪くなることは整備をしている者にとって耐え難く思われます。
もう一つ加えて、オイル代が高くなりますと、他の整備費用がある場合、費用をかけられませんので
オイルの質を上げられないことにもよります。
(が、オイル交換を頻繁にしてもらえるのでしたら、これもユーザーさんの為になるかも知れません。)
安いオイル交換代でしたら、オイルも変えてもられますし、調子が良くないと思われるエンジンに
添加剤を入れてもらえることにも繋がります。
こういった例ではどうも、高品質オイルを使用している自動車ではなく、オイルの品質より、
安い価格で仕入れられるオイルを入れている場合に多いようです。
高品質オイルにはある意味で高品質オイル添加剤がきちんと含まれていますので、
一般的に普及している添加剤は必要ないからです。
整備工場で「添加剤を入れるようになって、トラブルが減った」と言われるところもあるようですが、
あくまでも普通のオイルを使用している場合であって、
オイルへのこだわりを持った人に入れる添加剤は普通の製品ではかえってよくない場合も出るでしょう。
長くなりすぎましたので、次のページへ。

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