摩擦する固体の表面での化学−その4

境界潤滑の考え方

・1.固体表面エネルギー
・2.物理吸着と化学吸着
・3.表面温度
・4.耐摩耗膜の構成
5.トライボ化学とメカノケミストリー
6.ケモメカニカル効果



5.トライボ化学とメカノケミストリー

潤滑などによって金属表面の物理化学的性質が変化しますが、そのためその変化によって
その表面に接する気体・液体・固体などの界面で化学反応が促進されます。

固体間の摩擦によって、そこにおこる化学変化やその物質と固体表面との化学反応、
または、反応をした物質と固体表面との化学反応などを指して「トライボ化学」いいます。

これとは多少広い意味合いで、
機械的なエネルギーによっておこる化学的・物理化学的変化を研究する化学の1部門に
「メカノケミストリー」と言う学際的学問があります。
両者の厳密な差はよくわからないので,
詳しくは専門書でどうぞ。

A.エキソエレクトロン・・・「クラマー効果」

「エキソ電子」とも言い、固体などの新鮮な金属表面から電子群が放出される事をクラマーによって
認められたため、その電子放出を「クラマー効果」と呼びます。

このエキソ電子の放出は、変形や破壊などによって生じる固体の新生面や相転位時などにおいて起き、
普通の光電子や熱電子より低いエネルギーで過渡的に発生します。
この放出強度は表面疲労に関係し、この電子群が強く放出される箇所から疲労が起こることがわかっています。
(金属疲労をさせたボールでは、油分を除き真空中で紫外線を照射させ、この電子を飛び出させる)

潤滑油で考えますと、潤滑油中の芳香族炭化水素が、金属表面に吸着して、そこでこの電子を受け取り、
脂肪酸の共存によって電子とプロトンとの交換が起こりますと、
芳香族ラジカルとなってポリマーを形成すると考えられています。
酸化防止剤のページ参照
また切削油ではCClを用いると、それを添加したことで放出されるエキソ電子がCClを分解し反応を促進する
ことがわかっています。

B.反応速度は高温と高圧で加速される

オイルの酸化速度は油温が10度C上がると、倍の速さで劣化すると言われます。
摩擦面の温度上昇に、化学反応の平衡定数Κの温度依存性の式をあてはめて、これだけを
理由とするには他の要因も多くあるため正確とは言えませんが、
一応関係だけは理解できると思います。

石油化学はこの高温と高圧を利用して、また金属触媒を使って、効率よく様々な製品を作り上げています。
摺動部の摩擦や摩耗と言った表面化学においても、そういう結果を踏まえて
ベースオイルや添加剤などの反応速度・劣化が圧力や温度に対してどう変化するかが
テストされることになります。
特に、オイルは単一の成分ではない条件のため、
そのベースオイルの成分に対して、添加剤がどのような成分配合で効果があるかなど、
ブレンド技術についても研究されることになります。

また、経済的な「コスト」の問題や
生成された化学物質が環境とどう関わるかと言うことも重要なポイントになります。

6.ケモメカニカル効果

金属表面は大気下では、必ず「酸化膜」の層を作り、これが
酸化していない金属表面の化学的活性(新生面など)と比較すると低い値になります。
(固体金属同士の摺動面では、大気下においての摩擦係数が低い値になります。)

この酸化膜表面に界面活性物質が吸着しますと、
酸化膜中の数ミクロンまで影響し、その機械的現象まで影響を与えています。
こういったことが摩擦や摩耗現象に影響することを指してウエストウッド(Westwood)は「ケモメカニカル効果」と
呼びました。
化学的要因により固体の機械的性質が変化する現象です。

潤滑油に当てはめてみますと、古典的な意味での摩擦係数を低下させるだけではなく、
同時に酸化膜の硬さを最大にするように潤滑剤の組成を調整することで、
材料の寿命を延ばすことを考えると言う事になります。
特にレビンダー効果は切削油方面に応用されています。
(参照http://www1a.meshnet.or.jp/JALOS/qa7-2.htm

A.「ロスコー効果」と「レビンダー効果」

表面に酸化膜だけがあるときの効果は「ロスコー効果」といい、
酸化膜に界面活性作用を持つ液体がある時の効果が「レビンダー効果」と言われます。

ロスコー効果では表面酸化膜の存在が表面の硬度や強度を増加させ、
レビンダー効果では表面の軟化が起きて応力が低下するわけですが、
ここには「界面活性剤の濃度」と「酸化膜の硬さ」が関係してきます。
レビンダーの考える「自由エネルギーの減少」だけでは説明できないのですが、
その後「濃度」が及ぼす影響について実験されるようになりました。

B.「ケモメカニカル効果」

表面酸化膜が界面活性剤の吸着した表面付近で、転位の仕方が変わって、
表面が硬化する場合もあり、界面動電位が関係してくるからだと思われます。
この転位活性を低下させたり、向上させたりすることで
表面を硬くしたり柔らかくしたりする事(領域)が可能で、
そういった研究の結果が逐次報告されるようになってきています。

つまりこういった界面活性をする添加剤の有無や濃度管理をする事により、
様々な用途を持つ添加剤の製品化がなされています。

詳細は各研究機関の論文などにありますので、
具体例は省かせていただきます。


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