肩の凝らない、しかし、嘘かもしれないページ58


オイル粘度をどうやって選ぶか?

揮発性の溶剤、つまり「ペイント薄め液」「シンナー」と言われる物ですが、
各種溶剤などの割合などで、関西あたりでは大体5種類ぐらい使われることになります。
オイルと同様、ペンキも粘性の影響を受けますので、外気温によって使い分けをされ、
更に冬は蒸発しにくいため速乾性を用い、場合によっては塗料に硬化剤を加えたりします。
夏などは塗装面に気泡が出来ると仕上げになりませんので、ゆっくり蒸発するか気泡が出来にくいタイプを
使用する事になります。
同様に、整備する上でのパーツクリーナーも2−3種類あります。
ガソリンの場合も、どれくらいの外気温で、揮発性その他の問題からその種類が分けられているか正確には知りませんが、
夏・冬・春だけでも3種類はあることを聞いております。

こういった「温度−粘度」の関係は、気温の変化の差が大きい地域では顕著に見られますが、
どうも、こういった事例は、現在住んでいる地球の気温がとても特殊な温度帯にあることによっているようです。
オイルでは−25度Cからせいぜい350度Cまでになりますし、
気温では−5度Cから40度Cの範囲に大体ありますし、
体温などもっと狭く、一部34度Cあたりから熱が出たときなどの40度Cぐらいまで、平均は36度Cあたりと、
特殊な温度帯で私たちは生活していることになります。

エンジンの場合も、設定された温度で一番効率よく機能するように作られていますので、
寒冷地仕様車の場合、特にサーモスタットの開く温度が高温になっている場合があります。
ですから、暑い地域へ引っ越しされた場合などは交換した方がいいことになります。
冬のスキーなど行かれる場合、ディーゼル車の軽油が凍らないようにその地域で調合されていますので
現地の軽油を使用する習慣も根付いてますね。

困った事は、オイル交換で、どちらの季節を中心に考えたらいいかと言うことです。
「うらばなし36」にも書いてますが、
長期間に渡って使用される場合で、季節が変わるのにも関わらず、それほど距離を乗らない場合など、本当に困ります。
1年に3000kmという場合は、多分オイル交換を1年ごとにされるのが普通でしょうし、
この場合は夏・冬どちらを優先させるかが問題になります。
使い勝手を考えて、マルチグレードオイルが使用されているのですが、
どうしても低温条件の良い柔らかいオイルは、持ちも悪い印象がありますし、鉱物油で5w−30などは
大体3000km/1年以内の交換サイクルが奨励され、部分合成油で5w−40でも5000km/1年が推奨されています。
もちろん、後者が10w−40になったところで、5000km以上の走行は、たとえオイルがまだまだ十分使用できたとしても、
交換を薦められます。
一つは、劣化因子(水分、スラッジ、吸気による粉塵、ブローバイガス、オイルの酸化劣化物質増加など)の混入が
「オイル交換」と言う形でのみ排除されるからと言う理由によります。
もしこの量が少なくて、本当に10000km/1年持つとしても、
それは、リスクマージン的な意味合いで、記述としてそれを表示するわけにはゆかないと言う、
オイルメーカーの配慮が伴っています。
一回きりのレースなら5w−30のタイプでも冬期に使用されますが、さすがに同じ車でも、夏は15w−50あたりに変更されます。

日本の自動車メーカーはそんな使用状況を想定してか、「10w−30」を基準に純正オイルを作ってきました。
このオイルは−25度Cから120度Cまでなら何とかカバーが出来る粘度と言うことになり、
一応、冬の始動でもまずエンジンはスタートでき、夏の高速道路での制限速度内でもある程度の油膜は保持出来る、
コストパフォーマンス(安上がり)なオイルが出来るからです。

ところが、環境問題が騒がれるようになり、排気ガスの有害成分を少しでも削減させるため、
僅かでも省燃費に貢献させるように「5w−30」が登場することになります。
省エネルギー効果としてはオイルの粘度だけで考えますと最大約2%節約出来ることになります。
0wや5wは特に冬に効果が出やすいオイルで、
短距離走行では、オイルもエンジン自体も高温にならないため、始動時からオイルの粘度が適度になるまでのタイムラグを
大幅に(約5−10分程度)削減できることになります。
結構この始動時のオイルの粘性抵抗は大きいわけで、
10w−40から5w−40に替えただけでも、始動直後のフィーリングは十分体感できるレベルです。
また、オイルを汲み上げて各機構に運ぶためのポンピングによるロスも少なくでき、
ドライスタートにも多少なりとも貢献を期待できます。
(摩耗量とは、また別ですが。)

ついでですが、
ドライスタートでどれぐらい摩耗が起こるかを実際のエンジンで比較したデータを見ていませんので、正確には説明できないのですが、
最近のオイルは「極性」を持たせ、重力に逆らって油膜を保持するような傾向にあったり、
オイルがエンジン各部にまわる前の、油膜潤滑が不完全な場合の金属表面の凝着を防ぐ意味もあって、
有機モリブデンを使用したりしています。
オイルレスと言っても、6時間以内でしたら、わずかですが油膜はありますし、低粘度化で
オイルのポンピングに必要な時間も少なくなっていますし、
油圧ラッシュアジャスターなどではある程度オイル自体を保持していたりしますし、
カム上部室には「オイル溜まり」がありますし、
まあ、オイルレス状態のドライスタートは4−5秒ぐらいではないかと思います。

これが一番エンジンに悪いとは思いますが、
水温計が動くまでの暖気運転で解消されるのは本来こちら中心ではなく、
正常なエンジン特性(気密性、熱膨張、燃料の気化性、その他)に関わっているのではないでしょうか。
暖機運転をしてもどうしたって、ドライスタートはある程度避けられませんものね。
オイル側の水準を高めて、省燃費に貢献させるよう、アイドリング規制もされてますが、
(暖機運転の弊害はご存じのように、排出ガスの全体量の問題ですから、)その比較効果もあり、エンジン側の改良もあり、
現在のようにエンジンをかけて即、スタートと言う具合になったことと思われます。

実際、私も昔からすべてこれです。ただし窓が凍った時だけはしますが。(笑)
暖機されている人は都市部ではごく限られているようです。
また、メカニックの方で暖機されている方を近辺で知りませんし、償却期間内ではどうも問題がそう出てないのではないか
というのが実状のようですので、ことさら暖気が言われなくなったのではないかと思います。
(アイドリング自体騒音公害にもなりますし・・・)

ですが、暖気とは別にドライスタートが摩耗に影響があることは事実ですし、
暖気とは別に、ベアリングなどでは走行しないと(回転によるくさび膜効果)潤滑効果が現れませんので
いきなりの高負荷はあまり良いことではないでしょうね。
このためにも「表面処理系潤滑」が大事にされてます。金属側の進歩(金属冶金技術)もありますし、オイル側の添加剤技術の
進歩もあります。

で、話を元に戻しまして、問題は冬ではなく、夏と言うことが言えそうです。

冬に冷却効率が少し悪くなったからといってオーバーヒートする場合はまれで、
逆に、ヒーターなど入れてますので、冷却水が循環していれば多少のヒート気味な傾向をもつエンジンでも、
何とか使用に耐えることがあります。
例えば、ラジエターが少し詰まり気味になっていても走行中に冷却されるため、
冬にヒートする症状が出てこないこともあります。で、夏になって初めてオーバーヒートの症状が出てくることがあるわけです。
例えば、サーモスタットが開きっぱなしの故障した状態で走行されますと、
水温計が上がらないか、ヒーターが効かなかったり、AT車の場合は高速走行中、急にシフトダウンするような症状も
現れます。こういったことは夏に判りにくい症状です。

オイルも金属も温度が高くなりますと化学反応し易くなりますし、固体は液体へ、
液体は気体へ状態をかえようとします。そのため、夏のように外気温が高い状態ですと、
オイルだって蒸発し易くなりますし、低粘度ならなおさら蒸発温度が低いため、エンジンの高熱をまともに受けやすく
油膜も薄くなり、うまく潤滑が行われ難くなります。油膜が金属同士の接触を避ける事が出来なくなりますと、
溶着が起こり、ひどい場合は「エンジンの焼き付き」になります。

ここで、オイル温度上昇→油膜が薄くなる→摩擦熱が増える+燃焼室などの温度が高くなる→金属が柔らかくなる・
熱膨張する→焼き付きが起こる。と考えた場合、
どこで焼き付きを防ぐかが問題になり、
オイル側としては、冷却と油膜保持をどうやって高温域でするかが問題となるところです。

もちろんオイルの温度が高くならないような走行パターン(夏でも10分程度の走行・冬なら20分程度の走行)では、
ピストンクリアランスが十分狭いエンジンであれば、オイルによる密閉性などあまり気にすることもなく、
ただ粘度は出来るだけ柔らかい方が省燃費になると言えそうです。
この場合、焼き付きなどという事と無縁かも知れません。
こういった走行パターンしかしない方は、逆に低温で発生しやすいスラッジや、ドライスタートによる摩耗や
金属腐食などを中心として考えた方が良いと言うことになるわけです。
けれど、こちらもオイルにとってはシビアーな走行パターンで、距離を走らないからといってもオイルは劣化して
行きますので、走行距離の割に、エンジンオイルの管理が必要とされます。
大体、オイル交換は1年1回ぐらいの割合になるようですが、
距離の割にオイルの汚れもひどかったり、エンジンの調子もあまり良くない場合がこういった短距離走行車にあるようです。
また、そういった走行がほとんどで、たまに高速道路を使用したり、長距離を走る場合が出てきた場合、
オイルが高温に対応できないほど劣化が進行していることがありますので、
オイル交換してから出かけられることをお勧めします。
様々な対策が各パーツで取られていますが、
オイルで言えば、冷却能力を妨げるスラッジなどの除去(清浄分散性)や消泡性、
スラッジを出さない酸化防止性、
高温での油膜保持のためのポリマー添加や粘性維持(粘度指数向上)性、油性、などなど・・・。
つまりオイルに入っている添加剤がすべて機能していないと、オイル性能としては十分とは言えません。

オイルの汚れとオイル自体の性能の間にはある程度関連があり、「オイルが早く汚れるオイル・汚れにくいオイル」
について色々と論議されていますが、
オイルが汚れないことが良いオイル=高性能と言うわけではなく、
機器の性能を保つため、「必要に応じて」オイルが汚れることがオイルにとっての役割と言われてから
すでに半世紀も経つようになっています。
難しいのはこの「必要に応じて」と言うことで、
簡単にオイルやその添加剤自体が劣化してしまうための「汚れ」であれば何にもなりません。
オイルが汚れず、機器を汚したままの状態にするオイルもあまり意味がありません。
オイル自体が添加剤も含めて劣化しにくく(=オイルそのものは汚れを出す「もと」にならず)、
機器の保全のために機器自体を汚れた状態にしない(=オイル側が汚れる)事が大切なのですが、
見た目だけでどちらの汚れか判断できない点がオイルの性能評価を難しくしています。

10万キロを超えてタペットカバーのオイルシールを交換する時などに観察してみて(オイルの汚れとその使用期間、
エンジン側のスラッジの付き方、摺動面の摩耗などを観察)、初めてそのオイルや添加剤などの評価が出来ることもあります。
また、汚れが付きやすいエンジンかどうかも比較可能です。
省エネを考えられたエンジンの要求から、オイルは低粘度側へ移りつつありますが、こういった実際の評価をふまえないと、
自動車メーカー指定のオイル粘度や使用期間の目安にしたがって行うことは、リスクを伴います。
現場のディーラーサービスの方にお尋ねされると良いでしょうが、メーカー指定オイルでどれくらいで交換した方がいいかを聞けば、
まず間違いなく「半年」「5000km」ぐらいという返事が返ってくるはずです。
保証期間まで問題がないと言うことと、安心して使用できると言うこととは別のことなのかも知れません。

ユーザーの立場とメーカーの考え方にはまだまだかなり隔たりがあるわけで、
こういった事を考えますと、どうしても粘度だけでない要素が入ってきてしまうのですが、
改めて、粘度だけを考えてみようと思います。
いつも通り、まとまりがつかないままですが、
次のページへ


前のページへ

ご意見、ご感想こちらへ

メールが送れない場合:macchann@mbox.kyoto-inet.or.jp


ホームページへ inserted by FC2 system