燃費-3-

(4)異常な燃焼の仕方と処置

異常な燃焼のしかたと言いますと、普通はノッキングをあげる場合がほとんどですから
ここでは、ガソリンエンジンに起こる”ノッキング”がどのようにして起こるかと言うことと
その対策などを取り上げてみたいと思います。

なお、燃焼室内のプラグの電極、排気バルブ、カーボンなどが点火源となる「表面着火」や
キャブレター車でおなじみの「ランオン」も入りますが、それらも含めて考えたいと思います。

1.ノッキングという症状

正常な燃焼と言う場合は、火花で火種が出来、それが伝播することによって、
全ての混合気が燃焼しつくす形を取ります。
ところが、燃焼が進むにつれて、燃焼ガスは膨張し、燃焼室内の圧力がどんどん上がるため、
まだ燃えていない混合気が圧縮され、火炎面からの熱伝達も加わり、そこの温度が急激に
上昇することが起こります。

混合気はある温度以上になると耐えきれず、火炎伝播によらなくても、またスパークプラグの火花
によらなくとも、自己着火してしまいます。
図にも書いていますが、この自己着火の燃焼速度は500m/秒以上(1秒間に500m以上も火炎伝播が進む)という
速度で起こるため、その燃焼した結果の圧力が異常なまでに上昇してしまい、
衝撃波となって燃焼室内部を駆けめぐることとなります。
500m/sと言う早さは”音速”以上と言うことはおわかりになると思います。
音速=343.60m/sを越えますと、衝撃波が出ることが確認されており、様々な物質はそれぞれの特定周波数で
破壊されやすくなることも分かっております。
(超音速が物質に与える影響はそれぞれのHPを検索参照ください。)
シリンダーなどはある程度破壊される条件を避けて設計され、強度も考えられているわけですが、
シリンダー側面をキンキンと音を立てていますと、耳障りに感じます。
で、問題点は、ノッキングをそのまま放置しますと、壁面などの疲労劣化を促進するばかりではなく、
壁面の異常な温度上昇を起こすことによる”ピストンの焼き付き””ヘッドガスケットの吹き抜け”ピストンリングの異常摩耗”
が起こることによります。

※急加速や登坂時に聞こえる場合で、普通に加速もするし、違和感のない場合で、軽く「カラカラ」とだけ聞こえる場合、
  正常範囲内のノッキング音であると判断されることがあります。
 これは、燃費向上やスムーズな吹け上がりをするように、燃料を出来るだけ薄くしていたり、点火タイミングを進めて
 セッティングしている場合や学習機能で今までとは違う高負荷のかけ方をした場合に起こりやすくなります。
 そう言ったシーンでちょっとでも聞こえるのは嫌なものですが、故障でない場合(そのままで正常)がほとんどです。
 燃料の調整(ROM書き換えを含む)やタイミング調整で直る場合もありますが、
 使用する燃料の見直しでも解決する場合が多くあります。
 
2.ノッキングが起こりやすい条件

ノッキングが”自己着火”によって起こる現象であることがわかれば、
対応は簡単と思われます。
しかし、”自己着火が起こりやすくなっている”理由を知る必要があります。
問題点をあげるだけでも下記のような項目が浮かんできます。

  • 燃料側の問題
  • 燃焼室側の問題
  • 圧縮比の問題
  • 空燃比の問題
  • 火炎伝播距離の問題
  • その他

  • 燃料側の問題点とは、当然”自己着火”温度が低いことによって起こる現象のように思われます。
    夏期にノッキングが起こりやすい理由も、燃焼室内の各パーツの温度が冷却範囲を超えて高温になるため
    自己着火温度を超えてしまう事によります。
    またハイオク仕様車の場合は、自己着火温度が上げられた設定がされていますので、オクタン価の低い
    レギュラーガソリンを使用するとノッキングが起こりやすくなります。
    設計されたエンジンの要求するオクタン価がノッキングと関係してきますが、
    経験的にその設定条件には余裕のあるエンジンと余裕のないエンジンがあるみたいです。

    燃焼室側の問題点は、燃焼室内部にデポジットなどを持っているため、それが熱を持って丁度プラグのような
    役割をしてしまうことによります。いわば、圧縮過程でプラグを複数持つような状態となり、
    プラグ以外からの火炎伝播が起こってしまうことになります。
    また、次の項目と関係しますが、スラッジ・デポジットなどが燃焼室内に増えてきますと、
    圧縮されたときのシリンダー容積が減ることになり、圧縮比が設計された数値より幾分か上昇してしまい
    自己着火温度を起こしやすく、ノッキングへ移行する事が起こります。
    特に走行を重ねた自動車では、この現象が起こりやすくなるようです。
    また、エンドガスの方が温度・圧縮が速い構造のエンジンなどでは起こりやすいと言えます。
    (この解決はエンジンメーカーにお任せするしか方法がないように思えます)
    スワールやスキッシュと言う燃料混合ガスの流動方式の利用は、
    燃焼速度を上げるために利用され、
    特にスキッシュはエンドガスの冷却によって自己着火を抑える働きもしています。

    圧縮比の問題は、チューンなどによりガスケットを薄くしたり、わざと圧縮比を上げるような改造をした場合に
    よく起こります。
    圧縮比を高くするほど燃焼効率は良くなるわけですが、
    圧縮比はノッキングと密接な関係があるため、この場合はノッキング対策を、
    冷却系や燃料か点火時期などで調整する必要があります。
    圧縮比を下げることでノッキングを解消している例としてはリショルムコンプレッサーを使用している
    マツダのミラーサイクルエンジンがあげられます。

    空燃比の問題としては、燃料を急激に薄くすると、燃焼速度が遅くなることで発生します。
    この例としては、アイドリング状態から急加速する場合や
    低速からギア比の高いギアを使用して加速する場合にみられます。
    どちらの場合にも、急激なスロットル変化に対する空燃比のタイムラグが生じます。
    スロットルバルブの開きに燃料が対応出来ないで、一時的に燃料が薄くなってしまうからです。
    筒内へ直接燃料を噴射する希薄燃焼型のエンジンでは、
    プラグ周りにちょうど濃い燃料が集まるようにピストンなどの形状を変えていますが、
    この場合は、濃い燃料部分と薄い燃料部分が層状になっています。
    このような希薄燃焼型のエンジンでもノッキングは発生しているのですが
    また別のページで取り上げたいと思います。

    火炎伝播距離の問題点は現在はある程度構造的に解消されています。
    ほとんどのエンジンはペンとルーフ型になり、火炎伝播距離を最も短くなるように設計されているからです。
    点火プラグはほぼ燃焼室の中央を締めるようになっていますが、初期のエンジンで広く普及していた
    サイドバルブを持つエンジンなどでは燃焼室がシリンダーの内径よりはみ出ていたた、いびつな形状であったため、
    ノッキングも起こりやすくなっており、圧縮比も低くされていました。
    現在の所普通ガソリン車ではシリンダー内径は110mm程度が上限となっていますが、
    これは火炎伝播距離の問題と言えそうです。

    その他の問題点としては、
    バルブのスポンジ現象やキャブレターの構造、インジェクターの詰まり、エアーエレメントの詰まり、
    などなどがあげられますが、これらはメンテナンスの項目になりますので、
    ここでは簡単に防止策として取り上げることにします。

    3.ノッキングの防止策など

    エンドガスの自己着火が問題となることがほとんどと言えますので、
    これを防止する方法が取られます。

  • 正常な燃焼の速度を速くすることでエンドガスが自己着火する前に燃焼を完了させる。
  • エンドガスの自己着火温度に達するまでの時間を長引かせる為にエンドガスの圧力上昇・温度上昇を押さえる。 

  • このような考え方から見てゆきますと、
    1.燃料の選択
    2.燃焼室の形
    3.圧縮比
    4.運転の仕方
    5.メンテナンス方法
    などが考えられます。
    けれど、市販車のユーザーにとって出来る事は、1の燃料を選ぶことか、4の運転の仕方を考えるか、
    5のメンテナンスに限られてきそうです。
    2や3は購入時にはカタログデータでわかるのですが、ノッキングが起こりやすいかどうかなど、その時点では
    わかりにくく、その事を考えて購入することなどあまりないからです。

    燃料の選択

    燃料を選択すると言うことは、普通は製造メーカーを変えると言うことか、あるいはレギュラーにするか
    ハイオクを使用するかと言った選択になります。
    いろんなHP上で、どのメーカーのガソリンが良いとか悪いとか言われていますが、
    メーカーがガソリンの成分割合を元にした性状を発表していませんので、
    実際は、自分の車でテストするしか方法がないのかも知れません。
    100%粗悪ガソリンがないとは言い切れませんので、一応安心出来るメーカーのガソリンを選択する方法が
    良いかも知れません。ただし、ガソリンは季節により、地域によっても若干成分を変えてつくられますので、
    比較するのも大変でしょう。
    アンチノックを向上させる成分としては、有害なベンゼンを含むガソリンの方が良好となりますし、
    アンチノック剤として使用する成分の質にも注目する必要はあるかも知れません。

    自己着火温度が高く、燃焼速度の速いものほどアンチノック性が高いと言えますので、
    代表的にMTBE(メタルターシャリーブチルエーテル)などがオクタン価向上剤として
    ハイオクガソリンに含まれることになります。
    (ただし、シールへの影響が多少大きくなります。)
    また燃料添加剤などにも、オクタン価向上剤と同じように作用する成分が含まれているのが普通です。
    燃料添加剤には普通、溶剤としてほとんどの製品にBTX(ベンゼン・トルエン・キシレン)やイソプロピルアルコール
    (C3H8O/(CH3)2CHOH )などが含まれていますが、環境への問題は別として
    アンチノック性を向上させると思われます。参照:ガソリンの成分
    また、航空機燃料などにみられる高品質燃料を含む成分(燃焼速度が速くなる)を使用している製品もあるようです。
    ただ、基本的に燃料添加剤は燃料系統や燃焼室の清浄を目的とした製品が多く、
    溶剤的な成分を多く含みますので、常用的な使用には注意が必要と思われます。
    溶剤系の強い場合はオイル交換前に使用し、添加剤入りのガソリンを使い切った後に
    オイル交換したほうが良いでしょう。

    代替え燃料については、賛否両論ありますが、将来的には資源問題からそのような方向へ
    向かっているようにも思えます。
    ノッキング対策としては、よりノッキングを起こしにくい性質を持ったアルコール成分があるため、有効と思われます。
    代替え燃料としては、アンチノックの問題と別の環境問題として
    特にディーゼル車に関して、自動車メーカーも専用エンジンの開発が進んでいます。
    この事はまた別にページを設けたいと思います。

    4.運転の仕方と対処法

    マニュアル・トランスミッションの場合、低速ギアが必要な箇所でギア比の高いポジションを選択しますと
    つまり2速が適当なのに、4速や5速などにギアを入れてしまいますと、
    エンストしたり、ノッキングが起ります。

    通常走行では燃料の噴射量や大気吸気量を計算して制御しているのですが、
    登坂などでノッキングするような場合は、インジェクターの作動切り替えスイッチを使用する(モード切替)とか
    Dのドライブポジションを3や2へ下げる事が必要となります。
    多くの自動車では学習機能も備わっていますので、急なアクセルワークには対応しない事が多く
    AT車などの場合でも、このようにマニュアル的な扱いが出来ますので、積極的に使用されると良いと思います。

    アイドリング回転数を設定可能な場合は、あまり低回転にせず、やや高めくらいにしますと
    対処出来ることがあります。
    これはスロットルバルブが急に開くことで、空燃比が一時的に薄くなり、燃焼速度が遅くなり、
    エンドガスが十分暖められ自発温度まで達してノッキングが起こりやすくなるためですから
    多少なりとも回転数を上げることで防ごうとするものです。
    中高速回転域でアクセルを踏んでもノッキングが起りにくいのと同じ意味合いです。

    また、ノッキングの原因の1つに燃焼室内外のカーボン付着があげられますが、
    渋滞の多い市街走行、短距離走行が多い車に起りやすくなります。
    高速走行後のエンジンの調子が良いといわれる1つの理由は
    燃焼室内のカーボン(プラグ、ピストン表面、排気バルブなどに付着)が高温・高回転によって
    セルフクリーニングされたりして取り除かれたりする事によります。
     
     

    工事中

    メンテナンス方法

    ノッキングが通常で発生する場合、原因はいろいろ考えられます。
    経年劣化的な事象で、エンジンなど各部の初期機能が維持できなくなるためのものでは
    燃料以外には、燃焼室の汚れやカーボンの付着、あるいは冷却系の不具合が多くみられます。

    燃焼室内のメンテナンスは
    ○、燃料添加剤などによる清掃
    ○、プラグの焼け状態確認と熱価の確認(よく冷えるタイプに番手を変える)

    吸気側のメンテナンスは
    ○、スロットル部やエアクリーナーなどの確認
    ○、センサー類の作動確認

    冷却系では
    ○、ラジエター液の漏れ・詰り、ラジエターキャップの状態やクーリングファンの状態の確認
    ○、オイル量の確認

    電気系では
    ○、プラグ、プラグコード、デストリビューター、デスキャップ、などの点火系の状態
    ○、吸気系のセンサーに加え水温センサーやO2センサーなど

    を、それぞれ確かめてゆくと良いでしょう。
    ケミカル類は多く販売されていますので、信用できる製品を試してみるのも良いと思えます。
     

    チューン的に後で手を加えて引き起こされるものでは
    元に戻すとノッキングが解消される場合がほとんどです。

    例えば:
    ガソリン車の場合、ディーゼル車とは反対に、吸気圧が低い(大気が楽に入るようになる)と
    急発進・急加速でノッキングが起りやすくなります。
    大気が急激に多く入り、燃料が薄くなる事が原因でなのですが、
    この事はエアーフィルターをスポーツ系などの低抵抗タイプに変えることで起ることが知られています。
    変な話ですが、せっかくのスポーツ系エアーフィルターの交換で、ノッキング発生が場合した場合は、
    目張りなどしてエアフィルターの面積を狭くしますと
    ある面積からノッキングが解消されるポイントがありますので試してみると良さそうです。

    で、どうしても使用し続けたい場合は、燃料側からアンチノック性を求めるのが楽な方法です。
    レギュラーガソリンならプレミアムガソリンを加えるとかで解消される事が多く確認されています。
    プレミアムガソリン仕様車の場合は銘柄によって発生する場合もあるようですので
    アンチノック性が良い製品を選ぶというのも一つの方法です。
     
     

    工事中



    (5)有害物質
    (6)その他

    参考文献「エンジンのABC」檜垣和夫著 講談社B1129

    (4)異常な燃焼の仕方と処置

    (5)有害物質

     

    (6)その他


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