肩の凝らない、しかし、嘘かもしれないページ60


オイル粘度をどうやって選ぶか?・・その3
 

1.オイルの耐久性を中心に考える・・・前のページ
2.摺動摩耗(自動車の耐久性)を中心に考える
3.始動時のフィーリングを中心に考える
4.始動時以降の使用フィーリングを中心に考える
5.それ以外を優先する

2.摺動摩耗(自動車の耐久性)を中心に考える

摩耗についてはその運動タイプで機構も変わります。(参照:摩擦の分類などのページ
摩擦力は必要だが、摩耗は困るという箇所もオイルを介して作動するように作られています(ATやミッション系)。
エンジンでのオイルの状態を考えても、使用の仕方で随分変化します。
オイル膜が薄くなる始動時の初期潤滑時や、
オイル自体は中低温にしかならないので油膜が比較的安定しているが、
ピストン部でのオイルの入れ替わりの少ないのでその箇所でのオイルが著しく劣化してしまう短距離走行時や、
ピストンなど燃焼による熱や摩擦熱を受け、オイルパンやメインギャラリーの油温(約90度C前後)より、
実際は25度Cから70度Cも高温になっているので、粘度も相当薄く、劣化をまともに受けている高回転・高負荷時など、
様々です。
ひどい状況になりますと、高負荷高温時などで油温が上がりすぎ、
オイルが蒸発するほどにもなりますと、油膜が形成できなくなり焼き付きが部分的に進行して行きます。
このため、油膜に頼らない金属表面の改質が施されている場合がほとんどです。
また改質面の摩耗も温度や表面祖度が関係しますので、A金属−B金属と言うような異質な金属を用いることで、
摺動面の融着を防ぐよう工夫されています。

オイルの粘度から摩耗を考えますと、暖気が終わった状態での中回転・中負荷ぐらいで、オイルが新しくて
劣化していなければ、ほとんど摩耗については気にするレベルではないのでしょうし、
それほど粘度にも気にすることはないと言えます。
オイル循環が普通に行われ冷却性能(スラッジの問題や冷却水系の状態)も正常にあれば、運動タイプにもよりますが、
簡単な摩耗と粘度の関係になってしまい、摩耗率も荷重と相関関係で表せることになります。
流体潤滑が行われるようにオイルは粘度が決められていますから、
作動油として機能する粘度から外れてさえいなければ、
一応、どんな粘度のオイルでも、使用可能であると言えます。

摩耗を考えるときのポイントとしては
ア.始動時のオイル膜と摩耗の関係(ドライスタートがあるかどうかや、粘度がそれにどう関係するか)
イ.温度−粘度関係による油膜状態(厚み)と金属同士の真実接触量=摩擦と摩耗の関係
ウ.異なる粘度でのオイル劣化の速さの比較(=粘度低下あるいは上昇)と金属摩耗との関係
エ.その他(オイルに使用する成分との関係など)
として、考えて行けば良いことになります。

ただし、オイルには様々な添加剤が含まれますので、商品化されたオイルで違いを比較するの難しいように思われます。
一般的に言えば、同系列のオイルでは分子量が大きいオイルほど粘度は大きくなりますし、
同じ分子量のオイルでは単環ナフテン→単環芳香族→直鎖パラフィン→イソパラフィンと粘度は増大します。
更に分子中の環数の多いオイルほど粘度は高いし、分子中の2重結合や側鎖の位置や立体障害性などの
分子構造上の相違が粘度に影響をしている事はすでに他で書いています。
粘度−圧力関係もオイルの種類で変化します。

オイルメーカーが、商品を開発するとしたら、
同じ性能であるなら、出来るだけコストが安く精製(加工)できる方を作るでしょう。
そのためには、必要とされる特性に合うようなベースオイルのブレンドを行い、
添加剤での摩擦や摩耗の調整なども必要最小限のコストで最適条件になるようにします。
現在あるベースオイルはある程度組成も決まっていますし、性能も決まっていますので、
(添加剤も似た傾向ですが)
どのベースオイルを使用するかということではすでにコストだけの問題で、
後はそれに合う添加剤に何を使うかが商品の性能を左右する事になると言えるかも知れません。

ベースオイルの選択と添加剤の選択によるコストパフォーマンスを考えているのですが、
必要とならばベースオイルになる合成油を添加剤を作るように新たに作ってしまい、
(こういう場合は少しばかり高価になりますので)
オイルに入れる添加剤を減らすことが出来れば良いことにもなります。
そうやって見て行きますと、卸流通値段が近い製品は大体似たような性能を持つだろう事がわかってきます。
また、国際的なオイルの試験(SJとかA3とか)をパス出来ている商品ならば、
かけ離れた優劣は少なくなっているということも理解できます。

けれど、そういった基準にはいる同じグレードだったとしても、オイルによって耐摩耗性の差があります。
特に最高グレード油に関して異なる結果が出やすくなるのは、
品質・性能の(いくら高性能でも良いのに)上限が規定されていないためです。
現在はSJ以上のグレードはすべて「SJ」としか表示されませんので、
そのSJ基準より高性能オイルであったとしても表示する基準がないので、
値段の差として「より高性能」と判断するか、ベースオイルの値段の差としてそれを高性能と見るか、
入っている添加剤の高価と言うイメージで高性能と見るかしか判断方法がありません。

摩耗度が現行の最高グレードオイルの基準よりいかに少なくて、高性能としても、
それを評価する基準がないため同列で扱われてしまうことになりますし、
上記耐久性にも大きな差があっていかに優れていても、表示されません。
また、多くある基準のひとつに合格していなければ、(その他の基準に大きく上回る性能があったとしても)
そのグレードを通過することが出来なかったり、
グレード取得には協会に大金を支払わなければならないため、
下位のグレードのままにしている場合もあるわけです。
ですから、どのオイルが良いかが話題になることもあるのでしょう。

エンジンオイルの摺動摩耗という観点から考えてみますと、
金属表面の接触がないような油膜の厚さがあれば良いことになり、
この場合は、金属同士が接触しない流体潤滑だけを中心に考えればよいことになります。
(違う摩耗形態によっても金属は摩耗するのですが、いまは考えない。)
油膜状態を中心に考えれば、
高負荷がかかるのならば、高粘度にしてやることで膜厚を大きくして、ある程度摩耗が防げることになりますし、
その油膜の結合を強くすることや、金属表面の形に手を加えて(加工し)オイルに浮かせる構造にすることで
金属摩耗を減らすことが可能となります。
つまり、摩耗に関しては粘度の状態が高いほど有効ということが一般的にいえます。

ですが、金属の表面摩耗はこれだけで解決できないこともわかっています。
摺動部が絵に描いたような流体潤滑ではないからですし、
オイルの状態が劣化する方向へ確実に変化しているからです。

オイルには金属を腐食させる酸や、オイルの劣化物である酸化物が浮いており、ブローバイガスとして
未燃燃料や水やススがあり、金属表面から剥がれ落ちた金属片(粉)があり、・・・
と言うような環境になりやすく、熱や圧力がかかることで、オイル劣化が促進され同時に摺動面が
理想的な流体潤滑を離れて行くことになります。
この限界値が「オイル交換」という作業で取り除かれなければならず、
同時に、今度は摩耗した状態で新たに同じ事を繰り返すのですから、
いつか、エンジンにも寿命が来るわけです。

その寿命をどうやって延ばすかを考えて行きますと、

  1. エンジン各部の摺動方法を変えることで延ばすのか、
  2. より摩耗しにくい材質を使用することで延ばすのか、
  3. より摩耗をしにくいオイルを使用するのか、
  4. 摩耗が進行しにくいようにオイル管理(オイル劣化している状態を避けてオイルを使用する)をするか、
などという形が現れてきます。

効果として現れて、現在も進行しているのは、摺動方法と材質と言うことで、
消耗品として安価なオイルはその脇役になります。
けれど、エンジンが高性能になるほど摺動条件がシビアーにならざるを得ず、
オイルも「エンジンを壊さないように」耐摩耗性やオイル自体の耐久性が求められ、
環境保全の要求から、環境破壊を避ける添加剤や低粘度化オイルの使用が薦められています。

そのため、「低粘度だから耐摩耗性が悪い」というのは特別な状況下での事になりつつあります。
ベースオイルの合成油化やFM剤の性能アップがあるからですが、
対コスト面と言うことになりますと、やはり高級オイルへの指向は致し方ないのかも知れません。

3.始動時のフィーリングを中心に考える

この事については、時々書いてきましたので、説明が不要かも知れませんが、
オイルの低温時でクランキングの抵抗になりにくい粘度であればよいことになり、
出来るだけ低粘度が好ましいと言えます。
ただ、クリアランスが大きくなっている場合は、フィーリング的には高粘度の方が気密性の点からも、
良好に感じることがあります。
クリアランスの広いエンジンは大抵、粘度が高いオイルを使用していますし、
ポリマー系添加剤などで低温時に粘性抵抗が少ない製品が体感度が良く感じられるようです。
こういった事柄はエンジンの設計に関することがらになり、フラップ音が出る場合とか言う場合は粘度を上げ、
油圧式バルブアジャスターで異音が発生する場合などはポンピングの早い低粘度オイルの方が
おさまりが早いと言うことがあげられますが、
普通は粘性抵抗の少ない低粘度油の方が良好と言えます(特に冬期)。
また、こういったことはオイルが潤滑油と言う側面の他に、作動油と言う側面や冷却(熱伝達)油などという側面を
持っているから起こるのかもしれません。

粘度指数が高い合成オイル系の場合などでマルチグレードの幅を広く取っている場合は
5w−50は10w−40の部分合成油よりやや重たく感じられます。
「w」はあくまでもそのオイルが使用可能な最低温度での表示ですから、
普通使用される温度帯での始動時のオイル粘度を見る場合は高温時を評価する数字の方も
参考にして使用された方が良いかも知れません。
またこういった場合はエンジン始動時の温度に近い40度Cでの動粘度を比較された方がわかりやすく感じるかもしれません。

4.始動時以降の使用フィーリングを中心に考える

最も難しいのが、ある程度油温が上昇した後でのフィーリングです。
これには、「好み」と言うことも入り、エンジンの使用状況によっても随分感じが異なりますので、
どういった場合の走行で「好ましい」フィーリングが保てるかという事が中心になって粘度が選ばれています。
オイルは外気温によっても粘度が変わりますが、
なんといっても、燃料を燃やしている燃焼室を冷やす役割が大きいわけですから、
燃焼室の温度に影響を受けることになります。
フライパンにサラダ油を入れてガスコンロに掛けますと、その粘度変化がよくわかります。
入れたばかりのサラダ油は、フライパンにくっついて、少々傾けてもどろっとしています。
これを粘度というわけですが、しばらくすると、フライパンが熱せられ、サラダ油は水のようにさらさらになり、
粘度が下がります。
こういった場合の温度差はサラダ油では、常温〜200度Cになり、大体エンジン内部のトップランドでの油温に相当します。
200度Cというのは、フライパンではサラダ油が煙を出す温度=蒸発し出す温度を考えていただければ良いわけです。

ただし、エンジンの場合、オイルを循環させて、更に冷却水で放熱させますので、
油温計はある一定温度以上は上がりにくくなります。
大体オイルパンでは低速でしたら90度C前後、少し走り込むと110度C前後、激しく走ると130度Cを越えてきますので、
シリンダーを冷却する能力も、油膜もオイルの粘度によって随分差が出る事になります。
ここで、効果が出てくるのが粘度指数向上剤(少ない方が剪断安定性はよくなる)やベースオイルの粘度特性と言うことになり、
◯w−30、40、50、60、(70)と言うように表示されるのですが、
代表性状の動粘度=100度Cでのオイルのタレにくさということで決められています。
本当はシリンダー部での油温がオイルパン油温+30〜70度Cですから、軽自動車のような出力が少ない自動車で
高温側が60ぐらいのものを使用しても、登坂路を全力疾走するような状況下では、
さほど、重たく感じないことが起こってきます。
つまり、低温時でのエンジンの重たさがあればあるほど、高温時での抵抗がなくなった時の軽さが味わえ、
不思議な感覚になる事がわかります。人の感覚というのは比較には敏感らしく、絶対値がうつろいやすいので、
こういった現象が出てくるわけです。
ただし、機器での測定値では、そのエンジンの特性にあう粘度が出てくるのですが、
走りは「嗜好的要素」が強いわけですから、
エンジンに問題のない粘度であれば、一番使用したときに体感度の良いオイルを選べば良いという結果になります。
SG以上の10w−30鉱物油が最低設定にされているエンジンであれば、
外気温に合わせてw側を選び、オイル消費を考えて高温側の粘度を考えれば、
余程のことがない限り問題になることはないでしょう。

高速で全負荷運転を多用するのであれば、外気温が高い場合は指定油の粘度が、
10w−30であっても、15w−40や15w−50を使用した方がよいフィーリングになることもあり、
外気温が低い場合は5w−30や5w−40も使用可能になります。
ただし、粘度を変える場合、オイル管理はきちんとされた方が良いでしょう。
15w−40が基準にされているエンジンに、5w−30を使用しますと、
大抵の場合、オイル消費が多くなる傾向があります。
また、使用状況に合わせたオイル交換も考える必要があります。
オイルレス走行は洒落になりませんから。(笑)

5.それ以外を優先する
いろんな目的でオイル粘度が選ばれています。
まず省燃費性でそういった低粘度オイルが選ばれることが筆頭にあげられます。
省エネエンジンは省燃費を考えて低粘度オイル使用を標準にしている場合が一般的です。
地域・季節によってガソリンの成分を変えるように、外気温でオイル粘度を変えることは良く行われていますし、
エンジンの改良に伴い、粘度は低粘度化へ向かっていますが、
オイル交換を延ばすと言う理由から高粘度オイルや合成油を選ぶ場合もありますし、
オイル消費の問題から高粘度になったり、
オイル下がり、オイル上がり低減の目的で高粘度オイルを使用することもあります。
エンジン側に性能劣化=クリアランス増加に伴う問題がない場合は、油温による粘度変化を中心に考えれば
よいことになり、外気温度とエンジン内の油温の関係になってきます。
どうしても金属摩耗ということから考えれば、少しでも高温粘度に油膜を保持する方が良いことになり、
作動油としても油圧を考えた粘度が選ばれることになります。
標準から低粘度へ変える場合は特にこの事を考えたオイル選択を考慮された方がよいかと思えます。
一時的な修復効果をオイルに求めるのは少し無理があり、
こういった場合は良質な添加剤を使用すると言った方法や、
根本的な解決(修理)を考えた方が効果的と思われます。

オイルは様々な働きをしていますが、粘度だけを中心とするのは、粘性抵抗と温度によって変わる膜厚が
基本になりますので、それに伴うフリクションロスの問題や気密性、音質に関わることになりますが、
市販のオイルは「添加剤入り」ですから、
すでに粘度と離れた領域も含んでいることになり、
評価は粘度だけと言うことになりません。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

まあ、粘度だけではオイルの選択にならないと言う事を書くつもりでは無かったのですが、
結果としてそういうことになってしまいそうです。

ということで
いつも通り決定打のないまま・・・。
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