摩擦・摩耗の分類-その3

エンジンブロックやコンロッドに使用されるウィスカ含有合金

ウイスカ−を含む合金に添加剤は効くのか

エンジンなどでアルミ合金が使用されるようになって来てから、随分経過しています。
アルミが金属の中でも特に「軽い」事から、燃焼効率の問題を中心に取り入れられるようになって
現在では、SiCウイスカー入りのアルミ合金がシリンダーブロック、コンロッド、ピストンなどにも使用されています。

強度の問題については、合金と言うことで様々に見当されてきましたが、
固体材料が強度をどういう風に維持しているかという観点から、
その構造と実際の強度などや、摩擦や摩耗についても考えてみたいと思います。

壊れると言うこと
金属は無理な力が掛かりますとちぎれたり、割れたりします。
力がかかり固体が2つ以上の部分に分離することを「破壊」と言いますが、
破壊の仕方にはいろいろあり次のように分類・説明されます。

1.延性破壊・・・引張応力で形が変形して元に戻らなくなる塑性変形を伴う破壊形式
2.脆性破壊・・・ガラスなどのように、ほとんど塑性変形を生じないうちに起こる破壊形式
  a.劈開破壊・・・結晶の特定の面(劈開面)に沿って起こる破壊
  b.剪断破壊・・・結晶のすべり面に沿って起こる破壊

で、エンジンで関係してくる特性としましては
1.熱伝導性が良いこと
2.引張強さが大きいこと
3.剪断強さが優れていること
4.高温から急冷しても亀裂を生じないこと
5.生産コストが安くつくこと
などがあげられ、アルミ材の使用は軽量と言う点でも評価されます。

普通のアルミ合金より高温強度、耐摩耗性、剛性が優れているものは
アルフィン処理(アルミと鉄の合金層を持つアルミ+鉄材)されたものか、アルミ合金複合材料と呼ばれる材質です。
複合材料としては、
繊維状ボロンやグラファイト、粒子またはウイスカ状炭化ケイ素、アルミナなどのセラミックを使用し、
これらを圧接・粉末冶金・高圧鋳造法などによって複合化したものになります。
ウイスカに関してはこちらのホームページに詳しく出ています。(参照ページ:2-4無機性単結晶繊維から2-4-4まで)

ウイスカは理論強度が現実の実測値ときわめて近いため、グラスファイバー強化プラスチック(FRP)などで
ガラス繊維が使われているように、材料の大きさをミクロ化させることでその材料の内部や表面にある亀裂や
欠陥を少なくしていることになります。
 
引張強度の理論値と実測値との比較
物質 理論値(GPa) 実測値(GPa)
タングステン(W) 19.7 3.5
ニッケル(Ni) 11.3 0.63
α鉄(α−Fe) 10.5 0.35
銅(Cu)  5.6 0.28
鉛(Pb)  0.8 0.02
炭化ケイ素(SiC) 24.0 0.18
岩塩(NaCl)  2.5 0.098
石英ガラス(SiO  3.5 0.011
パイレックスガラス  3.5 0.007

実測値は大体、1/10から1/100ぐらい理論値より小さく、剪断変形に関する弾性係数を表す剛性率でも
剪断強度は実測値がはるかに小さいことがわかっています。
実測値と理論値の食い違いは、
1.亀裂型欠陥
2.結晶格子欠陥
の2つによると言われ、それらを促進する要因として、
・a.不純物混入
・b.化学的に活性な環境で原子間の結合が弱められる
・c.原子、分子の熱振動
があげられます。
このあたりの様相は何だかオイルの劣化に似ているので、物質が共通のパラメータを持っていることに
納得させられます。

1.の亀裂などは、包装用のビニール紙などに僅かな切り込みがあれば、簡単に
破ることが出来るように(ガラスを切る時のダイアモンドカッターなども同じ理由)、
力がそこの集中するためと言うことが比較的体感的にも判りやすく、
金属内部にも(もちろん表面にも)様々に亀裂がありますので、引っ張ったり、押したり、曲げたりする事で
そこから中心に亀裂が広がると言うことです。

2.結晶格子欠陥は結晶が三次元周期構造を持ち14種類に分けられる結晶格子の内のつながりの
結合力が弱くなる部分にあたるわけですが、勉強不足で説明できません。
結晶の規則性を妨げる点欠陥の空孔や格子間原子、線欠陥としての転位、面欠陥の積層欠陥などがあります。

材料内部に亀裂や格子欠陥をなくすため(?)の技術が合金をつくる際も使われていますが、
(転位の運動を阻害するという逆の発想らしい)
生産性やコストの問題からも、今のところ安価な金属を使った合金やウイスカを利用する方法が一般的のようです。

ウイスカを使用している箇所は部品全体であったり、補強が必要な箇所だけという部分的な場合だったり、
様々ですが、(窒化をする事でもそうなのですが、部分的な処理の方を現在は取っているようです)
マイルド摩耗の場合はウイスカの含有量に大きく影響を受け、
あまりウイスカの含有量が多くなると(22%以上)かえってウイスカ自体の脆性破壊とその摩耗粉による
アブレシブ摩耗のため、摩耗量は増加するという実験結果があります。
 
 
 

工事中


参考文献「ブル−バックス」b−1215講談社、「自動車用ピストン」山海堂、
「トライボロジスト」VOL.44/NO.6/1999



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